20
新顔に、不用意に女の子に近づかないよう、教育的指導。誰でもいいからさ、早いとこ、やって欲しいよね。
そんなことを、リディやグレースと話してたら。あたしたちは三人まとめて、王女様の天幕に拉致された。
うん、ホントに拉致、もしくは誘拐って感じ。いきなりエレンさんが徒歩で来て、グレース引っ張ってちゃって、あたしとリディが追っかけて。着いた先が王女様の天幕。
これ、もう、どう見ても、さらわれたとしか思えないでしょ。
グレースは、よく連れてかれてたみたいなんだけど。あたしはそーゆーことなかったし、リディもほとんど来たことないんだって。
まあ、これは、お互いにコソコソって話してわかったんだけどね。
ちなみに、グレースは、アルヴィン様も平気っぽい。いても大丈夫なんだって。
「お邪魔しまーす……」
エレンさんが入り口の布を持ち上げてくれてる間に、ササッと入った。
王女様の天幕なんて、あたしは用がないし。ちゃんとした解放軍になってからは来たことないから、メッチャクチャ緊張するー。
入って二歩、前に進んで。中をキョロキョロ見回してみた。
中心辺りに、大きめのテーブル。多分これ、軍議ができるように置いてると思う。んで、向こう側に座ってる王女様と、立ってるアルヴィン様。
天幕の中は、余計なものは何にもない。
右手の奥に、お湯が沸かせる設備があるのが、一番の違いかな? 他は、あたしのとこやイハル兄のとこと、そんなに変わんない。
グルッと一周しかけたところで、隅っこにいる人影に気がついた。
白銀の鎧と、腰に下げた剣。短く刈った薄茶色の髪に、優しそうな薄茶の目に。真面目そうな上に、戦場だと違和感満載の爽やかさがついて。
うん、さすがに、誰かわかんないとか、もうないよ? 他の騎士様とは、何か、雰囲気とかも違うし。
「……ヴァージル将軍?」
ビシッと直立不動でさ。気配、全っ然なかったんだけど。
あっと思って、あたしはグレースを振り返ったけど、ガタガタしてなかった。将軍に気がついたグレースも、不思議そうにしてる。
ってことは、アルヴィン様はともかく、将軍も、イハル兄の同類ってことかぁ。
将軍って、人畜無害って言葉どおりの人っぽいね。
「あら、ユノ嬢は、将軍と面識がおありでしたか?」
エレンさん、メッチャしれっと言ってるけどさぁ。将軍の周りの空気が、パキンって音立てて凍ったよ。
ホント、何でこの二人、そこまで仲悪いの?
「ふふっ、グレースは、将軍も怖くないのね。よかったわ」
ふんわり、ほんわり。そんな感じで、王女様が笑って言う。
この際もう、誰でもいいからさ。何か、面白い話題でも振ってよ。あたし、捨て身の全力で乗るから!
「えっと、あの……こちらの方は……?」
「騎士団長代理で、解放軍全体の指揮を任せているヴァージル将軍よ。三年前に亡くなられた前騎士団長の、ご子息なの。……といっても、私は直接面識がなくて、彼と旧知のエレンが教えてくれたのだけど」
ってか、エレンさんと将軍って、旧知の仲なの? そうは見えなかったんだけど……。むしろ、何かあって犬猿の仲になった、みたいな。
そうそう、元々マーハルニーファ王国には、宮廷騎士団があったんだよね。騎馬隊と、歩兵隊の混成で。
大半が三年前、王様と一緒に死んじゃってる。それでも、若手だけはって逃がしたらしいんだけど、歩兵や騎馬の一部は捕虜になっちゃったんだってさ。その人たちは、ほとんど助け出せたみたいなんだけど。
まだ何人か、生死不明って人もいるみたいだから、どこかでつかまってんのかなぁ?
「将軍は、役職でも名前でも、呼べば返事をすると思うけど……どう?」
サラッと将軍に話題振ってる……さっすが王女様! ちょっとだけ、空気もやわらかくなった気がするし。
「私と認識できれば、返事はします」
「というわけだから、グレースの好きに呼んでね」
……へ? こないだは、呼びかけても返事しなかったじゃん?
なーんか、納得できないんだけどさ。でも、王女様が「座って?」って言うから、あたしは目の前の椅子にさっさと座ってみた。
滅多に右向かなくていいように、一番右の椅子。隣がグレースで、その向こうがリディ。で、エレンさんはお茶淹れてる。
「ところで殿下。私はなぜここに呼ばれたのでしょうか。陣営内の見回りもありますし、用がないのでしたら、これで失礼させていただきたいのですが」
真面目だねぇ、将軍って。そーゆーとこ、いいと思うけど。




