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灰色ノ魔女  作者: マメ電9
第三章 隣国 ユスティーツ編
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第六十話 火の悪魔アミー

アミーと名乗る悪魔はゆらゆらと燃える長い尻尾を揺らし、そのままエデンの肩の上にゆっくり着地した。

頬杖をついて私を見ているけど視線が合わない……。



「久しぶりだねーロギちゅわ〜ん!もう何百年ぶりだろうーね?元気してた?ん?ん?」



·····え?


え??


えっ???

何?!この悪魔、ロギと知り合いだったのか?!聞いてないぞ?!



(おい!一体どう言う事なんだっ)



完全に外方を向くロギは、《こいつにだけは会いたくなかった》と言う思いが体から滲み出ていて固く口を噤み返事を返さない。



(おいってば!こらっ無視するな‼︎)


《……》



こんなにロギが嫌がるのはモノンくらいだと思っていたけど……同じくらいの嫌がり方だ。



「ロギ…?シロナの精霊の名前か?何だ、お前に交友関係があったのか」


「そうそうマブダチ〜。あの時のあたいはフリーランスだったし、ロギちゃんも別の人間に憑いてたけど……なぁにあの子、もしかして死んじゃった⁇」



あの子……?

何の話だ?


アミーが話しかけてもロギは黙ったままで、答える気も全く感じられない。

小さくチッ、と舌打ちが聞こえたけどアミーは構わずペラペラと喋り続けた。


というかアミーはロギの声や姿が見えているのか⁇

私の精神世界を覗けている?

そんな事できる奴がいるのか?



「あっはー☆シカトされちゃった──!あたい悲しいなぁ〜。そんでもって人間さん、その疑問だけど超常識的なことなんですけど〜!もしかしてアンタってバカなの?っぷ────‼︎超ウケる────!」



エデンの肩の上でケラケラと腹を抱えながら笑うその姿に、だんだん嫌悪感が芽生えてきた。

ダメだ、ロギの気持ちが分かる……。


私もこいつ嫌いだ……っ‼︎‼︎



「あらぁ、人間さんにも嫌われちゃった?んもー皆んなしてあたいをイジメてくるじゃん。いじけちゃ〜う、エデン!アンタあたいを慰めなさいよっ」


「……はぁ。いい加減黙ってくれないか、耳元でキンキン五月蝿い」



流石エデンだ。あしらい方が上手い。

って、そうじゃなくて!私の心まで見抜いてきたぞ?!

どうなっているんだ?!


あり得ない出来事に軽く恐怖を憶える。すると今度はちゃんと私と目を合わせて解説してくれた。



「とんだ世間知らずさんねアンタ。いいよ、教えてあげる!あたい達悪魔は人の生命力を吸って生きてるって聞いたよね?その時実は生命エネルギーと一緒に気力も頂戴してるの。つまり心のエネルギーね?分かる──?

心に簡単に接触できるあたい達はオマケで心の中も覗けるってわーけ!ようするに何でもお見通しなのよ。

だぁからそいつが嘘ついてるとかが一発で分かるってわけよ!ふっふん!お分かり────⁇」



悪魔アミーは相手を見下したような、バカにしたような、癇に障るような喋り方をするのでイライラが募った私は心の中で思わず


(こいつ腹立つ〜)


と呟いてしまい



「んまぁっ。ヒトに教わっといて何このガキンチョ!教育なってないんじゃな〜い?」


「……」


案の定見透かされてしまった。



私をおちょくるアミーにエデンが軽く頭を小突くと、アミーは大袈裟にイッタ─い!と声を荒げて頭を押さえている。



「もうその辺にしろよ。シロナが困ってるだろ?……すまないなシロナ、悪気は無いんだ…許してやって」


「いやいやっ!別に私は大丈夫だ!……でもよくこんな悪魔と契約する気になったな……私だったら絶対に嫌だ」



包み隠さず拒絶する私の言葉にエデンはふっと微笑みを浮かべた。



「お前は自分の心に素直な奴だな。さっきの尋問の時もそうだったけど心に濁りが無い、こんな人は久しぶりだ」


「ん、そういえばエデンも嘘が見抜けるって言ってたけど、あれって……」


「アミーの能力だな…オレにも少し恩恵があるみたいで嘘をついている時の心の変化を感じ取るくらいは出来るんだ。ただアミーみたいに完全に読み取るのは不可能なんだけど」



なるほど……それであの時私の話を信じてくれたのか。これでやっと納得だ。



「一応この国で禁忌を犯した者は牢屋行きなんだけど、国王の計らいでオレはギルドに所属しこの街を護らせてもらっている。今じゃ実力を認めてもらってギルマスなんて席に座ってるが……ここまで来るのに色々あって大変だったんだ。

周りにはオレのように憑き者なんていないし……だからシロナが精霊憑きっての聞いて少し嬉しかった。お前の話、よかったらオレに聞かせてくれないか?出来れば……その、友として」



