第二十四話 光無き瞳
「ん?」
赤髪の長髪ポニーテールを揺らして、廊下を歩いている女性が何かに気づき足を止める。
その瞳には茶色い紙袋を大事そうに抱えて歩くモノンが映った。
しかも上機嫌そうに。
「モノン」
「あ、スカーレット!お出かけですか?」
「あぁ、これから見回りに行こうと思ってな。それにしても随分上機嫌だね」
「へへ〜。実はルークに新しい助手ができてですね、僕の為に薬を作ってくれたんですよ!もう孫のようなので可愛くて可愛くて」
ルークは私にとっても大事な弟の様な存在だ。
子供の頃からの幼馴染でもある。
しかし、私の耳に助手が出来たという情報はいっさい入ってきていなかった。
ジェイトも何も言っていなかったし‥‥‥。
「そうか‥‥ルークに助手が。是非私も会ってみたいものだな」
「あ〜〜‥‥‥‥そ、そうですね。あっ!スカーレット!僕もちょっとこれから外出するので、ここで失礼しますね!」
モノンは何故かいきなりその場を離れた。
何だ‥‥?
あのよそよそしい態度‥‥。
私になにか隠しているのか‥‥。
‥‥‥‥‥‥。
モノンの姿が見えなくなるまで見つめ、何か不信感を漂わす表情してから、スカーレットもその場から離れた。
その姿をモノンは影で確認し、ため息をつく。
「ふぅ、危なかったです‥‥。うっかりシロナが人間って事がバレるところでした‥‥。今、彼女にシロナのことを教えるのは辞めておいた方がいいでしょうしね‥‥。気を付けないと‥‥」
モノンは荷物を副騎士団長室に置いた後、本拠地をあとにした。
しかし。
その背後の影に気付かずに‥‥‥‥。
一方その頃、シロナとルークは次の納品先に着いていた。
「‥‥‥‥ここって」
「どうした‥‥?行くぞ」
シロナの目の前の建物。
それは、以前にも来たことがある養護施設だった。
施設って‥‥ここの事だったのか。
相変わらず、元気な子供の声が聞こえてくる。
ルークが玄関のチャイムを鳴らした。
暫く待っていると、以前お会いした保母さんが
「はーい」
と言いながらドアを開けた。
「どうも、薬を届けに来ました」
「あらあら!ルーク君!待ってたわよ‥‥‥‥あら貴女は」
「どうもです」
私に気づいた保母さんに軽い会釈をする。
その光景を見たルークは少し驚いているように見えた。
「シロナ、ここに来たことがあるのか」
あの時はポルクの付き添いで来ただけだったけど‥‥。
そういえば、ルークにどこに行ったかは言ってなかったっけ。
すると、保母さんがルークに軽い説明をしてくれた。
「以前にね魔具屋の坊やと一緒に納品に来てくれたのよ。まさかルーク君の所の子とは思わなかったけど‥‥。ささ、中に入って」
「なるほどな‥‥。じゃぁお邪魔します」
私達は保母さんに連れられ、応接室に案内された。
そして、私とルークの前に暖かい紅茶が出された。
「ごめんなさいね。まだ前回の納品から日が経ってないって言うのに‥‥」
そう言いながら保母さんは向かい側のソファーに腰掛ける。
私は出された紅茶に砂糖とミルクを入れ口に含んだ。
「いや、それは構わないが‥‥何かあったのか?」
その質問に保母さんの表情は暗くなる。
そして、重い口を開き事情を話してくれた。
「実はね、数日前に新しい子が入ったんだけど、その子の怪我が絶えなくて‥‥」
「怪我?」
「はい‥‥。それで、怪我の原因を聞くんだけど、転んだとしか言わないのよ。どう見ても転んでできたような傷では無いのだけど‥‥。あの子、全然話してくれなくて‥‥」
怪我‥‥。
そのワードを聞いてパッと頭に浮かんだのは、窓の外で私を見つめていた黒髪の少女。
あの女の子も顔や体に怪我があった。
もしかして‥‥。
紅茶を飲みながら考え込んでいると、また外から視線を感じた。
あの時と同じような視線を。
バッと外に視線を向ける。
しかし、そこには誰も居なかった。
気の所為‥‥か‥‥?
