第四十五話 困難な特訓
モノンの指導による精霊術の特訓が始まった。
ジェイトはコハクが休む木の下で見学をしている。
精霊術を目の前で見ることなんて、そうそう無いからだ。
それに、まさかの闇と光が揃っている状態。
見ない訳にはいかないのだろう。
「(ロギ‥‥私‥‥)」
過去の話を聞いてから、ロギは全く話さなくなってしまっていた。
これでは特訓が進まない。
だから、ロギの反対を押し切って話を聞いてしまった事を謝ろうとした。
けど、ロギは溜息をつき呆れた声で口を開いた。
「《ったく‥‥。もういい、聞いちまったんならしゃーねーだろうが‥‥。
やるからにゃ、本気で行くぜ‥‥シロナ》」
やっぱり‥‥ロギは優しい‥‥。
「(ロギ‥‥ありがとう‥‥後でちゃんと話そう)」
「《ヤダねって言ったところで、どうせ無理矢理するつもりだろうがよ。
そーゆー強引な所‥‥母親そっくりだ》」
フッとロギが笑ってみせるので、私も思わずつられてクスッと笑った。
何とかロギと話がついたところで、モノンが私の背中に手を当てる。
「では、そろそろ始めましょうか…。最初は難しいと思うので僕がアシストします。
このまま手を当てて、君の魔力の流れを均一になるように調整しますね。
それで慣れてきたら僕は手を離します。
それを何回か繰り返し、コツを掴んでいきましょう。‥‥‥‥いいですね?」
「うん。‥‥分かった!」
モノンは闇魔力を引き出しすぎると、私の魔力が負けて意識が持っていかれると言っていた。
だから、バランスが大事だって‥‥。
確かに、記憶はないけど暴走時の私は意識が飛んでいた。
でも、少なすぎても魔法は発動しない‥‥。
こういった魔力調整は苦手なんだけど‥‥今はそんなこと言ってられないよな!
やるしかない。
体に覚えさせるんだ!
私は先程同様、胸に手を当てロギの魔力を引き出し始めた。
何となく感じる‥‥体の中に自分とは違う別の魔力が巡っていくのを‥‥。
その巡りをどれだけ取り入れるのか‥‥それは私の匙加減次第。
「いいですよ‥‥その調子です」
汗が頬を伝う。
雫が地面に落ち弾くと同時に、足元から黒い靄が現れた。
「シロナ!ちょっと多いですよ!もう少し抑えて!」
そ、そんなこと言われたって!
本当に難しいんだからな!!
例えるなら大きいバケツに入った水を、小さい器に移せと言ってるような感じ。
少しでも手元が狂えば、簡単に溢れてしまう。
溢れれば最後‥‥意識を‥‥持っていかれる!
「くっ‥‥。ん〜っっ!」
「!!、痛っ!」
突然、ドっと溢れ出した闇魔力はモノンの手を弾き、一瞬にしてシロナの意識が飛んでしまった。
《おい!!シロナ!しっかり‥‥しやが‥‥れっ!》
ロギの呼びかけも虚しく、シロナは暴走状態に。
モノンは弾かれた手を擦りながら、魔力を練りだした。
「まぁまだ始めたばかりですしね‥‥すぐには上手くいかなくて当然でしょう」
シロナの顔の前でパチンっと指を鳴らす。
すると魔力出力量が収まり始め、シロナは我に返った。
「!!。ハァ…ハァ…今、私‥‥」
顔に手を当て、少し呼吸が乱れる。
無理も無い‥‥だけど、これは必ず乗り越えなくてはならない壁。
悪いけど、僕も手を抜く訳にはいかないんでね‥‥。
越えてもらいますよ‥‥シロナ!
