第五十六話 重なる紅と黒
「凄い!凄いぞルーク!!これが外国なんだな‥‥‥っ。こんな沢山の人と魔物が普通に接してるぞ!」
小窓から顔を覗かせ目をキラキラさせている私をルークは何も言わずに見つめていた。
その表情は柔らかく、どこか嬉しげな気がする。
「そういう国だからな。他には無い中立地帯だ、ここではあのローブも着る必要はないだろう」
「あぁ!ローブ!‥‥って私は人間だぞっ?!アレは魔物の目を欺くものだろ?私よりルークの方が気をつけないと駄目な立場になるんじゃないのか?」
「心配ない。俺はハーフだから人間の街に行く時はこの耳さえ隠してしまえば問題ないはず‥‥帽子でも被るさ」
「帽子‥‥ルーク似合わなそうだな」
「ほぉ。そんな事言うならもう支えてやらないぞ」
「えっ」
するとルークは有言実行し支えていた足を緩めた。
おかげで私はバランスを崩し、馬車の激しい揺れと同時にルークの方へ盛大に転んでしまった。
ルークを押し倒す形で
「痛った──────っ!!な、何するんだ?!危ないだろ!」
「シロナが一言多いからだ」
「なっ!?一言多いのはいっつもルークの方だろっ」
「俺は正論しか言ってない。それより早く退け、背中が痛い。体重増えたんじゃないか?」
「うっっっ??!うるさい!!バカ‥‥っ!!!!そういうのが一言多いって言ってるんだ!!」
捕まっている立場というのに、相変わらずの騒がしいやり取り。
それを後ろでニヤニヤして観察するレヴォル
「(これでお互い自覚が無いんだからなぁ‥‥。はは、全く焦れったいねぇ〜)」
ギャーギャーと騒いでいると馬車は停車し、荷台の扉が開かれ光が差し込んだ。
扉を開けたのはギルマスで、口元をへの字に曲げ眉間にしわを寄せている。
まぁ無理もないか。
捕まえられた人は普通不安とか恐怖で大人しくしているものだろうけど‥‥私達は普段通りに余裕をかましているんだ。
この人達からすれば面白くないはず。
「降りろ」
ギルマスは不機嫌にただ一言吐き捨てる。
レヴォルから順番に鎖で繋がれて荷台から降ろされ、初めての外国の地に足をついた。
馬車は【ギルド本部】と書かれた建物の前で止まっており、建物は全部石材で作られている。
ここがギルド‥‥
なんか騎士団と少し似てる気がする。
人間版ってところなのかなぁ。
そういえばギルマスって人も何処と無くスカーレットに似ている気もするし‥‥
アレかなぁ‥‥またスカーレットみたいに、戦え!とか無茶な事言われたりするのだろうか
それだけはもう勘弁してほしい‥‥!!
そんな事を考えながら私は建物のある事に気付いた。
古い建物なのだろうか、石壁には蔦が張り巡っていて石に所々ヒビが入っていたり、一部崩落している。
来る時に馬車から覗いて思ったけど、街は基本的に綺麗で人も多く賑わっているように見えた。
でも建物の至る所が壊れていたり、地面が抉れていたりと通行止になっている道もある。
ギルマスの人が言っていたように、本当に襲撃があったんだ。
一体どれだけの被害を受けたのだろうか‥‥。
思い出したくもないけど、あの恐ろしい凶暴魔物はどれだけの数で襲って来たのだろう。
国境を越えて突然前触れも無く現れる敵。
困っているのは魔物だけじゃない、人間にもこうして被害が出てる。
魔物も人も守りたい。
私のその願いを、もしかしたらスカーレットは叶えようとして私にこのお使いを頼んだんじゃないのか。
それか私を‥‥試している?
本当はどう考えているのか、私には分からないけれど‥‥今はやれる事をやるしかないな!
建物を眺めながら考え込み突っ立っていると
「止まるな。さっさと歩け!」
と言って下っ端ギルドの男が乱暴にグイッと鎖を引っ張る。
小柄な華奢な体のため、勢いよく引っ張られると一気に体勢を崩す。
イラっとした私は下っ端の男に楯突いた。
「痛っ、そんな無理矢理しなくても歩けるぞ!」
「うるさい魔物の分際で!大人しく付いて来い」
「ま、魔物?!」
は?