考え込みすぎてるのかな‥‥私。
静かにカップを机に置く。
水分を取りすぎたのか、突然身震い。
うっ‥‥
トイレ‥‥行きたい‥‥っ
しかし、ルークと保母さんは大事な話をしている。
今、話の間に入るのは気が引ける‥‥。
でも、ちょっとこれは‥‥っ
コハクも私の異変に気づき、気にする仕草をする。
流石に隣に座っているルークも気づき、話を途中で止めてしまった。
「すまない。トイレを借りてもいいか」
「え?ええ、いいですよ。その扉を出てすぐ行ったところです。私も判子を取りに一旦席を離れますね」
「あぁ、ありがとう」
バタンとドアが閉まったと同時にルークは私を見て立ち上がる。
「トイレ行きたかったんだろ?早く行ってこい。俺は納品の手続き準備をするから」
この男。
テレパシーでも持ってるのか??
ってゆうか、トイレトイレって言うなよ。
本当に女として見てないな。
恥ずかしいだろうが!
もうちょっとデリケートってのを‥‥。
「?、何だ。着いてきて欲しいのか?」
変な間が空いたせいで、とんでもない勘違いをするルークに、顔を真っ赤にさせ立ち上がりドアノブに手をかけた。
「一人で行けるから!!バカっ!」
バンッと勢いよくドアを閉まる。
しかし、ルークはシロナが怒った理由がいまいちわかっていない様子だ。
「何怒ってんだ‥‥あいつ」
「‥‥クゥ〜」
コハクはルークと共に部屋に残ったが、呆れたようにクゥとため息をついた。
はぁ‥‥。よかった。
何とか間に合った。
手を洗い、ハンカチで拭きながら廊下に出るやいなや、私は深いため息をついた。
私って‥‥そんな女らしくないだろうか。
いや、確かに不器用だし、喋り方も女の子らしくないけど‥‥。
ちょっとくらい意識してくれたっていいだろう‥‥ばかルーク。
「はぁ〜〜〜〜〜‥‥」
って!
何考えてるんだ私は!
これじゃまるで、私がルークを意識してるみたいじゃないか!
そ、そんな事は無い!
断じてないぞ、私がルークなんかを!
「絶対な‥‥」
無い!
と断言しようとした時。
子供たちの声に掻き消された。
それははしゃぎ声では無く、喧嘩をしている様な声だった。
「??」
外か?
気になった私は、その現場に向かう。
中庭へと繋がる窓の向こうから、ギャーギャーと騒ぐ声が‥‥。
広い中庭の奥の方で、子供たちが何かを囲って蹴ったりしている。
そして、私は自分の目を疑った。
子供たちの中心で丸くなる少女。
そう、それは
あの
黒髪の少女だった。
「コラーーーー!あんたら!何やってるんだ!!」
自分でも驚いた。
気づいたら体が勝手に窓を飛び越えて、その少女の元へ駆け寄っていた。
やべっ
逃げろ!
などの声を上げ、囲っていた魔物の子供たちは散り散りに逃げていく。
しかし、私はそれに目もくれず、真っ先に少女の身を案じた。
「だ、大丈夫か?!」
「うっ‥‥。うん。ありがとう、お姉ちゃん」
少女は汚れたウサギのぬいぐるみを大事に抱え、丸まっていた。
顔や体には生傷が‥‥。
保母さんが言ってたのはこの事か‥‥。
「あんた名前は?何で虐められてたんだ。保母さんも心配していたぞ」
「あたしの名前はナディア‥‥。保母さんはあたしの心配なんてしてないよ」
「?。なんでそう言いきれるんだ」
「何で?‥‥そんなの簡単だよ‥‥。だって‥‥あたしはここの人達にとって邪魔な人間だから」
そう言い放ったまだ幼い少女の目は、酷く暗く、光の無い瞳をしていた。




