第六十一話 消えたコハク
「コハクー!!どこだ、どこにいるんだ……返事しろっ!」
エデンと手分けし、繁華街の人混みを掻き分け必死に探してみたが、コハクの姿はどこにも見当たらなかった。
途方に暮れ、道の真ん中で突っ立っていると、通行人と肩がぶつかってしまい軽く突き飛ばされ道の端に転んだ。
「おい、ボサッとしてんじゃねぇ!ったく」
「……」
冷たい言葉が容赦なく私に吐き捨てられる。
私は何も言い返さず、服についた土汚れさえも落とさないで静かに立ち上がった。
頭の中はそれどころでは無いのだ。
コハクの事でいっぱいで、それ以外は自然と遮断してしまっているのか何も頭に入ってこない。
心臓がドクドクと駆け足で脈打つ。
コハクからどこかに居なくなるなんて事は、これまでに一度もない……。
もしかしたら、さっきの混乱に乗じて誰かに連れ去られたのか?
じゃないと、コハクが私から離れるなんてこと……ありえない。
そうだとしたらどうしよう……!どうやって見つけるんだ?
この人混み……普通に探してたら絶対見つからないぞ……。
どうしよう……どうしよう……。
考えれば考えるほど頭は回らない。焦りと不安が勝り、私の思考回路は停止しかけている。
瞳に涙が溜まり、零れ落ちそうなのを必死に堪えていると、エデンがコハクの捜索から戻ってきた。が、その表情は決して明るくはなく、手掛かりも無い様子だ。
「すまないシロナ。あちこち探したんだが、見つからない……オレがここに連れ出したせいだな……本当にすまない」
エデンは責任を感じているのか、しきりに私に頭を下げた。
「私がいけないんだ。エデンは何も悪く無い、気にしないで」
「しかし……!」
「ほらっ、もしかしたら何処かの出店でおやつでも貰ってるのかもしれないし!もう一度手分けして探そう」
「シロナ……あぁ、分かった。じゃぁオレはこっちを探してみるよ」
「ありがとう、エデン」
涙を堪え、心配させまいと笑顔を作る。
再び手分けして探すことになったが、手がかりが無いことに変わりは無い。
困りながらしばらく一人で歩いていると、通行人が何やら噂話をしていたのが耳に入ってきた。
「聞いたかよオイ」
「何が?」
「また出たらしいぜ?裏道に」
「あぁ、あの指名手配の」
「そうそう、おっかねぇな〜」
「俺達も気をつけねぇと……」
裏道?
そうだ。まだ裏道を探してなかった!もしかしたらコハクもそこに……っ
嫌な胸騒ぎが全身を覆い、血の気が引いていくようだ。
私は大通りから外れ、人が横に並んで二人通れるくらいの細い裏道に入った。
最初は細かった道も奥に行けば行くほど幅が広くなり、陽の光が入りにくい暗い道がずっと続いている。
暗いせいもあるけど、裏道に入った途端人通りは全くなく、繁華街の賑わいとは真反対で少しここは不気味。
「人がいない……気配もない。まるで別世界だ」
「《……いや、奥に何人かいるな。気配を上手く消してるつもりなんだろうが、完全には消しきれてねェ》」
「えっ?!ロギそんなこと分かるのか?でも、何でわざわざ気配なんか消して……?」
「《んなこと知るかよ。…まぁ、大体んなこと奴は……》」
「──ッ!」
「《悪人だ》」
胸のザワつき、その嫌な予感は見事的中してしまう。
目の前の光景を……私は一瞬受け入れることが出来なかった。
人気の無い裏道に、突然黒い馬車が目に入った。荷台には幾つもの檻が積まれていて、そのうちの一つに白い毛並みのドラゴンが捕まっている。
見間違える筈がない。あれはコハクだ!
