第五十五話 初めての外国
ジリジリと距離を縮め、空気はピリピリと肌を刺すようで痛い。
私達は中心に身を寄せ合った。コハクも怖がっているのか頬にピタッとくっついている。
ルークは私を後ろに隠し前に出て、今にも刀を抜いてしまいそうな剣幕で相手に殺気を飛ばす。
何故助けてくれたはずの人達がこちらに刃を向けているのか·····その理由が分からず、私は不安を隠せなかった。
「お前達·····よそ者の魔物だな。この先の街に何の用だ」
「·····ギルドの奴らに用はない。俺達はただ商売と手紙を届けに来ただけだ。そこを退いてもらおうか」
ギルドのリーダーらしき少女とルークの間に火花が見えるようだった。
でもおかしい。
私達がこれから行く隣国は魔物と人間が共存している所じゃなかったのか?
明らかギルドの人達は私達を警戒している。
普段がどんなのか分からないけど·····。
不安を少しでも和らげたくてコハクの頭を撫でた。
大丈夫だ·····。きっと何かの手違いだ。
私たちに害がない事はすぐに分かってもらえるはず。
しかし、その考えは簡単に砕かれてしまった。
「生憎だが、今は規制線を張っている。外部からの魔物はこの先通す訳にはいかない」
「規制?」
「三日前、突然奇襲があった。どこからともなく奴らは現れ街で暴れ出した。
·····ギルドと魔軍でなんとか制圧はできたが、街は一部損壊し今も修復途中だ。
·····だから部外者であるお前達はここで引き返してもらう」
奇襲?
奴等?
脳裏にスカーレットの言葉が過った。
レヴォルが統率している魔軍騎士団支部。
その国に凶暴化魔物がどこからともなく現れ、突然襲いかかってきたこと。
状況が似ている気がする。
「もしかしてそれって·····」
周りに聞こえないくらいの音量で呟いた。
聞こえるのは肩に乗っているコハクくらいだろう。それなのに私の発した声にギルドのリーダーはピクっと反応し私を凝視した。
突然目が合い驚いていると後方から声が
「ギルマス!こいつ等こんな物積んでますよ!」
声の方を振り向くとギルドの人間が私達の荷台を漁っていた。
そして中から一部の木箱を取り出して蓋を開け勝手に中身を外に出していたのだ。
「何だ?見せろ」
「はい。何やら液体が入った瓶ですね·····薬かなにかだと思います」
「薬?」
それはルークが納品すると言って運んでいた積荷だった。
「お前等!勝手に触るなっ!」
「見られて困るものなのか?魔物」
「それは大事な客の物だ。お前らギルドが気安く触っていい代物じゃない!」
大事な商品に触れられた事で不機嫌になるルーク。
それをレヴォルが背中をポンポンと叩き諌めようとする。
「まぁまぁルーク君落ち着いて。ギルドに歯向かうと後が面倒になる·····ここは一旦引くとしようよ?ね?」
「··········」
ギルドに何故か詳しそうなレヴォルの言うことに、ルークは苦渋の決断をし深いため息をついて冷静になろうとした瞬間。
ギルマスから驚くべき言葉が発せられた。
「ふーん·····まぁいい。お前等ここを通ってもいいぞ」
「「!」」
今の話の流れ!!
完璧に引き返す流れだったのに!!
ど、どういうことだ?!意味がわからないっ!
たぶん、そう思っているのは私だけじゃないはず。
ルークもレヴォルも若干動揺している。
するとギルマスは続けて言った。
「まぁ、自由にという訳にはいかないがな」
次の瞬間周りを囲っていたギルドの人間達が一斉に動き出し、私達を地面に押さえつけ手錠をかけた。
「うぐっ‥‥なっ、何を‥っ?!」
「クー!」
頭を地面に押さえつけ私はうつ伏せ状態。その上にギルドの男が跨がり両腕をガッチリと拘束された。
コハクも魔獣用の檻に捕まっている。
「あんた等!コハクを離せっ!!
