第五十八話 側近ゼシエ
「ヘイド〜」
「何やゼシエ。今俺は忙しいんやぁ、遊んで欲しいとかは無理なお願いやでぇ〜」
ユスティーツを収めている国王ヘイド。
まだ見た目は20代と若く、オレンジ髪で褐色肌の彼はこの世界ではあまり聞きなれない関西弁で16歳くらいの娘と会話している。
娘は桃色の短めな髪を無造作に後ろで一つに束ねていて、朱色の長いリボンがぴょんぴょんと飛び跳ねて動くたびにヒラヒラと揺れていた。
国王ヘイドの左もみあげは三つ編みされていて、お揃いなのかゼシエの右もみあげにも同じように三つ編みされている。
国王専用の、だだっ広い部屋に沢山の本棚があって壁には高級そうな骨董品や武器、絵画などが飾られていた。
床に敷かれている絨毯も高そうだが、ゼシエはそんなのお構いなしにズカズカと歩く。
「んも〜!ちっがうし!!ウチもぉそんな子供違うから。それより下町でチラッと聞いた話なんだけどさ!!」
「手短に話してや〜。俺は早よこの書類片付けて子犬ちゃんを迎える準備せなあかんのやから」
「うん。その子犬ちゃんなんだけどね‥‥‥‥捕まっちゃってるらしいよ?ギルドに」
「‥‥‥‥‥え?」
ギルドに怪しい魔物の一行が捕まっている。
噂はギルドの連中から城の衛兵に伝わり、ゼシエの耳に入ってきた。
「マズイ!あかんでそれ!!エデンちゃん魔物には手厳しいから何するか分からへんっ。ゼシエ、早よ行って助けてやってや!」
「はーい。承知の助〜」
ヘイドは慌ててゼシエをギルド本部に送り出す。
命を受けたゼシエは城の窓から飛び降りて、軽い身のこなしで屋根を走っていく。
屋根伝いにギルド本部へ向かうその姿は、まるで忍者のようだった。
☆
一方その頃ルーク達はというと、未だに牢屋の中で過ごしていた。
牢の中で口笛を吹いて余裕な態度をとっているレヴォルに対し、ルークは凄い剣幕で警備員を睨みつけている。
シロナが連れて行かれてから一時間が経とうとしていた。時計の針が刻々と進むにつれてルークの表情も険しくなっていく。
「ルークく〜ん、そぉんな怖い顔しなくたって大丈夫だってば〜。ほら、さっきコハクが連れて行かれただろ?きっとシロナが上手くやってくれたんだって‥‥心配しなくたって直ぐにオレ達も外に出られるよ」
「…‥‥」
そんな会話をしていると奥の部屋から一人ギルド員が駆け足でやってきた。
ギルド員は先ほどギスマスから受けた命令を伝言しにきたのだが、それに対し牢屋を見張っている警備員は動揺している様子。
「嘘だろ…‥だってこいつら明らか怪しいじゃないか。何でそんな直ぐ解放だなんて。どういう事だよ」
「ンなの俺が聞きてェよ。しかもギルマスはさっき娘と出掛けちまったし確認の取りようも無いしな」
「え〜…‥。どうする?マジでいいのか?」
「俺に聞くなよっ」
ゴチャゴチャと揉めている様子を眺める事にかできないルークとレヴォル。
出れるのか?
出れないのか?
