第三十三話 初戦闘
観客が歓声を上げる中。
ジェイトもそこに混じっており、観客席からシロナを見守っていた。
すると後ろから
「ジェイト!」
と呼ぶ声がするので振り返ってみると、血相を変えたポルクとエレティナが、人混みをかき分けて駆け寄ってくる。
「ジェイト!これってどういう事なの?!なんでシロナが??!」
ポルクはジェイトの服を引っ張りながら訴える。
「まぁ、ちょっとな‥‥それより何でこの事を?他の魔物共もそうだけどよ‥‥どっからこの事聞きつけてきたんだよ」
驚き、呆れ顔でエレティナは
「え??知らないの??街じゃもう大騒ぎなのよ?!」
と言ってきた。
ジェイトは昨日から外に出ておらず、外の状況は一切知らなかったのだ。
「今朝、街中にビラが配られたんだよ!ほらっコレ見て!」
ポルクが1枚の紙を渡してきた。
読んでみるとそれには‥‥。
闇精霊術師、人間シロナVS魔軍騎士団長スカーレット
による公開戦闘
と書かれていた。
魔軍兵の誰かが外部へ情報を漏らし、噂好きの魔物が言いふらしたのだろう。
人間見たさもあると思うが、スカーレットは3年前に騎士団長へ昇格したばかり‥‥。
魔物と人間のハーフという事もあって、中々魔物共には認めてもらえなかった。
しかし、この世は弱肉強食。
化け物並みの強さを持つ彼女に、勝てる者など今まで存在しなかったことから、最近は魔物にも、受け入れて貰えるようになったのだ。
その強さを一目見ようと、これだけの魔物が集まってるに違いない‥‥。
弟の俺でさえ、姉貴には勝てた事が無いのだから‥‥
この勝負‥‥シロナにとって結構キツイもんになるな‥‥。
「‥‥‥‥姉貴‥‥。」
ルークも魔軍兵に連れられ、関係者席の前の方に座らされた。
ここからじゃ、遠くて表情が上手く見えないが‥‥きっとアイツも不安で押し潰されそうになっているに違いない‥‥。
ルークの近くにモノンも座り、
今
開始のゴングが鳴り響いた!
スカーレットは戦闘態勢に入り、剣先を私に向ける。
しかし、私は迷っていた。
出来れば戦いたくない。
誰かを相手にするのも初めてだから、加減が分からないのだ。
それに、私の愛用武器は短剣。
渡されたのは重めの直剣だから、本当に加減が無理だ‥‥。
剣の振り方は学んだから、振り方がわからない訳では無いけど‥‥。
何とか穏便に済ませる方法はないのか‥‥?
私は、直剣を持ったままジリジリと後退した。
「弟ジェイトから武術を習ったそうじゃないか?。‥‥まぁ、別に剣一本勝負じゃなくてもいいぞ。魔法も使っても構わない。‥‥あと‥‥
精霊術‥‥とかな」
「弟?!あんた‥‥ジェイトのお姉さんなのか?!」
衝撃的事実!
あの、のらりくらりのジェイトの姉?!
性格が姉弟でこんなにも違うのか?!
確かに‥‥髪色も同じ赤。
「あぁ、そうだ。言っておくが‥‥私はジェイトの様には甘くないぞ‥‥。いざ、尋常に‥‥勝負!!」
先にスカーレットが前に飛び出た。
私は咄嗟に背を向け走り出す。
そして、何とか説得を試みた。
「ちょ!ちょっと待て!!私はあんたと戦いたくない!!は、話を聞いてくれないか?!」
しかし、スカーレットは聞く耳を持たない。
「問答無用だ!!人間!!」
ちょこまかと逃げる私を追うのをやめ、スカーレットは右手を突き出し魔力を練り始めた。
左耳についている魔具が反応し光り出す。
「戦え!!闇精霊術の一つや二つ!私に使って見せろ!!
フレイムオブヘイル!」
上空に無数の火の玉が生成され、私に降り掛かってきた。
「えっ?!ちょっ!!嘘だろぉお?!」
避けた火の玉は相当硬さがあるらしく、地面にぶつかった所が酷く陥没している。
あんなの!当たったら一溜りも無い!
叫びながら全力で逃げ回った。
「《シロナっ!何やってやがる!さっさと反撃しやがれ!》」
「だって!!いきなりそんな戦えって言われても困る!ちょっとでも話し合いでも出来ればっ」
戦いたくないシロナに、ロギはキレ気味に反論した。
「《甘ったれた事言ってんじゃねぇ!話し合いで全部解決してりゃぁ、俺みたいな精霊は居ねぇんだよ!
