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灰色ノ魔女  作者: マメ電9
第三章 隣国 ユスティーツ編
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第五十九話 秘密

ギルマスのエデンに連れられて、私たちは街の中を歩いていた。


見慣れない景色、全てが新鮮。

地面にはお洒落なタイルが敷き詰められており建物も都会的だ。魔物の国とは雰囲気が全く違う。

コハクも行き交う馬車や人、魔物に驚いているのか私の肩の上で固まっている。


辺りをキョロキョロしながらエデンの後を付いて歩いた。



「…‥外国は初めてなのか?」


「え?」


エデンに問いかけられて初めて気がつく。


周りの人達は建物の上を眺めて歩いたり、地面やお店をキョロキョロと見渡すなどという事は一切していない。

田舎者丸出しの動きをしているのは私一人くらいだ。



私は立ち止まってそれを必死に誤魔化すために、壁に貼られた張り紙を見つけて


「違うぞ!私はこれ、そう!この張り紙は何だろうなと思って見ていただけだぞっ」


と、明らかに焦りながら弁解をするがエデンにそんな嘘は通じる訳が無い。

けどエデンは騙されたフリをして私が指差した張り紙に視線を移した。


その張り紙はよく見ると、同じものがあちこちに掲示されている。

どうやら指名手配の張り紙みたいだ。

それに描かれているのは人物ではなく、黒い馬車で賞金額は何と2千万デイル。


大きな家を建てれる程の金額だ。



「あぁ、その張り紙の馬車は神出鬼没なのに長年誰も捕まえる事が出来ない悪党だ。最近もこの辺りで目撃されているんだが逃げられてばかりでな‥‥」


「長年って‥‥一体何をしたんだ?」


「‥‥奴らは《ノワール・フォッグ》人や魔物を攫って闇競売にかける組織だ。頻繁に国を渡り拠点を移動するから中々尻尾を掴めない‥‥この国での行方不明者も徐々に増えて来ているから、お前も気をつけなよ」



都会は怖い所だから気をつけろよ田舎民と言いたげにフッと笑みを浮かべる。

それが何だか突然恥ずかしくなり、顔が熱くなって俯く。


エデンは私の反応を見るなりクスクスと笑いながら私の肩に左手を置いた。




カチャッ



彼女の手から無機物な音がした。


長袖に革手袋をつけていたから見た目では分からないけど‥‥。

肩に置かれた左手は生身にしては硬すぎで、鉄が擦れる音と重みがズシっと乗っかる。


そういえば歩く時も微かに鉄の音が聞こえていた。もしかしてこの人、腕と足が義手義足なのか?



「ふふふ、悪いつい苛めたくなって……

折角だからこの辺を案内しながら少し話がしたいな。お前のさっきの話し‥‥すごく興味深い」



ギルドに何も言わず置いて来てしまったルーク達が少し心配になったけど、街を案内してくれるのは嬉しいし私もこの人の事が気になっていた。


国外で初めて会った時、この人から異様な魔力を感じていたからだ‥‥。でもそれが何なのかハッキリと分からなかった。

多分だけど、この人の中にもロギの様な何か別の存在を感じる。


すると黙り込んでいたロギが漸く話しかけて来た。



「《気付きやがったかシロナ》」



頭に直接語りかけるロギに私も声を発さず心の中で会話をする。

そうじゃないと私が独り言をブツブツ言っていると思われてしまうからな!

流石に恥ずかしい。



(ロギ?良かった、ずっと黙ってるからまだ魔力遮断されてるのかと思ったぞ)


「《うるせぇ。俺があんなちんけな道具に縛られるとでも思ったか…それよりこの娘だ……》」


(うん……何かいる。精霊かな)


「《いや、違うな…もっと別のヤベェ類のもんだ》」



ロギよりヤバいやつって何なんだ??

もしかして、その腕と何か関係があったりするんだろうか?



「ん、どうした?」



私が黙り込み、ジーッとエデンの方を見つめていたので心配になったのか顔を覗き込んできた。


この人は私の言う事も信じてくれた。もしかしたら私と同じ様な境遇の人かもしれない。

それに…‥レイナ。


母さんの事も何か知っているかも……。



「あ、あのギルマスさん‥‥?」


「エデンで構わないよ。そういえばお前の名前」


「私はシロナ。あの‥‥さっきから気になってることがるんだけど、……その腕」



恐る恐る腕を指差すとエデンは


「あぁ」


と呟きながら長袖を捲りあげて、その銀色に輝く鎧の様な義手を見せた。


「綺麗…!」


太陽に反射した光が私の顔にかかる。この国の独自技術で腕の立つ職人が作り上げたものなのか、その義手の縁には精密で美しい彫刻がなされていた。

きっとアイゼンがこれを見たら満面の笑みで飛びつくんだろうな…。



「この義手はギルド専門医が作ってくれたんだ」


「医者?医者がこんなもの作れるのか?!」


「まぁ多分どこを探してもこんなのを作れる医者はそいつだけだろうけどな。こういうの好きなんだよ、変わってんだろ?

