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……あ。
鏡台の上に置いてた、忘れ物発見!
あちこちまだらに黒ずんだ、ヘザーそっくりな首飾りを、あたしはギュッと握り締める。
この首飾り、どんだけ磨いても全然綺麗にならないんだよね。それも、将軍と結婚するって決めた次の朝に見た時から、ずっと。
将軍に聞いてみたら、リアムからもらったやつがそうなったって。
あの日の朝は、ちゃんとピカピカに磨いてからつけたし。
……ひょっとして、これに込められたお祈りってさ、相当すごいんじゃないの?
「ああ、それね……リアムが持っている恋愛成就のそれ、どうにかして取り上げられないかしらね……」
エレンさんが遠い目をして呟くのも、しょうがないよね。こんだけ、絶大な効果を見せられたらさぁ……あたしも、誰かで見てからだったら、多分つけなかったと思うし。
場合によっては、一種の呪いだよ。
「じゃあ、行きましょう」
まとめておいた荷物を持って、エレンさんがドアを開ける。あたしが先に出て、エレンさんがきっちりドアを閉めた。
廊下には誰もいない。
「……静かだね」
「……さすがにこれは、静かすぎないかしら」
普通なら、朝ご飯時だもんね。うん、嫌な予感がしてきた。
エレンさんと顔を見合わせて、一緒に苦笑いして。迷うから、エレンさん頼みでお城の外に出る。
あーっ、やっぱり……。
出口から門まで、ズラッと並んでるのは、お城で働いてる人たち。あたしと変わんない年の人は、あたしがどうとか、わかんないと思うけど……でも、ちゃんと並んでる。年配の人たちは、何でか静かに泣いてるし。
特に、母さんと同じくらいの女の人たちが、「セイガ様が……貴重な癒やしが……」ってブツブツ呟いてて怖いんだけど……あたし、父さんじゃないよ? ってか、父さんは癒やしにならないと思うけど?
それとも、他の人には違うのかな?
「……ドナは、裏庭につないでるのに。これは、一度門から出ないとダメかしらね」
困った色混じりの苦笑いで、エレンさんが軽く首を傾ける。
「端くれだけど、セイライ国の王族として出てくから、しょうがないよ。いっぺん出て、裏から回ろっか」
あたしもため息をついちゃうよ。
王様も将軍も、マーハルニーファとセイライ国の、国同士に関わるれっきとした結婚だってことを、他の国──特にガイルファラに知らしめるって言ってたから。
要は、これからしばらくの間、マーハルニーファに手を出すなら、セイライ国が黙ってないよ、って脅し。逆は……ないね。いくらガイルファラでも、さすがにこっちには来ないと思う。
単なる一国民っていう名の、大量の傭兵未満が暮らしてる国だもん。他の国みたいに兵団と一般市民じゃなくって、みんな戦闘要員だし。
マーハルニーファが自力で立っていられるくらい、しっかり立ち直ったら。その時はもう、セイライ国の後ろ盾なんていらないだろうしね。
泣きながら呟いてる怖い人たちと、だるそうにしてる正直な若い人たちの間を通って、街に出る。
うっわ……街にも続いてた!
「……これさぁ、あたしが遅刻、ってオチがついたりしないよね?」
「そうなるかもしれないわね。まあ、うろたえているヴァージルが見られそうだもの、それはそれでかまわないでしょ」
「えっ、いいの!?」
ってか、遅刻はやっぱまずいっしょ。それに、あんまり待たせたくないし……後が不安だから。
同じことを想像したのかな? エレンさんが、スッと真顔に戻った。
「……さっさと通り抜けて、向かいましょ」
「うん」
エレンさんと並んで歩くと、みんなは真っ先にエレンさんを見る。男の人は胸に目が向いてるし……まあ、美人だし、出るとこ出てるし、やっぱそうなるよね。エレンさんは静かに怒ってたけど。
街もグルッと回って、やっとお城の裏口から戻って来れた! ドナが待ちくたびれたみたいで、ちょっと目つきが怖かったよ……。
ドレス姿でも、エレンさんはあたしをひょいっと抱き上げて、荷物を持ったままドナに乗り込んでく。
エレンさんって、すっごいね……竜の鱗って、刃物みたいに尖ってるのに、ドレス引っかけたりしないで行けるんだもん。
「できるだけ急ぐけど、微妙に遅刻かしらね」
楽しそうに笑うエレンさんは、ドナに飛ぶよう合図を出す。跳び上がった後、王都を中心にグルグル何回か旋回して、それからマーハルニーファに!
寒っ! 慣れてるあたしでも、この恰好で風切ると寒いよ! 長い手袋してるとはいっても、肩を出してるエレンさんは、もっと寒いんじゃ……。
「あっ、エレンさん、ちゃんとあったかくしといてね」
「……ゴメンなさい、ユノ嬢。私の荷物から、防寒具を取ってもらっていい?」
「うん、わかった」
ちょっと失礼して、エレンさんの荷物から防寒具を探してっと。あった!
そーっと立ち上がって、転ばないように気をつけて、エレンさんの背中に防寒具を乗せた。
「あ、ありがとう」
肩のとこを押さえてたけど、エレンさんは片手で器用に毛皮のマントを止める。
あたしも寒いから、マント羽織っておこうかな。




