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 今日は、全然落ち着かない。ってか、昨日からちっとも落ち着いてないけど。その前は……バタバタしてたから、全然気にしてなかっただけ。

 将軍との婚約を正式に公表した日も、相当挙動不審だったって、グレースたちから聞いたけど……今日はもっと、怪しいかもしれない。

 だって、この後のことを考えるだけで、わーって叫びたくなるし。

 あ、そうそう、婚約発表なんていうから、すっごい大げさな宴会みたいなのを想像してたんだけど……実際は、王女様とアルヴィン様の婚約発表の場でついでに、って形だった。で、何であの時、将軍があんなに悲愴感満載の顔だったかっていうと、あの日を逃したら個別にやらないといけなくって、集中砲火が怖かったんだって。

 そりゃそうだよね。王女様と一緒なら、やっぱ王女様に話題が集まるもん。

 で、その後に一応確認したけど、あの時断ってても諦めなかったって言われたよ……。

 元々、お貴族様の間じゃ、将軍のことは諦め気味だったっていうか、無理っぽいって思ってたみたい。何人かの女の子に、直接ぶつくさ言われただけで済んだし。その子たちにしても、将軍がいろんな意味でエレンさんみたいになってたからね……すっごいショック受けました、って顔してたよ。

 おかげで、嫌がらせとかそういうのは、何にもなかったし。

 それに、最近は、エレンさんに関しても、諦めてる雰囲気が出てるらしいよ? リアムはすっごい執念深いからね……。まあ、見た目も、割とお似合いってのもあるからかな?

「……そういえばさぁ、先でよかったのかなぁ?」

「陛下のこと? あっちの家が布を収めれば、こっちの家がレースを収める、と献上でもめにもめて、婚礼衣装に手間取っているだけで、半年もすれば無事に執り行われるわ。だから、ユノ嬢は心配しなくても大丈夫よ。むしろ、陛下にかまけてもらって、ユノ嬢は自由にできたでしょ?」

「まあ、そうかもね」

 呆れた顔でちょいって肩をすくめたエレンさんは、鎧姿じゃない。お化粧もバッチリで、いつもよりさらに美人になってる。ただ、武器が持てなくって心許ない、って言ってたっけ。

 武器と鎧の代わりに、すっごいキラキラした糸で刺繍した、黒色のドレスを着てる。胸とか腰とか強調してて、ある意味目の毒っていうか、目のやり場に困るっていうか。

 ……何か、あたしが悪目立ちしそうで、ちょっとね。

 実際には、いろんなことで、王様と将軍の間でかなりもめたみたい。で、結局あたしは、セイライ国の正装って形になったっぽいね。まあ、国が関わってるんだ、って意思表示の意味もあるらしいけど。

 あ、王様は「護衛をきっちりつけろ!」って大騒ぎしてたよ。んで、母さんに「兄さんは黙ってて」って言われて撃沈してたけどね。

 ちなみに、セイライ国の女性用の正装って、ちょっと変わってるんだ。普段着てる傭兵の服の裾を、ちょっとヒラヒラにして足元まで伸ばして、腕に薄手の長ーいカフス袖をつける感じ。全体的に、ズルズルした見た目になるのかな。とにかく動きにくいから、正装ってわけ。

 もちろん、場に合わせて色を変えたり、飾りをつけたりするけど……今日のあたしの服は、だいぶ派手かな。赤色の地だし、レースもついてて、割とキラキラしてるし。

「それにしても、まさかたった半年で、婚約公表からここまでこぎ着けるなんて思わなかったわ……本当に、ヴァージルは独占欲の固まりね」

「あー、そういえば、何かその辺、王様ともめたらしいよ? あたしが十八になるまで待てだの、待てないだのって」

「……イハル隊長は待つんでしょ? もう半年ちょっとの話なんだから、ヴァージルも待てばいいのに」

 呆れ果てた顔で、エレンさんがバッサリ吐き捨てる。

 前よりはちょっとマシになったけど、やっぱ仲はよくないみたい。まあ、殺気全開じゃなくなっただけ、あたしも一緒にいてハラハラしなくて楽だけどね。

 そうそう、だからイハル兄(にぃ)とグレースは、来年の今頃かな? 今から楽しみだよね!

「そういえば、昨夜は寒かったでしょ?」

「ええ。事前にユノ嬢が寒いと教えてくれたから、夜着も春のものにしたのだけれど……まさか、ここまで寒いなんて思わなかったわ」

 今、あたしとエレンさんがいるのは、セイライ国の王都にある、立派な王城の客間。王都は、マーハルニーファの国境から、さらに北に行ったとこにある。

 マーハルニーファの王都はもう夏だけど、こっちは、マーハルニーファからしたら春先みたいな寒さが残ってるわけ。マーハルニーファの温度に慣れてるエレンさんだと、下手したら寒くて凍えるよね、って思って。ちゃんと前もって言っておいたんだけど。

 昨夜は珍しく、がっつり冷え込んでさぁ。あたしでも涼しかったなぁ、って思ったから、エレンさんだと絶対寒いよね。

 で、何でエレンさんとここにいるかって言うと。

「それにしても、私とユノ嬢だけセイライ国で、他のセイライ国の列席者はマーハルニーファだなんて」

 エレンさんが呆れた顔で笑う。

 将軍がこだわったのは、早さ。そこは王様が譲ったけど、逆に、あたしがセイライ国から出るって形を強行したんだって。お互いに条件を飲みあった、って感じかな?

 ただ、こっからマーハルニーファまでは、結構かかる。馬に乗ってけばいいんだけど、あたしはそんなに乗馬が上手じゃないし。馬車だと、前日に出ないと無理ってことで、エレンさんが名乗りを上げてくれたんだよ。

 ドナなら、馬車や騎馬よりうんと早いしね。

「ああ、私、女で竜魔騎士(ウェネーウォラーレ)でよかったわ。ヴァージルより先に、綺麗で可愛らしいユノ嬢を、こうして堪能できるんだもの!」

 ……まあ、エレンさんのあれなところは相変わらずだけど。

「さて、そろそろ時間ね。ユノ嬢、忘れ物はない?」

「うん、大丈夫」

 ってか、着てきた服だけでいいはず。夜着は、家にあったやつを使ったし。

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