「お嬢ちゃんゴメンね。ギルマスの命令だからさ」
ニヤっと笑いながら私を見下ろす男。
大人の男の体重に押さえつけられているのでピクリとも動く事が出来ない。
けど必死に抵抗し逃れようと足をバタつかせた。
「落ち着けシロナ。この程度の手錠‥‥────?!何だこれ、魔力が‥‥っ」
普通の手錠だったらルークを簡単に捕まえる事など人間には敵わなかっただろう。
しかし、ルークはそれを壊せなかった。
レヴォルはその事を始めから分かっていたようで抵抗せず、
「あー。めんど臭い事になったなぁ」と諦めてジッと動こうとしない。
「抵抗しても無駄だ魔物。その拘束具は魔物専用、どんな魔物もその手錠を付けられれば魔力を吸われ動く事など不可能。
オレ達ギルドの特製品だ‥‥‥。さぁ、大人しく連行されてもらおうか」
ここを通ってもいい。
その言葉の本当の意味は私達を捕まえて国に連れて行くという事だった。
為す術もない私達はギルドの馬車に無理やり乗せられ、他の数台の馬車とともに出発した。
硬い床に転がされているので馬車が揺れるたびにお尻が痛い。
そんな状態が丸一日続き、ずっと休み無く揺れ続ける馬車の所為でもうお尻も体力も限界を越えようとしていた。
「あーもー!!ルークのバカ!何でもっとちゃんと説明しないんだ!ていうか狭いっもっとそっち詰めてくれ」
「説明したって無駄だ。俺達は魔物‥‥どうせ信用してもらえない、まぁ策がない訳でも無いがな。あとこれ以上詰めたらレヴォルが潰れる」
「?‥‥策?」
「ちょっと二人共〜っ、こんな狭い所で喧嘩しないでよ〜っ」
「ク〜」
大量の積荷と共に放り込まれた馬車の中は狭く、僅かな隙間に奥からレヴォル、ルーク、そして私がルークの足の間に収まった形でコハクの檻を足で挟んでいる状況だ。
こんなギューギュー状態。イライラしないほうがおかしい!
馬車の中で騒いでいるとギルマスが前の方から顔を覗かせ私と目が合った。
「騒ぐな魔物ども。街までもうすぐだ、しばらくそこで大人しくしていろ」
街!
もう着くのか?!
私にとっては初めての外国。
こんな形で外国に来る羽目になるとは思ってもいなかったけど、胸が高鳴る!
ドキドキ鼓動が早くなるのがハッキリと分かるほどだ。
馬車の小さな窓から見える僅かな景色を見ようと限界まで背筋を伸ばして覗く。
ガタガタ揺れる馬車の中で立ち上がることは容易では無いため、これが精一杯なのだ。
それでも低い位置からでは天気の良い青空しか見る事が出来ず、少しガッカリした。
肩を落とすとそれに気付いたルークが私を足でギュッと引きつけて固定する。
背中がルークの胸に密着し、後ろを確認しようと顔をあげるとすぐそこに微笑むルークの顔が合った。
「外‥‥見たいんだろ?。このまま俺が押さえておいてやるから、立って肩にもたれ掛かれ」
「え、良いのか?!」
「あぁ。早くしないと見逃すぞ」
グッと足に力を入れてルークに支えてもらいながら立ち上がると丁度いい目線の高さに窓があり、十分外を眺める事が出来た。
生まれて初めての外国の景色。
太陽の日差しが顔に差し込み、一瞬光で目を閉じるも次に飛び込んできたのは大きな石で出来た建造物の門だった。
何個も何個も四角い石で積み上げられた壁。
門は鉄で出来ているのだろうか・・・黒光りした何メートルもある扉が聳え立っている。
馬車は一旦停止しギルドの人が門番の人と何かを話している。多分入国手続きでもしているのだろう。
通行手形のようなものを見せると門番が上を向いて合図を送る。
すると合図の少し後で鉄の扉がギィィィと音を立てて開き始めた。
扉が開ききると馬車は再び動き出し、門をくぐって行く。
分厚い石壁を超えた先の街並み。
開いた口が塞がらない程の美しさ。
見た事のない建造物が立ち並び、沢山の馬車や人、魔物が大通りを行き交っていた。
発光魔石で出来ているのだろうか…‥道の脇には街灯が立ち並び、道は煉瓦などで綺麗に舗装されている。
私が住んでいた村とは掛け離れている発展的な街を見て、私は瞬きをする事さえ忘れてしまうほど見とれてしまった。