こいつ何を言って‥?!
「私は人間だぞ?!ってかどこからどう見てもそうだろ?!バカなのかあんたっ」
ギルドの下っ端の言葉に動転し、私は思わずバカと罵ってしまった。
しかし、更なる驚きの発言が
「人間〜?ハハハハハ!冗談だろ〜?そんな灰色の髪の人間は居ないし、まず魔物と行動を共にしている人間なんて聞いた事ない。
俺を騙そうったってそうはいかないぜお嬢ちゃん?ハハハハハ!!」
「な‥‥っ?!」
衝撃的発言。
私はこの髪色になってからはずっと外の世界とは遮断されていたから、髪色の常識など一切知らない。
魔物の国では珍しがられたけど‥‥‥まさか人間の世界ではそんな風に思われる事になるなんて‥‥っ
確かにギルドの前を歩いていると周りの視線が痛い気がする。
それは捕まっているこの状況と、ルークやレヴォルのせいだと思っていたけど。
先程の下っ端の話を聞いた後からだとどうしてもその視線は私に向けられている気がしてならない。
灰色の髪、ついでに目立つこの顔の火傷。
今までそこまで気にしないようにして来たけど、今私はひどくこの姿を隠したくて仕方ない気持ちに襲われた。
でも拘束されているためそれも叶わず、顔を下に向けて歩くことしか出来なかった。
ギルマスたちは何故か正面扉からは入らず、壁沿いを伝って歩かされ鉄格子で出来た裏の扉から中に連れて行かれた。
「ん?」
その際建物の隙間から大通りが見えるのだが、レヴォルが足を止めてジッと大通りを見つめた。
「(アレは‥‥‥)」
しばらく目を離せず立ち止まっていると背後から「早く歩け」と下っ端に急かされる。
再び歩き出すもレヴォルの目線はずっと大通りに向けられていて、その瞳には漆黒色の馬車が映されていた。
鉄格子の扉からギルド内に入ると、上半身裸でムキムキの大男が私の身長を遥かに超える程のデカイ斧を片手に持ち廊下に立っている。
大男の背後の部屋はいくつもあって、どの部屋も牢獄仕様になっておりいくつかの牢屋は既に誰かが入っている状態だ。
多分、何か悪い事をしてギルドに捕まった人たちなのだろう。
大男はギルマスが入ってきたことに気づくと背筋を伸ばし直して姿勢を正した。
「マスター!おかえりなさいませ!」
「ご苦労様。不在中変わりなかったか?」
「はい。警備中問題ありませんでした‥‥‥で、その後ろの連中は?」
「ここの新入りだ。まだ罪人確定では無いが、気を抜かず監視を頼むぞ」
「お任せください」
ギルマスと監視員の会話が終わるとルークとレヴォルとコハクが空いている牢屋の中に放り込まれた。
最後に私も中に入れられようとした時、ギルマスが「ちょっと待て」と言って止める。
「お前、確か私が街が奇襲を受けたと話した時反応していたな」
「え、えっと‥‥」
心臓がドキッとした。
やっぱりあの時聞こえてたんだ!!
コハクぐらいしか聞こえないボリュームだったはずなのにっ
この人すごい地獄耳。
目が泳ぐ私の顔をジッと見つめるギルマス。
そこで確信を得たようで
「やはり、何か知っているようだな。まずはお前から尋問してやる、大人しく私に付いて来てもらおうか」
「じ、尋問?!」
サーっと血の気が引いていく。
だって尋問と聞いて思い浮かぶのは酷い事ばかり。
毒とか、痛い事とかされるのでは?!
そう思うと額から冷や汗が吹き出る。
「おい女。シロナは何も知らない、俺が尋問に行くからシロナを離せ」
ルークが私の不安を察知したのか、代わりに俺が尋問を受けると言ってくれた。
だが、牢屋の扉は閉ざされてしまい私の腕を引っ張り奥の方へと向かっていく。
「悪いがお前には興味がない」
「何?」
突き当たりの扉の前まで来たところで一旦足を止め、少し振り返り一言
「オレはお前達《魔物》が大嫌いだからだ」
私からの角度だと彼女の表情まで見えなかったけど、そう呟く彼女の雰囲気はどことなく哀しげだった。