ハッキリしない現状に更にルークはイライラを募らせる。
その時
「頼も────────!」
バンッと勢いよく開く扉。
左腰に手を当て、右手を前に突き出し満面の笑みの少女。
高めの可愛らしい声が牢に響き渡った。
声はとても通りがよく、その場にいた全員の視線を集めるとギルド員達は一斉に頭を下げた。
「ゼシエ様っ!!」
「ゼシエ様どうしてこんな所へ…‥っ?!」
ゼシエはこう見えて国王の専属側近。
国中の人がゼシエの事を知っており、またその活発で愛嬌溢れる性格は皆に好かれていた。
「へぇ。あのお嬢さんが側近の‥‥。シロナちゃんより三つ程年上ってところかな〜?」
「ゼシエ…‥‥聞いたことがあるような…‥‥‥」
レヴォルは支部長との関係もありこの国と交流が多少あり、最低の情報は頭にあったようだ。
ルークもこの国には何かいか来た事があり、ゼシエという名も耳に入れたことがあるような気がしたが中々思い出すことができず難しい顔をする。
するとゼシエはギルド員たちを相手にせず、真っ先にルーク達が収容されている牢の前に行き仁王立ちで俺を見下ろした。
「どうしてもこうしてもないよっ!ウチらのお客さんをこんな扱いしちゃってさー。ホンマ困るなぁ」
「お、お客??!!この余所者達がですか??」
「そうよー?ほら、ぼーっとしとらんと早く鍵!鍵貸して!カーギー!!」
「え、あ、えと。た、ただいま!」
まさに鶴の一声。
展開は一変しギルド員たちがバタバタと騒ぎ鍵庫室へと走っていく。
「はぁ全く……。ワンちゃん等が捕まったって聞いてびっくりしたよぉ。ヘイドも目ん玉飛び出すほど仰天しとったよ?何でこんなことになったんよルーくん」
「……………」
馴れ馴れしく喋りかけてくる少女。
けど俺はこの娘と面識は無い。
誰だこいつ?
と露骨に表情に出しながら娘を見つめる。
すると意図に気づいたのかゼシエはハッとさせた。
「あ!!もしかしてウチのこと忘れとる?!うっそ──────!折角助けてあげたのにないわぁルーくん!!」
「………俺と会ったことあるか?」
「あるある!チョーあるから?!え、覚えてへん?昔うちに納品来てたやん!お城にお父さんと一緒で!」
口元に手を当てて、目線を落とし過去を遡る。
そう、シロナには黙っていたが今回の納品先は城だ。
前国王と親父は昔からの付き合いで、度々納品に俺も付いて来ていた。
息子のヘイド王子とはその頃から友人関係で今も交流は続いている。
しかし、その時このような娘はいなかった筈だ。会った覚えも、遊んだ覚えもない…………。
前国王の子供もヘイド王子一人だったし………。
いや……待てよ。そういえばあの頃大人に混じって一人女の子が武稽古をしていたのを見かけたことがる。
膝を擦りむいて痛そうにしていたから、俺が初めて作った傷薬を塗ってあげたっけ……?
名前は覚えてないし、特にそれ以外でも関わりは無かったが……その頃会った娘で年齢的にはその子に間違いないはず。
自信は無かったが、試しに聞いてみる事にした俺は再び娘と目を合わせた。
「もしかして、子供の頃傷薬を塗った娘か?」
俺の回答を待ってました!と言わんばかりに娘は身を乗り出し鉄格子に噛り付いてピョンピョン飛び跳ねる。
「当たり当たり〜〜!!なんだ覚えてくれてんじゃ────ん!もぉ意地が悪いなぁ」
「あの一度きりしか会ってないだろ。よく覚えてたな」
「ヘイドの友人なら全員知っとるよぉ。ヘイドの友人はウチの友人でもあるからなぁ!」
ニカっと笑う娘の背後に先ほど鍵庫に行ったギルド員が戻って来て鍵を手渡す。
鍵は二重にロックされており、一つ一つ別々の鍵を解錠していく。
二人の会話を聞いていたレヴォルはニヤつきながらルークに話しかけて来た。
「へぇ。ルークくんこんな可愛い子と交流があったんだねぇ……全くシロナちゃんという子がいながら〜」
俺はこのヒトのニヤついた表情が嫌いだ。
なんか無性に腹が立つ。イライラする。
何で一々シロナを出してくるのか。
このヒトの考えや意図が全く理解できない。
先生と少しその部分が似ている気がすると思ったけど、それを口にすると先生と比べて先生に失礼と思い止めた。
結果俺は、無視する事にした。
それが一番楽だ。
第一面倒臭い。
「え〜、ちょっと無視?オレ傷つくなぁ」
そうこうしているうちに解錠作業が終わり、牢の扉がギィィィと錆びた鉄の音を立てて開いた。
手錠も一緒に外してもらい漸く俺たちは外に出る事が出来たのだった。




