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 あちこちの街とか、他の捕虜収容所ってさ、立地とか、装備とか、こっちがいろいろ不利だったんだけど。

 今の解放軍、波に乗ってるからねー。数と勢いで押しちゃって、すっごく順調に、街を解放して、捕虜になってた人たちを助け出してる。

 そーやって活躍し始めたからかな。全っ然いなかった参加志願者が、最近はどんと増えてるんだって。

 対応してる騎士(エクエス)様とか、各隊の隊長とか、もうてんてこ舞いらしいよ。

 んでも、見たことない顔が、どんどん増えるってことじゃん? あんま、いいことばっかじゃないんだよね。

 特に、グレース……と一緒にいるリディが、メッチャ苦労してるんだって。

 あたしもいろいろ聞いてんだけど、どのくらい大変か、確かめとこうと思って。今日はイハル(にぃ)の天幕前でおしゃべり中。

「また来たわね」

 冷ややかな目をしたリディが、割と近くの木を睨みつけてる。ちなみにグレースは、ガタガタ震えてて、今にも死にそうな感じ。

 とりあえず、グレースをギュッて抱き締めてみた。

「何回言っても、役立たずにして捨ててきても、また来るのよね。隊長に頼んでも、まさに焼け石に水なのよ」

 リディが役立たずにするって、それって、つまり……。うっわ、あれやられても、まだ来るの?

 てか、イハル兄、本気で怒ると怖いし。しつこいのには、絶対『ガツ』食らわせるっしょ?

 それでも、まだ来んの?

「いい根性してんじゃん。それ、戦場で出してくれたらいいのに」

「ねぇ? 本当に、困りものだわ」

 ひょいと肩をすくめたリディに、あたしはダメ元で提案してみる。

「ってかさ、四六時中、イハル兄がグレース連れて歩けばいいんじゃない? いっぺんイハル兄に手ぇ出して、死ぬ一歩手前の痛い目見たら、さすがにわかるっしょ。イハル兄はあたしと違って、複数を相手にすんの得意だし」

「えっと、あの……」

「それは最終手段でしょ?」

 あー、うん。あたしも、そう思ってる。

 でもさ。

「寝込みを襲うやつも出てくるかもしんないし。グレースに関しては、絶対早めに手を打った方がいいって。あたしが聞いた話じゃ、他の隊でも、僧侶(クレールス)の子とか、やっぱかなり絡まれてるって話だよ? ほとんどは彼氏いるから、公認でべったり張りついてるらしいけど。どうせイハル兄、軍議以外は暇じゃん? グレースにベッタベタにくっついときゃいいのに」

 ついでに、グレースとイハル兄が恋人になったら、なーんて、想像したくなるじゃん?

 そしたらさ、母さんが、イハル兄にかまい倒すっしょ? あたしに彼氏いないの、いー加減スルーしてくんないかな、って。

「……軍議以外は暇な人間で悪かったな」

「ぅひぇぁっ!」

 びっくりしすぎて、変な声出た!

 っていうかさ、イハル兄って、絶妙なタイミングに来るよね。

 心臓バクバク言わせながら、何となくイハル兄を見上げた。イハル兄は、グレースを見てるっぽい。

 あ、そういえば、グレースのガタガタ、止まってる。

「なあ、ユノ。問題のあるやつらがいつ頃出てきたか、わかるか?」

「へ?」

 何? そっちが知りたいの?

「ほら、なーんか急に人が増えて、すぐ? そのくらいから、母さんとこのシーラとか、グレースを守ってるリディから、ブチブチ愚痴聞くようになったけど」

 シーラは、母さんの隊の僧侶の女の子。あたしより一コ年上で、竜騎士(ウォラーレ)の彼氏持ち。

 あ、もちろん、彼氏はベネットじゃないよ? 話したことあるけど、真面目でしっかりした人だし。あの人は、ちゃーんと騎士って感じがする。

「……なるほどな。リディ、どうだ?」

 そこでグレースに聞かないなんて……イハル兄じゃない! イハル兄、気遣いのできない人で超有名だったのに!

「グレースに関しては、最初は十日くらい前ね。一日に何回も惑わすのが面倒になって、隊長に頼むようになったのが、確か六日前かしらね」

「時期としては、だいたい一致しているな」

「まあ、周知が難しいからでしょ? 一気にあれだけ増えると、注意なんてろくすっぽ聞いてない連中が出てきて当然だもの」

 呆れた顔のリディが、大きなため息。イハル兄も、腕を組んで考え込んでる。

「グレース、次に王女殿下の天幕に行くことがあったら、今の話を伝えてくれ。俺も、将軍や各隊長に伝える。それと、被害に遭ったら、すぐに各隊長に報告するよう、ユノやリディからも周知してやってくれ」

 何気に、イハル兄も結構権限もってんだね。それとも、先に何か言われてたのかな?

 まあ、いいや。

「ん、わかった」

「はぁい」

 あたしとリディが返事をする。グレースは、コクコク頷くだけ。んでも、やっぱ可愛いよね。

「それから、グレースは絶対に一人になるな。どこへ行くにも、リディなりユノなり、連れて歩け」

 もっかい、グレースがこくっと頷いた。

 あー、うん、そうだね。あたしでいいなら、いっくらでも一緒にいるけどさぁ。

 ガタガタ震えんの、あたしじゃどうにもできないんだけど。リディも一緒じゃないと、相手追っ払えないじゃん?

 そもそもあたし、人間凶器とか言われてるシノ(ねぇ)みたく強くないし?

「……あ……えっと、あの……」

「何だ?」

 イハル兄が聞く気だ! 昔は、平然と「うざい」とか言ってたくせに!

「あ、あの……イハルさんとご一緒することは、ダメ……ですか?」

 うっわ、可愛い! 可愛すぎるよ、グレース!

 そこでちょこんって首傾げるとか、エレンさんだったら「鼻血が出そうです」とか言い出すよ、絶対!

 あの人、初対面のあたしにも、鼻血がどうとか言ったし。

 ってか、イハル兄、何て答えるのかな?

 ワクワクしながら、あたしもイハル兄をジッと見る。

「……軍議中以外ならな」

 あははっ、すっごい仏頂面! 嬉しそうにふわって笑ったグレース見て、ますます怖い顔になってるし!

 イハル兄、照れすぎ!

 なーんだ。イハル兄ってば、案外まんざらでもないってことじゃん。


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