「コハク!!」
ガシャッと勢いよく檻に駆け寄り鉄格子を掴む。コハクは意識を失っているようで、ぐったりして全く動かない。
体には見たことのある鉄の鎖を付けられていた。
これは確か、ギルドに捕まった時に付けられた魔力を遮断される拘束具。
何で?!何でコハクが捕まってるんだ?!
こんなこと一体誰が……っ
と、とにかく周りに人の気配は無いし、今のうちに早く助け出さないと……!
「待ってろコハク!今出してあげるからな!」
「《オイ、罠かもしんねぇぞ!ここは一旦離れて隠れろ!》」
「でもほっとけない!このままじゃコハクが…っ!」
鍵の部分を何とか解錠しようと試みたけど、全くビクともしない。鍵の形状が見たことない形をしていて開け方が分からないのだ。
鍵穴も無いし、南京錠でも無い。文様が刻まれた四角いブロックが檻の扉についている。
もしかしたら、特殊な魔法で施錠されているのか?
くそっ!こうなったら檻ごと持ってここから逃げるしか……!
ゴッ!!
鈍い音が響く。
檻を持ち上げようと手を添えた時、突如頭に激痛が走った。
意識が薄れていく中、最後に目に映ったのは黒いローブにフードを被ったヒトが二人。
一人は高身長で狐の仮面を被っている、そしてもう一人は小柄で鬼の仮面。
残念ながら、顔は見えなかった。
「……あ、あん…た等……だ……れ……」
コハクの入っている檻に覆いかぶさった状態で倒れ、私の意識はそこで途絶えた。
先端部分に、大きな魔石がはめ込まれている木製の杖を持った高身長の男が、シロナの髪を鷲掴みしそのまま上に持ち上げる。
「おやおや、ネズミが一匹悪さをしていると思ったら……。珍しい灰色の髪、これはレアものじゃないですカ」
「先輩、この娘…普通の人間じゃないデス。複数の魔力を感じるデス」
「そ〜ですネ、人並外れた高い魔力……顔の火傷が勿体無いけど、コレはきっと高く売れるに違いなァイ。さ、早く積むのです。戻りまァすヨ」
「了解」
小柄な体には見合わない怪力で、シロナを抱え上げるとそのまま荷台へ放り投げた。
荷台を覆いかぶせてある黒い布をしっかり閉じて、二人は前の方へ座り長身の男が手綱を握る。
「さぁ、今夜の舞台に遅れてしまァうヨ。早く帰りますヨ」
「だらだらしてたのは先輩デス。ボスに叱られても僕は絶対庇わないから」
「んまぁ可愛くない後輩でェすネ」
馬車は裏道から大通りへ向けて走り出す。
その頃、エデンはまだ繁華街付近を捜索していたが、コハクを見つけられず途方に暮れていた。
「このまま見つからなければ、ギルド本部へ一度戻って人手を増やそうか」と考えていた矢先だった。
十字路に差し掛かった時、猛スピードで黒い馬車が目の前を横切って行く。
「な…っ!あれは!!」
毎日勤務前には必ず手配書を確認しているエデンにはすぐ分かった。
あれは、長年誰も捕まえることが出来なかった悪人組織の馬車。
「ノワール・フォッグ!!」
エデンはすぐに後を追いかけたが、走って追いつけるはずも無く途中で見失ってしまう。
「はぁっはぁっ……くそ、逃した!仕方ない、すぐギルド要請して包囲網を張るぞ。アミー、本部まで飛んでくれ」
エデンの中に戻っていたアミーだったが、再びその姿を現し、馬車が走り去った方角を眺めて言った。
「ん〜それはいいんだけどね〜。エデンちょっとヤバイかもよ?」
「?」
「なんとな〜く感じ取れたんだけどさ、さっきの馬車……あれ、ロギアンの器も乗ってたっぽいよ?ついでに子ドラゴンも一緒」
「何だと?!」
アミーから信じられない事実が告げられ、困惑するエデン。
苦い表情をしていると、背後に気配を感じ振り返った。そこには、息を切らし、額に汗を流しているルークが立っていた。




