↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
124/128

124

 そういえば、何となく将軍を見た時に目が合わなかったことって、ほとんどなかったよね。パッと逸らされちゃうことはあったけど。

 もし、将軍を見ても、目が合わなかったら? それはちょっと……ううん、だいぶ、寂しいかも。

 左手を唇の下にグッと当てて、あたしはもうちょっと考えてみる。

 あたしがはっきり断ったら、将軍はどうするんだろ? 真面目な人だし、きっと、家のために割り切っちゃうよね。

 そうなったら……あたしじゃない誰かに笑いかけたり、一緒に歩いたり、するのかな? たとえば、あのお貴族様の女の子のどっちかとか。最近、追っ払ったっていう女の子とか……?

「……それは、嫌だなぁ……」

 右手が一瞬だけ揺れて、うっかり声に出してたことに気がついた。

 ハッとして将軍を見たら、傷ついたとか、そんな言葉じゃ表現しづらい、すっごい複雑な顔で。

「あ、ち、違うよ! 今あたしが考えてたことが嫌だっただけで! 将軍が嫌ってわけじゃないから!」

 ホントのこと言ったんだけど、将軍はごまかしたと思ったのかな? 悲しそうな、痛そうな顔は、全然変わんなくって。

 心臓がギューッとしぼられたみたいになって、メチャクチャ痛い。

「……ここで断ったら、将軍のことだから、割り切って他の子と結婚するんだろうな、って思って。で、その子に笑いかけたりするのかな、って思ったら、嫌だって思って。そのままうっかり、嫌だってとこだけ言っちゃっただけだから!」

 勘違いは正さないと、ってあたふたしてたから、思わずそこまで言っちゃったけど……ひょっとして、言わなくていいことまで言っちゃったかも?

 将軍はびっくりした顔で、あたしをジーッと見てきて。それから、ゆっくりだけど、ふわって笑った。

 あたしの心臓は、両手でギュッとつぶされたみたいに、うんとちっちゃくなっちゃった気がする。

 ……でも、将軍が笑ってくれたことが、すっごく嬉しい。

「では……私と、結婚してくれますか?」

「えっと……」

 即答はしない……っていうか、できないよね。

 将軍と結婚したら、お貴族様とも関わんないといけないし。あたしの場合、お貴族様のやり方を覚えたりとか、ホントいろいろと大変なことになると思うんだけど……んでもさぁ。

 他の子に今いる場所を譲るなんて、したくないから。

 だったら、ビシッと覚悟を決めて飛び込むしかないじゃん?

 はーい、覚悟を決めるよ? よーし、決まった? うん、もう迷わないね?

「いいよ」

 きょとんとした顔で、将軍はあたしを見てる。だからあたしは、ニッコリ笑ってみた。

 まあ、笑おうって思って笑ったことはないから、ちょっとくらい、引きつってたかもしれないけど。

「誰かに譲れない、って思ったんだもん。しょうがないよね」

「…………」

 しばらくぼんやりしてた将軍が、いきなり立ち上がった。しかも、あたしの右手をギュッとつかんで。おかげでグイッと引っ張られて、あたしも立ち上がるはめになったし。

「……今、かろうじて冷静になれたので、この隙に傭兵宿舎の入り口まで送っていきます」

「へ? あ、うん、そっか。もうだいぶ遅い時間だもんね」

 窓を見たら、外が真っ暗だった。ってことは、今日はお風呂、入り損ねちゃったよね。まあ、明日の朝、エレンさんと訓練した後で入ればいっかな。

 将軍に引っ張られて、部屋から出て、薄暗い廊下を歩いてく。今いた部屋が割と明るかったから、廊下がすっごい暗くて、怖い。

 ほら、暗いとこってさ、お化けとか出てきそうじゃん? シノ姉(ねぇ)とカノ姉が怖い本ばっか読むから、苦手になっちゃったんだよね。特にカノ姉は、おどろおどろしくって、本気で泣くほど怖かったもん。

 つかまれてた手が離れないように、あたしからもギュッと握っとく。

 だって、ここで一人になったら、あたし絶対帰れないし。怖くて泣くのも、この年になったら、やっぱ恥ずかしいじゃん?

 将軍は何にも言わないで、しっかり手を握り直してくれた。

 うん、これなら、簡単に離れないね。よかったぁ……。

 相変わらず、どこを通ったかわかんないまま外に出た。左に向かうと傭兵の宿舎だよ。

 ぼんやりした月明かりしかないから、外は中より暗いんだけど、外だからかな? 廊下より、怖いって感じはしないね。

「……では、また明日」

「うん、また明日ね」

 宿舎の入り口で、パッと手を離した将軍が言った。だからあたしも、同じことを言っといた。

 久しぶりに、騎士(エクエス)様たちの訓練にも行こうかな。

 宿舎に入って階段上って、リディももう寝てるかもしれないから、そーっと静かに自分の個室に入って。

 部屋の窓から下を見てみたら、将軍はまだ立ってた。

 勢いよく開けると、ギギーッて嫌な音がするから、窓はちょっとずつ、ゆっくり開けてっと。

 ちょこっと顔を出して、こっちを見た将軍に手を振ってみる。安心したみたいに、ふわって笑って、将軍は帰ってった。

 ……ひょっとして、あたしがちゃんと部屋に戻るまで、待っててくれたのかな?

 苦手だなぁ、ってずっと思ってた女の子扱いだけど……今は、勝手に顔が笑っちゃうくらい、すっごく嬉しい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。