優しく微笑み手を伸ばすエデン。頬を薄く赤らめ、少し照れた表情の彼女。


なぜ、命を削ってまで悪魔と契約したのかは分からないけど……きっと、他人には言えない辛い過去があるのだろう。

流石の私もそこまで無理にズカズカと聞く勇気は無い。

でも似たような境遇者同士、支えあう事は出来る。


今はそれだけで十分だ。



伸ばされた手をとり握手を交わすと、私は満面の笑みで応えた。



「うん!もちろんだ!」




私とエデンが容疑者とギルマスの関係から友人関係になった時、それを傍でアミーはどことなく嬉しそうに眺めていたが、私と目が合うとすぐに逸らして背を向けた。






──その後私達は街を散策した。


大理石で作られている大きな噴水に、多くの人々で賑わった繁華街、鋼で繊細に細工された商品。この街はこう言った工芸品が盛んで、職人がそれぞれの技術や個性、センスを競い合い商売をしている。

エデンのような義手以外にも鍋や武器、他にはアクセサリーなんかもあってそのラインナップは幅広い。


なぜこれほどに鉄や鋼細工が盛んなのかというと、<ユスティーツ>の南にある火山国<クラカーノ>は鉄鉱石が豊富に取れる山が多く、商人が格安で鉄鉱石を輸入してくるらしいのだ。

その代わりにこの国で作った鋼細工を輸出しているそう。

いい素材が集まるこの国は、職人を目指す人間や魔物が一人前になるために修行しに移住する者が後を絶たない。



あ、そうだ。ポルクたちに何かお土産を買って帰ろう!


そう思い立った私は多々ある内の一つの出店に立ち寄り、鋼細工でできたキーホルダーなどを物色していると、肩に乗っているコハクが突如体を震わせ後ろ足で掻き始めた。

こんな行動は今まで見た事が無い。

全身が痒いようで、後ろ足を使ったり角や舌で掻きむしる。


ぎょっとした私は流石に心配になり、声を掛けた。



「どうし…──」 ドドドドドド‼︎‼︎



その時、突然の地鳴らしが私の声を掻き消すと、賑わっていた繁華街はパニックに陥った。


根源となっているものは、納品に来ていたであろう荷車を引いた馬だったが、何かの拍子で驚き暴れまわってしまっているみたいだ。

馬の持ち主が大きな声で「誰か止めてくれぇ‼︎」と叫んでいるが、そんなの無茶な話。


馬は誰も寄せ付けられないくらい暴れていて、安易に近づくと大変な怪我を負い兼ねない。

買い物客は、我先にと逃げようとして大混雑状態。



ヒヒヒィィン‼︎‼︎と馬の声が轟く。


これは誰かが止めないと!


「!?、危ない!!」


馬が前足をあげて地面を踏みつけようとしていた。でもその下には逃げ遅れた子供が恐怖で足がすくみ動けなくなっている。

それに気づいた私はすかさず馬の元へ翔び子供に覆いかぶさった。


エデンも子供に気付いていたが、一瞬で移動した私に戸惑っている。


瞬時に脚を魔装し、脚力をあげたのだ。


でもヤバイ……勢いよく飛び出したものの、ここからどうするのか考えてなかった…!



《クッソ‼︎馬鹿野郎が‼︎‼︎》


ロギの罵声が降りかかるが何も言い返せない。


そうですね……私の悪い癖ですね……っ



「シロナっ!!」


「はぁ〜しょうがない人の子だねぇ〜!さてさて、あたいの出番かしら?」


「アミー頼む!」


「今日だけだからね」


エデンは馬の顔に向かって、思いっきり持っていた剣を投げつけた。

見事命中させると馬は怯み、下ろした前足はシロナと子供をギリギリ踏みつけず地面に着く。

隙を見つけてシロナは子供を抱きかかえ脱出する。


アミーは馬の上空まで飛ぶと炎を呼び出し、馬の周りを火で囲った。


馬は逃げ場をなくした事でやっと暴走は収まってその場に制止し、持ち主の男が駆け寄ってきた。馬を男に引き渡し、子供も怪我がないのを確認して親の元へ帰らせた。



こういった事件はよくあるらしく、エデンは対処に慣れていてその場は収束に至り、おかげで元の賑やかな繁華街に戻ったところで、道の端の方で立っている私の元にエデンが走ってきた。



「お前急に飛び出すから驚いたぞ!大丈夫か?怪我は?」


「ごっ、ごめん。勝手に体が動いちゃって……エデンこそ何ともないか?」


「オレも大丈夫だ」


「そっか、助けてくれてありがとう。アミーもありがとな」


「あ、あたいはただの気まぐれでしただけ。勘違いしないでよね」



まさかお礼を言われるとは思っていなかったアミーは、顔を赤くしてそのまま姿を消してしまった。エデンの中に戻ったようだ。

案外かわいい悪魔だったな、とクスクス笑う。


「あれ?シロナ、子ドラゴンはどうした?」


「え?」


エデンの発言でやっと気付いた。


さっきまで一緒にいたはずのコハクがいない。

あたりを見回しても、その姿を確認するとができず、焦りから心臓がドクドクと早く打つのが胸に手を当てずとも分かる。



「コハク……?」



嫌な汗が頬を伝い、コハクを呼ぶ私の声は虚しくもコハクには届かなかった。







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