第四十四話 闇と光
シロナ達が剣術を特訓している頃、ルークは一人作業場で篭ってある薬を作る準備を行っていた。
それは回復薬よりも遥かに難易度の高い薬。
商品にできる品質になる可能性もかなり低く、その作製に困難を極めた。
しかし、納品数は200ほど。
やるしか無かった。
「ったく‥‥あの人はこの薬をこんな大量に発注なんかして‥‥。一体何を始める気なんだか‥‥まぁ、ボヤいても仕方ないな。さっさと片付けよう」
一瞬窓の外に目をやる。
何となく外の様子が気になったが、ルークは仕事に取り掛かった。
ルークの気配察知は中々のもの‥‥。
現に裏庭には来客があった。
「光精霊術師‥‥?モノンが‥‥?」
「はい、そうですよ。黙っててすみません」
突然の告白。
闇の対になる光。
それがまだ存在していた?
私と同じ最後の末裔だと‥‥?
こんな事ってあるのか‥‥
こんな偶然に‥‥
こんな身近に‥‥
「ジェイトでは心許無いですからね、僕が精霊術師の事、契約の事、力の使い方をレクチャーしてあげますね」
「モノじぃ‥‥そりゃ無いぜ〜」
モノンに軽く弄られるジェイトだったが、文句を言いながらも彼は自分が何も教えてあげられないことを察したのだろう。
ジェイトは数歩後ろへ下がった。
私が知りたかったこと。
それを全部モノンは知っている?
この心のモヤモヤが無くなる?
‥‥‥‥ロギの事を‥‥知れる?
知りたい‥‥っ!
出来るだけ‥‥全部‥‥知りたいっ!
そう私の本心は叫んでいた。
「モノン‥‥本当に教えてくれるのか?」
ボソッと呟く私。
それに対し、精神世界でロギは訴えかける。
《バカヤローっ!余計な事聞くんじゃねぇ!!テメェは変に足突っ込むな!!何も知らなくていい!!》
うん‥‥。
分かってる‥‥。
ロギは優しさでそう言ってるんだって。
もう、何となく分かってるんだ。
きっと楽な道じゃないって。
辛い道がこの先ずっと続いてるんだって。
けど、もうそんなの今更なんだよ‥‥。
優しさでその道を隠したところで、そんなのちゃんと歩いた事にならない。
私は、盲目でいたくない。
しっかり自分の目で、脚で、心で。
全てを受け止め、前を見て歩きたい。
例えそれが‥‥過酷で、苦しい道だとしても‥‥。
私はもう、1人じゃないから。
歩ける。
私の目に、迷いなど一切なかった。
その目に確信を持ったモノンは、一つ一つ説明しだした。
「分かりました‥‥。ではまず僕達、精霊術師が生まれたきっかけから話しましょうか‥‥」
昔昔、まだ世界が高濃度のマナで覆われていた頃。
その世界では精霊が実体を持ち、人間と共生していたという。
その中でも、最も上位の精霊‥‥闇精霊と光精霊は常に争いを繰り広げていた。
犬猿の仲‥‥と言っても過言ではない。
争いはマナが薄くなり、実体を保てなくなっても続いた。
何故続いたのか‥‥それは人間が関係している。
姿が見えなくなった精霊達を、人間は神と崇め祠に祀っていた。
それは、闇精霊の聖域と、光精霊の聖域に住む人間がそれぞれ行っており、その人間もまた、自分達の領土を広げるため争っていた。
しかし、人間だけの力ではその争いに終止符を撃つことは叶わず、最後にとった手段は精霊の力を借りることだった。
力を借りる‥‥。
いや、違う。
人間は肉体を捧げる代わりに力を得た。
所謂‥‥生贄だ‥‥。
が、その生贄にも精霊と適合する者としない者といた。
適合者は殆どが赤ん坊。
何人もの赤ん坊が精霊と契約を結び、その体は時間をかけ融合していく。
完全融合するのは15歳。
まだ幼い子供たちは、戦場へ駆り出された。
幼い命が、儚く、呆気なく‥‥次々に消えていく。
そんな争いは、長く続かなかった。
暴走する力は、己の大切な物も破壊し、敵も味方も関係無く全てを‥‥壊して行った。
そして、両族とも破滅の道を辿った。
その生き残りが、私達。
そうモノンは言った。
「お互い、触れてはいけない領域に手を出してしまったがための末路です‥‥。言い方は悪いですが、僕達の産まれた理由は、ただの戦争の道具ですね‥‥」
「‥‥‥‥」
私の先祖が、そんな運命を赤ん坊の頃に背負わされていたなんて‥‥。
やっぱり平坦な道ではなかった‥‥。
「契約の内容もまた滅茶苦茶なんですよね〜。御先祖は、血と魂の契約により力を手に入れたました。
しかし、力の代償に精霊は肉体を欲した。
それも、これから生まれてくるであろう、子孫の肉体も。
子供が産まれる時、精霊は母体から子へと転移契約する。
転移契約が確立するまで、その者は死ぬ事が出来ない体に。
つまり
子孫ができるまで、その者は解放されない。
しかも、死ぬ事が出来ないどころか、その身体は完全融合された15歳で成長は止まる。
まぁ、契約さえ自分の子孫に託してしまえば止まっていた体の時間が動き出しますが‥‥。
ずっと精霊に縛られたままになる。それを嫌がった御先祖はある封印術を開発しました。」
「封印術?‥‥それって」
「はい‥‥。シロナ、君にも掛けられていたやつですね。
でも、君のは御先祖が開発したものより更に強力のものでした‥‥君の母親が開発したのでしょうね。
御先祖が開発した封印術は、精霊を己の精神世界に閉じ込め、力のみを奪い取るものでした。
精霊は身動きをとることも、その体から離れることも出来ず、ただその者に力を注ぐだけの存在と成り果てた。
でも、今の君は違う。
君の中の精霊はその呪縛から解き放たれ、自由になった。君の体を奪う事も容易いだろうね。
けど、君の精霊はそれをしない。
‥‥余っ程気に入られているようです」
そうだったんだ‥‥。
なら、今朝見た夢も納得がいく。
あの時、ロギの体に纏っていた鎖‥‥。
あれはモノンの言う封印術。
それからロギは、ただ、力だけを取られる存在になってしまった‥‥人間に力を貸してあげていたのに‥‥。
考え事をしている私に、モノンは言いにくそうに口を開いた。
「‥‥ですが、逆にそれは君に負担をかける」
「え‥‥何でだ?」
「封印術がかかっている状態だと、比較的精霊の力を引き出しやすくなる。だから闇魔法を人間でも簡単に使うことが出来るんです。
しかし、その封印が解けた今、難易度が更に上がってしまった。
君の中の精霊はなるべく君に合わせて魔力を解放しているようですが、シロナがそれ以上に引き出そうとしたり、使わなかったりしてバランスがなっていません。
だから上手く闇魔法が使えないんですよ」
バランス‥‥。
何だかんだ言って、ロギは私に合わせようとしてくれてたんだ!
「僕のコツを教えますので、頑張りましょう!シロナ!」
私の手を掴み微笑む。
モノンから伝えられた過去は、やっぱり壮絶だった。
それでも私の心はスーッとして、モヤが少し晴れた気がした。
私のルーツが、母さんの事が、ロギの事が。
少し知れただけで、自分自身の自信になった。
ロギは私の中で不貞腐れているけど‥‥
後でゆっくり話そう。
ゆっくり‥‥‥‥
ゆっくり‥‥‥‥‥‥
少しずつ。




