第四十六話 私達二人なら
「何故支部長が本部へ来られたのですか?
隣国とはいえ国渡は危険が付きまといます。
それは、3代目元妖精王である貴方でも‥‥」
モノンは目を細めレヴォルを見つめる。
その様子は、いつものニコニコしているモノンとは到底思えない程の深刻な顔つきだった。
一瞬緊張が走った。
モノンの妖精王という言葉に反応したレヴォルは、モノンを睨みつけていたのだ。
しかし、コロッと笑顔に変わって話を続ける。
「いやぁ、オレも遊びに来たわけじゃないからね?‥‥近頃、オレ達の国に招かざれぬ客が押し寄せてくるようになってさ!
ちょーっと困ってるから応援要請をしに来たんだよ」
「‥‥客ですか?」
質問に、スカーレットがため息混じりで答えた。
「モノンも知っているだろう。最近私達の国でも存在が確認されているバケモノを‥‥」
最近
バケモノ
その2つのワードが導き出す答えは、1つしかない。
「凶暴化魔物‥‥ですか」
「あぁ‥‥。
どうやら被害はこの国の比では無いらしい‥‥。ヴァラバレイは防衛戦に入った。だが、それも時間の問題‥‥。
そんな状態にも関わらず、どうして使いを出さなかった師父。
師父が国に残った方が戦力になっただろう?」
自国が戦力不足の今、わざわざトップが使いの真似をするなど‥‥
団長であるスカーレットには理解出来なかった。
すると、レヴォルは胸元から一通の手紙を取り出しスカーレットの机の上に、そっと置いた。
「これが支部長自ら来た理由だよ。‥‥オレんとこの優秀な側近ちゃんが調べて来た」
白い封筒に厳重にかけられた暗号錠魔法。
この魔法の解き方は、支部長と団長しか知らない。
魔法が掛けられた手紙を見て、スカーレットは事の重大さを察した。
解除魔法を唱え、封を切る。
「‥‥?!これはっ!事実なのか?!」
中身を確認すると、声を上げレヴォルに目線をやる。
しかし、レヴォルは既にドアノブに手をかけ、部屋を出ようとしていた。
「まぁそーゆーことっ!これはオレ達だけじゃどうにもならんかもしれないね…。
今日はもう遅いし、この辺で部屋に帰らせてもらうけど、後のことはよろしくね〜」
ドアがバタンと閉まり、部屋は静まり返る中‥‥スカーレットは眉間に皺を寄せ、考え込む。
「団長‥‥手紙の内容は?」
「‥‥ハァ‥‥。モノン帰ってきたばかりで済まないが、また用事を頼んでいいか?」
「いいですけど‥‥どちらに行けば」
「‥‥‥‥各魔軍騎士支部長の所だ」
「各となると‥‥5ヶ国ですか‥‥。時間がかかりますね」
「いや、今回は4ヶ国でいい。あと人間の特訓を急がせろ‥‥
これから‥‥忙しくなるぞ」
スカーレットは窓の外を眺めた。
夜中の空は綺麗な星が輝いて、月明かりがスカーレットの髪を宝石のように光らせた。
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「いくぞモノン!ちゃんと見てて!」
翌日、モノンはまたシロナの指導に来ていた。
昨日までのシロナとは見違え、今日はイキイキとしている!
不思議に思ったモノンだったが、とりあえず最後まで見守る事に決めた。
「では、今まで通り最初は僕が魔力調整の補助をしますね」
いつもの様にシロナの背中に手を当てようとしたが、シロナはそれを断った。
「たぶん大丈夫だと思う。モノンが来る前も1度出来そうな感じだったから」
「‥‥。分かりました」
自信に満ちている彼女から数歩離れる。
そして、シロナの周りに魔力が纏い始めた。
しかし、その魔力は闇精霊のモノではなく、シロナ自身の魔力だ。
ほんのりドラゴンの魔力が混ざっているそれは、闇とは正反対にキラキラと輝いて見える。
彼女は一体‥‥何をしようとしているのか‥‥。
「ロギ!いくぞ!」
「《あぁ!ぶちかますぜェエエ!》」
掛け声と共に、シロナの周りを纏っていた魔力は一気に前に突き出している右手へ吸収され、代わりに影の刃が出現し真っ直ぐ的へと放たれた。
飛ばされてきた魔法に、木棒は耐えきれず‥‥
バリバリバリ!っと音を立て、的は宙へと舞う。
これだけでも大成功!と喜ぶところだったか、シロナはまだ終わりじゃない!
