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そういえば、何となく将軍を見た時に目が合わなかったことって、ほとんどなかったよね。パッと逸らされちゃうことはあったけど。
もし、将軍を見ても、目が合わなかったら? それはちょっと……ううん、だいぶ、寂しいかも。
左手を唇の下にグッと当てて、あたしはもうちょっと考えてみる。
あたしがはっきり断ったら、将軍はどうするんだろ? 真面目な人だし、きっと、家のために割り切っちゃうよね。
そうなったら……あたしじゃない誰かに笑いかけたり、一緒に歩いたり、するのかな? たとえば、あのお貴族様の女の子のどっちかとか。最近、追っ払ったっていう女の子とか……?
「……それは、嫌だなぁ……」
右手が一瞬だけ揺れて、うっかり声に出してたことに気がついた。
ハッとして将軍を見たら、傷ついたとか、そんな言葉じゃ表現しづらい、すっごい複雑な顔で。
「あ、ち、違うよ! 今あたしが考えてたことが嫌だっただけで! 将軍が嫌ってわけじゃないから!」
ホントのこと言ったんだけど、将軍はごまかしたと思ったのかな? 悲しそうな、痛そうな顔は、全然変わんなくって。
心臓がギューッとしぼられたみたいになって、メチャクチャ痛い。
「……ここで断ったら、将軍のことだから、割り切って他の子と結婚するんだろうな、って思って。で、その子に笑いかけたりするのかな、って思ったら、嫌だって思って。そのままうっかり、嫌だってとこだけ言っちゃっただけだから!」
勘違いは正さないと、ってあたふたしてたから、思わずそこまで言っちゃったけど……ひょっとして、言わなくていいことまで言っちゃったかも?
将軍はびっくりした顔で、あたしをジーッと見てきて。それから、ゆっくりだけど、ふわって笑った。
あたしの心臓は、両手でギュッとつぶされたみたいに、うんとちっちゃくなっちゃった気がする。
……でも、将軍が笑ってくれたことが、すっごく嬉しい。
「では……私と、結婚してくれますか?」
「えっと……」
即答はしない……っていうか、できないよね。
将軍と結婚したら、お貴族様とも関わんないといけないし。あたしの場合、お貴族様のやり方を覚えたりとか、ホントいろいろと大変なことになると思うんだけど……んでもさぁ。
他の子に今いる場所を譲るなんて、したくないから。
だったら、ビシッと覚悟を決めて飛び込むしかないじゃん?
はーい、覚悟を決めるよ? よーし、決まった? うん、もう迷わないね?
「いいよ」
きょとんとした顔で、将軍はあたしを見てる。だからあたしは、ニッコリ笑ってみた。
まあ、笑おうって思って笑ったことはないから、ちょっとくらい、引きつってたかもしれないけど。
「誰かに譲れない、って思ったんだもん。しょうがないよね」
「…………」
しばらくぼんやりしてた将軍が、いきなり立ち上がった。しかも、あたしの右手をギュッとつかんで。おかげでグイッと引っ張られて、あたしも立ち上がるはめになったし。
「……今、かろうじて冷静になれたので、この隙に傭兵宿舎の入り口まで送っていきます」
「へ? あ、うん、そっか。もうだいぶ遅い時間だもんね」
窓を見たら、外が真っ暗だった。ってことは、今日はお風呂、入り損ねちゃったよね。まあ、明日の朝、エレンさんと訓練した後で入ればいっかな。
将軍に引っ張られて、部屋から出て、薄暗い廊下を歩いてく。今いた部屋が割と明るかったから、廊下がすっごい暗くて、怖い。
ほら、暗いとこってさ、お化けとか出てきそうじゃん? シノ姉とカノ姉が怖い本ばっか読むから、苦手になっちゃったんだよね。特にカノ姉は、おどろおどろしくって、本気で泣くほど怖かったもん。
つかまれてた手が離れないように、あたしからもギュッと握っとく。
だって、ここで一人になったら、あたし絶対帰れないし。怖くて泣くのも、この年になったら、やっぱ恥ずかしいじゃん?
将軍は何にも言わないで、しっかり手を握り直してくれた。
うん、これなら、簡単に離れないね。よかったぁ……。
相変わらず、どこを通ったかわかんないまま外に出た。左に向かうと傭兵の宿舎だよ。
ぼんやりした月明かりしかないから、外は中より暗いんだけど、外だからかな? 廊下より、怖いって感じはしないね。
「……では、また明日」
「うん、また明日ね」
宿舎の入り口で、パッと手を離した将軍が言った。だからあたしも、同じことを言っといた。
久しぶりに、騎士様たちの訓練にも行こうかな。
宿舎に入って階段上って、リディももう寝てるかもしれないから、そーっと静かに自分の個室に入って。
部屋の窓から下を見てみたら、将軍はまだ立ってた。
勢いよく開けると、ギギーッて嫌な音がするから、窓はちょっとずつ、ゆっくり開けてっと。
ちょこっと顔を出して、こっちを見た将軍に手を振ってみる。安心したみたいに、ふわって笑って、将軍は帰ってった。
……ひょっとして、あたしがちゃんと部屋に戻るまで、待っててくれたのかな?
苦手だなぁ、ってずっと思ってた女の子扱いだけど……今は、勝手に顔が笑っちゃうくらい、すっごく嬉しい!