オレが腕と足を失くして困ってる時に助けてくれたんだ………まぁ自業自得なんだけど」



表情を曇らせて腕をさする彼女に、私は深呼吸をし思い切って質問をぶつけてみる。



「エデン……もしかしてソレ、あんたの中にいる奴と何か関係あるのか?」


「……へぇ、お前気付いてたのかコレのこと」



右手の親指を立て、そのまま胸にトンと当てる。



やっぱり何かいるんだ。



「そうだな、お前も重大な秘密を教えてくれたんだ……オレも特別お前だけに明かそう。

確かにお前が言うようにオレの中にも存在してる。でもシロナが思ってる様な奴じゃない」



立ち止まっていた歩みを再開し、ゆっくり歩きながら語り始めたエデンの後を私も歩く。



「魔法使いと精霊術師の違いは分かるか?魔法使いは自分の魔力を代償に精霊から力を借りるんだ、けど精霊術師は違う。

精霊術師は特定の精霊を身体に宿し力を得るが、その代わり精霊に体を乗っ取られる…その理由は自分の魔力を精霊が奪い己の色に染めてしまうかららしい。

だから精神と体をいつの間にか乗っ取られるから精霊術師は禁忌とされ大昔に排除された。


……それともう一つ禁忌とされた術がある」



もう一つ?



「……魔術師。又の名を悪魔憑きと呼ばれる」


「あ、悪魔?!」


「《悪魔憑きか……とんでもねぇもんに手ェ出しやがったな、この娘》」



初めて聞いた。悪魔って何だ?


村に住んでた時は魔物とか魔獣が危ない存在で、私たちに力を貸してくれている存在が精霊又は微精霊としか教えて貰ったことが無かった。



「悪魔って、精霊とはまた違うものなのか?」


「あぁ全く違う。精霊はマナを吸収して生きている、でも悪魔は人や魔物の生命力を吸い取って生きてる。オレはその悪魔と契約して力を得た。

自分の命と引き換えに……だからオレ、こう見えてあまり長生きできないんだ」


「そんな……っ!何でそんな契約をしたんだ?!そうまでしてどうして力なんかを……っ」




「……」




エデンは一度眉を顰め瞼を閉じると、何処か遠くを見つめて絞り出す様にポツリと言葉を零す。







「復讐の為だよ」







その目に見覚えがある。


瞳の奥底から淀みメラメラと燃える燻んだ色。あの時の狼の魔物や、スカーレットが闘技場で私に向けていた目だ。


憎しみ、恨み、怒り、悲しみが混ざった感情がそのまま瞳に写っている。



復讐なんて………そんなもの何も生み出さない。

虚しさだけが残るだけだ。



「そんなことだけの為に……」



《そんなこと》の言葉にエデンは腹を立てたのか鋭い目つきで私を睨みつける。

蛇に睨まれたネズミみたいに背中が凍りついて動けなくなったが、全く知らない声が凍りついた空気を一瞬で溶かした。



「ぷぷぷぷ!だよね──!こいつヴワァ──カだよねー!!あたい笑っちゃうっぷっぷっぷーっ」


「???」



突然の高めの声に私とコハクは驚いて身構える。しかし、エデンだけ冷静で呆れ気味にため息をつくとエデンの頭の上の空間がぐにゃっと歪み何かが現れる。

歪んた空間から燃える様な赤い髪の妖精が飛び出てきた。サイズ感はコハクより少し小さいくらい。

長い尻尾を持っていて先っぽは火が灯っている。


逆立った赤い髪に長く尖った耳。

手足は煤黒く爪は鋭い。


小柄で可愛いのに、その見た目は少し怖い印象だ。

もしかして、これが悪魔?



「おい、勝手に出てくるなと言っているだろう」


「何言ってんのさ、どうせあたいの事この人間に教えるつもりだったんでしょう?今出てこようが後で出てこようが一緒じゃないのよー。ね!精霊憑きさん。

憑き者同士、仲良くしようじゃないの。良かったらアンタの生命力も吸わせてもらってもいいんだよ?」



私に向かってニヤリと不気味な笑みを浮かべると、ロギが私の中でかなり怒ってるのが分かった。

嫌〜なモヤモヤを放ちまくっている……かなり不機嫌な様子だ。



「あはっ!怒った怒った〜!ゴッメンね〜。ぷぷぷぷー!」



何だろう……この喋り方。私までちょっとイライラしてきたぞ。



「すまんな。こういう奴なんだ……特に相手にしなくていい、まともに相手すると疲れるから」



エデンは慣れているのか適当に遇らう。

戸惑いを隠せぬまま訊ねる。



「エデン……この生き物は……?」



問いかけに答えようと口を開くが、それを遮って本人が自己紹介を始めた。



「はいっはーい!この子がどうしてもって言うから契約してあげたやっさしい悪魔ちゃん。

アミーだよ。よろしくね!」



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