と叫び、足元から伸びる影を巧みに扱い、宙を舞っている木棒を捕え粉々に粉砕した。
木片が地面にパラパラと落ちる。
この現状を‥‥すぐ受け入れる事など可能なのだろうか‥‥。
昨日までのダメダメっぷりの面影が全くない。
モノンは、しばらく口をポカーンと開けて、その光景を眺めることしか出来なかった。
「ふぅ。モノン!どうだ?上手くいってただろ!」
パァっと笑顔を振り撒き駆け寄ってくるシロナ。
そこで漸くハッと我に返った。
「‥‥お、驚きました‥‥。よくこの短期間でここまで成長しましたね!一体何をしたんですか」
急激すぎる成長に、驚きを隠せない。
ニシシと笑うシロナは手を胸に当てて説明をしだした。
「私一人じゃロギの力は正確に引き出せない。多分引き出せるようになるには、まだまだ基本的な魔法の経験を積んでいかないとダメだと思ったんだ‥‥。
一人で焦ってた‥‥。
私にはロギが居るのに、一人で全部解決しようとした。
でも、それがダメだった」
「ん?どういうことですか?」
「ふふん!一人でダメでも、二人なら出来るってことだ!」
モノンは精霊と共に‥‥なんて考えは一切無い精霊術師だった故に、シロナの言っていることが理解出来なかった。
「私とロギは魔力回路で繋がってる。
私がロギの力を引き出すように、ロギも私の魔力を取り込める。
じゃぁ、役割を反対にすればいいんだって気づいたんだ。
ロギが魔法を唱え、私が発動させる。
私たちの息が合わないと無理なやり方だけど、さっきはこれで上手くいったんだ!
な!いい考えだろ?!」
予想にもしなかった出来事に、モノンは笑いを堪えられなかった。
「はは、はははははは!君はやっぱり面白い子ですね…!こんな精霊術師は初めてですよ!
おめでとうございます、シロナ。
これで一先ずの特訓は完了ですね」
やったーー!と庭で喜びジャンプをしていると、ルークが作業場から出てきて顔を出した。
どうやらルークの方も終わったようで、顔が少し疲れている。
「あっ!ルーク、聞いてくれ!何とか精霊術を扱えるようになったぞ!」
「お疲れ様です。そちらもやっと片付いたってところですか?」
目の下にクマをつくり、あくびをしながら頭をポリポリとかく姿は、いつものすました彼を想像出来ない。
「やっっっとな‥‥。何とか期限までに終わらせた…。シロナもよく頑張ったな。
‥‥って、ちょうど昼か‥‥。
飯これから作るから、中に入って手伝え。」
ルークが玄関にまわり家の中に入ろうとしたが呼び止めた。
私がこんなに急いで頑張った、大事な理由があったからだ!
「悪いルーク!これから街の方へ出掛けたいんだ。ちょっとだけだから…行ってきてもいいか?」
「街?イヂラード街か?
エレティナにでも呼ばれたか?」
「いや、違うくて‥‥ルーク忘れたのか?今日はナディアが里親に引き取られる日だぞ!」
そう、あれから今日でちょうど三日後。
今日、ナディアは人間の村の里親に引き取られることになっている。
最後に一言お別れを言いたかった。
しかし、その願いは儚く散っていく‥‥。
「あぁ‥‥ごめんね、シロナ。そんな時間は無いんですよ。
ルークもこれから出掛ける用意をして頂けませんか?」
「‥‥な、何でだ?何処に行くっていうんだ」
「先生‥‥急ぎですか?」
モノンの突然の切り出しに動揺する二人。
全てを説明するには時間が無い。
だからモノンは一言だけ、シロナの問いに答える。
「そうですね〜‥‥。簡単に言うなら‥‥‥‥
外国‥‥ですかね」