闇精霊術師なんてもんは生まれてこなかった!!
この世は弱肉強食だ!勝てなきゃ意味ねぇぞ!》」
突然の事で驚いてしまった。
「ロギ‥‥あんた‥‥」
「《悪ぃ‥‥取り乱した。だが、一つだけ言っておく。ここでテメェが死ねばトカゲも死ぬし、俺も消えるし、それに‥‥シロウの死も無駄になるって事は分かってんだろうな?》」
‥‥‥‥‥‥。
コハク‥‥。
父さん‥‥。
死なせる訳にはいかない‥‥。
だって、あのドラゴンと約束したから。
守ってくれって頼まれたから‥‥。
やるしか‥‥無い‥‥っ!
私は直剣を強く握り直し、スカーレットの方に体の向きを変えた。
「分かったよ‥‥っ!
戦えばいいんだろ!?」
でもまずは、この火の玉を何とかしなくちゃならない。
剣で切り落とすなんて技も出来ない。
どうしたら‥‥っ?
すると、ロギがアドバイスしてくれた。
「《魔法はイメージだ。基本魔法さえ覚えちまえば、後はアレンジのみ!想像して唱えろ!》」
イ、イメージ?
ゆっくり考えている時間は無い。
考えている間でさえ、火の玉は降ってくる。
「あーもー!やけクソだ!」
シロナも魔力を練りだした。
イメージだろ?
あの火の玉をあっちに打ち返したり?
いやいや‥‥じゃぁ捕まえて投げるか?
もういい!それでいこう!
イメージを固めたシロナは叫んだ。
「キャッチアンドリリース!!」
電気の線がバッと上空に広がり、飛び掛ってきている火の玉を全て絡めて一つにして、それをそのままスカーレットの方角へ腕を振り下ろす。
すると、全ての火の玉はスカーレットの元へ勢いよく飛んで行った。
土煙が舞い上がり、あたりは霞んで見えなくなる。
よく分からないが、上手くはいった!
しかし、ロギは何か言いたげ。
「《シロナ‥‥》」
シロナは何となく言いたいことを察した。
「うるさい。何も言うな」
しかし、ロギはお構い無し。
「《ネーミングセンス無ぇな》」
「何で言うんだよ?!分かってるよそんな事ぐらい自分でも!!」
恥ずかしくて顔を真っ赤にさせる。
「《まぁ、コハクに最初【クロ】って名付けようとした程だもんな》」
そう!
あの時コハクは猛烈に拒絶反応を起こし、クロはやめになった。
「ロギっ!!!!!」
シロナが一喝する頃には土煙は晴れ始めていて、そこから人影がこちらに歩いてくる。
「ほぅ、漸く戦う気になったか‥‥」
少しぐらいは効いてると思った。
しかし、煙が完全に晴れ、彼女の姿が見えた時‥‥。
私は愕然とした。
全くの無傷だったからだ。
「まだまだこんなもんじゃ‥‥私に傷など付けられないぞ?」
「そんな‥‥あの火の玉をまともに食らった筈なのに‥‥何で?!」
「自分の魔法で殺られる阿呆では無い‥‥さぁ、これで終わりじゃないだろ?」
多分魔法攻撃ではろくにダメージを与えられない!
ならば!
シロナは直剣を両手で持ち上げ、スカーレットに向かって走り出し刃を振りかざした。
それをスカーレットはいとも簡単に弾き返す。
剣と剣が弾き合う。
それを、何回も繰り返す。
「はぁぁあっ!」
「?!」
スカーレットの重い一撃。
それを何とか剣で受け止めるが、シロナは体重が軽く簡単に後ろへ飛ばされてしまった。
「クッ!」
剣を地面に突き刺し、何とか立ち上がる。
すると、スカーレットは肩を落とし言った。
「人間‥‥手を抜いているだろ?この私に、手加減して勝てると思っているのか?!」
手を抜いてるつもりは‥‥無い。
というか、この武器はシロナに合わないのだから当然のこと。
「はぁ‥‥。君がそのつもりなら致し方ない‥‥嫌でも本気を出してもらう為、奥の手を使わせてもらおう」
パチンっ!
とスカーレットが指を鳴らす。
それと同時にスカーレットの横に光の柱が現れ、その光が消えるとそこには‥‥
頑丈な鳥籠の中に、ぐったりとしたコハクが捕まっていた。