「はい!シロナ‥‥もう一度いきましょう!」
「あ、あぁ!」
その後も、何回も何回も同じことを繰り返し、今日はそこまでの進歩はなく日が暮れて行った。
二日目を迎え、同じ様に特訓するが昨日同様、まるで進歩が無い。
シロナとロギの息が合わないわけでは無いと思うが‥‥どうしても魔力の調節が上手くいかない。
その日の夜、風呂上がりにゴロンとソファに寝転がって深ーいため息をついた。
「あーもー。なんで上手くいかないんだ‥‥母さんには出来たのに‥‥‥‥‥‥‥‥どうして私は‥‥」
「シロナ。俺また作業場に行ってるから、ちゃんと自分の部屋で寝ろよ」
ルークも部屋着に着替えていたが、いつもと青い上着を羽織り出掛ける用意をしている。
まだ仕事が終わらないらしく、納品日に間に合わせるので大変そうだ。
「ルークもあまり無茶するなよ?‥‥寝てないんだろ?」
彼にしては珍しく、目の下にクマができていた。
一体どこから頼まれた納品なんだろ‥‥。
「フッ‥‥お前が俺を心配するのは10年早い」
そう言って鼻で笑ったルークは、そのまま家を出た。
10年て‥‥私と年齢6つしか変わらないだろ‥‥いや、6つは大きいか‥‥?
って、そんな事よりどうしよう‥‥
このままじゃ明日も同じことの繰り返しだ‥‥。
さっさと終わらせないとナディアの見送りに行けないし‥‥。
何か‥‥
何かいい方法は‥‥。
ん〜〜〜。
ひたすら悩んだ。でも行き着く答えは自分が頑張るしかないって事ぐらい。
けど、私一人じゃ全然ダメ‥‥。
すぐ意識も持っていかれるし、上手く行きそうになっても消失したり‥‥上手くいかない。
最終的に、私は才能がないんじゃないかと思い始めた。
《はぁ‥‥おいシロナ。あんまり詰め込むんじゃねぇよ‥‥》
「‥‥‥‥だって‥‥」
《まぁ確かにテメェには向いてないっちゃ向いてないんだけどな‥‥あのシロウの娘だしなぁ》
父さん‥‥ロギが父さんの悪口言ってます。
まぁ、私も同じ考えだけど‥‥
《俺の力が自由に引き出せるようにならねぇと、またなんかあった時俺が出るハメになる。
そうだとテメェの体に負担がかかり過ぎるからそれは避けてぇ…。
分かるよな?
俺はあんまり出しゃばらねぇぞ》
「‥‥分かってる‥‥分かってるけど‥‥」
《んー、けどシロナに魔法とかの名前付けられるとダッセェしなぁ。
俺が魔法を使いたいところだが‥‥》
「うん‥‥‥‥‥‥ん?
ロギ、今なんて言った?!」
《あ?
シロナの名付けがダッセェ》
「ダサいとか失礼な!!‥‥って違う!!そこじゃなくてその前‥‥んじゃなくて、その後!後だ!」
《あ?うっせぇな‥‥俺が魔法を使いてぇって言ったんだよ。それがどうし────》
私はバッと勢いよく起きがり、大きな声で叫んだ!
閃いたのだ!
「ロギ!それだぁああー!!!」
シロナが何かを閃いている頃、モノンはスカーレットの元へ戻っていた。
特訓の経過報告である。
勿論、報告を受けたスカーレットは頭を抱えた。
「まぁまだ始めて二日目ですからね‥‥あまり急かしても良くないですよスカーレット」
「そうだな‥‥しかしあの時はあれ程の能力を発揮していたというのに。私の見込み違いだったか」
「力を解放してからまだ間もないですし、もう少し時間をくれませんかね?」
何とかシロナを庇おうとするモノンだったが、スカーレットの顔は依然、険しいままだ。
「それがモノン‥‥そうも時間を食ってる暇も無いのだ」
モノンは頭にはてなマークを浮かべる。
すると同時に背後の扉が開いた。
その瞬間、モノンの表情が強ばる。強ばるというか、嫌悪感が漏れている。
「いやいやいや〜♪久しぶりだねぇーモノンくーん!
あ、そっか!今は副団長だから偉くなったんだよねー?なら君呼びは失礼かなー?
はは!なんちゃってー」
「僕なんか君に比べればまだまだですよー?
それより、やはり戻ってこられてたんですね。
どうですか?久々のこの国は‥‥?
ねぇ、元騎士団長‥‥」
モノンの返しに、レヴォルは胡散臭い笑顔を浮かべて訂正した。
「悪いんだけどねェ〜。元騎士団長呼びはやめて欲しいな。
オレの事は
ヴァラバレイ支部長と呼んでもらいたいね〜」




