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「あ……ありがとう、ございます……」
言いながら、グレースの目が閉じてく。
や、ちょっと待って! まだ寝ないで! イハル兄じゃないし、あたしじゃ、グレース抱えて運べないってば!
「イ、イハル兄ぃ! グレースが!」
一か八か。あたしは大声でイハル兄を呼んでみる。聞こえる距離なら、多分、来てくれるハズ。確信はないけど、寝てても、多分起きてくる!
バサッて天幕の入り口をめくったのは、リディが先だった。
「ちょっと、ユノ! 何があったの?」
「グレースが寝ちゃいそうなんだけど……って、寝てるーっ!」
軽くて全っ然気づかなかったけど、あたしにもたれて寝てんじゃん!
早っ、寝るの早っ!
「しょうがない子ねぇ」
クスクス笑ってるけどさ。グレースって、あたしとそう変わんないくらいだと思うし。リディより二、三歳下ってとこじゃないの?
「ってかさ、グレースっていくつなわけ?」
「隊長たちが言うには、十六ですって。あたしの二つ下ってことは、ユノと同じでしょ?」
へぇ……同い年なんだ。そんな気はしてたけど、そうなんだ……。
ここでリディが言葉を切って、あたしの頭のてっぺんから足の先まで。ゆっくり、ジロジロ、じっくり眺めた。
確かにあたしは、リディみたいに、出るとこ出て、ヘコむとこ引っ込んでないけどさぁ。いくら何でも失礼だよ!
「どーせあたしは子供っぽいですよーだ!」
「まあ、セイライ国の人って、基本的にみんな童顔で幼児体型だものね。セイガ隊長なんて、ああ見えて、もうすぐ五十なんでしょ? ユノの上に兄弟たくさんのお父さんなんて、思えないわ。それで、隊長だけまったく違うのは、実は年齢詐称してるからじゃないかって、ちょっと疑ってるんだけど」
「違うよ。イハル兄は、お父さんがマーハルニーファの人だから、ちゃーんと年相応に老けてんだって」
「……誰が、何だと?」
リディが噴き出した瞬間、イハル兄の声がした。しかも、眠くてメッチャ機嫌の悪い声。
ヤバっ。早めに押しつけて、逃げなきゃ!
「あ、あのねっ、イハル兄。グレースが寝ちゃったんだけど、どうしたらいい?」
「……一番奥に転がしとけ」
「ほーい。……って、あのさぁ、イハル兄。あたしが動くと、グレース、多分下に激突するんだけど」
いっくらグレースが軽いっていってもさぁ。寝てる人間、片手でひょひょいって支えきれる自信なんて、さすがにないって。
「あー……わかった、わかった」
面倒くさそうに天幕の中に入ってきて、あっさり、軽々グレースを抱き上げて。
そこまでは、結構絵になるじゃん、って思えたんだけど。
なーんでその後、荷物みたいにポイ、って放り出すかなぁ。
「あのさぁ、イハル兄。グレースはあたしじゃないんだから、それやると痛いって。ケガしたら可哀想だよ」
「……そうか?」
「そーゆーもんなの! あたしやリディなら、ポイされようがケガしようが、多分へっちゃらだけどね」
「あら、あたしはこの顔に傷をつけられたら、隊長相手でも怒りますよ? 大事な色香の効果が半減しちゃうじゃない」
リディってば、あのすっごい凶器の色気のために、守るのは顔だけでいいんだ……足とか腕とか、ケガしてもいいのかなぁ? 盗賊として、影響出ないわけ?
「ああ、わかっている。二年前から、それだけは気をつけているだろうが」
イハル兄、把握してんの!? しかも、ちゃーんと気ぃつけてんの!? ってか、その勢いで、グレースもしっかり気遣ってあげなよ。
ってかさ、半分寝てるとは思えないくらい、きちっと受け答えしてんだけど……今回くらいは、後でバッチリ覚えてんのかな?
リディっていう証人もいるし、ちょこっと試してみよっかな。
「じゃあさぁ、イハル兄。グレースも気遣ってあげなよ。今時、恩返しがしたいから、なーんて言って追っかけてくる子、いないよ? それも、イハル兄にケガさせる、強い子なんでしょ?」
「……ああ、わかっているから心配するな。グレースにはできれば、死ぬまで俺の隊にいて欲しいと思ってるんだ。最低でも、リディくらいには甘やかすつもりだぞ?」
うっわ……本格的に寝てきてる!
みんなが面白がって言わないから、イハル兄は知らないんだけどさ。徹夜明けでメッチャ眠たい時に、根っこにある本音がツルッて出るんだよね。
いつもは隠してる、イハル兄のホントの本音。
ちなみに、嫌いだけど我慢してる人が相手だと、すっごい怖い無表情で無言。その辺に勝手に生えてる草より、もっとひどい扱いされるんだよ?
……ってことは、なんだかんだ言って、グレースのこと、かなり気にかけてんだね。
んでもさ、これ、覚えてない方が、イハル兄のためにはいいかも。あたしにこんなこと言ったなんて、多分、イハル兄が穴の中に消えたい気分になるはず。
下手すると、あたし、証拠隠滅されちゃうし。
「そ、そっかぁ。じゃあ、あたし、そろそろ戻るねー」
「あたしは少し散歩してくるわ。隊長、ごゆっくり」
そそくさと天幕を出ていくリディにくっついて、あたしも外に出る。
二人で並んで歩いて、天幕から離れて。それから、お互いに顔を見合わせた。
「ねえ、ユノ。隊長の頭、おかしくなってるでしょ」
「違う違う。あれ、単に眠気限界で、死にそうだっただけ。ちょっと本音がダダ漏れになるだけで、別に害はないから。それに、今までのままなら、ひと眠りして起きたら、言ったこと綺麗さっぱり忘れてるよ」
ああいうとこ、セイライ国の人間っぽくないんだよね。だからきっと、イハル兄のお父さんが、ああいう人だったんじゃないかな?
まあ、あたしは、イハル兄の両親に会ったことないけど。会ったとしても、うんとちっちゃい時だし。全っ然覚えてない。
「んでも、聞いたことは他言無用だよ? 話すと、イハル兄の『ガツ』食らうかも、だし」
「言うわけないでしょ、こんな面白いこと。でも、病気とか、そういうことじゃないのね。よかったわ。あれでも一応、あたしたちの隊長だし」
へぇ……イハル兄、ちゃーんと隊長してるんだね。
フラッと一人で行っちゃった時は、すっごく心配したけど……よかった。




