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ご飯はもちろん、残してない。あんなおいしいご飯、残すなんて考えられないし! お茶も残さず、ググッと飲み干して。
「ごちそうさまでした! お腹いっぱい、おいしかったーっ!」
このままお風呂入って寝ちゃいたいくらい、満腹で幸せーっ!
っと、でも、その前に、将軍に渡さないとね。
腰の小物入れから、首飾りと革紐が入ってる袋を取り出す。
「将軍、手、出して」
左手のひらを上にして、こっちに差し出してくれた。そこに、袋をぽとん、と落とす。あ、もちろん、手のひらのホントすぐ上からだよ? うんと高いとこから落としたりはしないよ?
「この間、銀細工の職人さん目当てで、エレンさんとリアムとリーグレーネの街に行ってきたんだけどね。いっつも訓練でお世話になってるお礼と、ちょっと過ぎちゃったけど誕生日のお祝いに、将軍にあげる」
すっごいぽかーんとしてるけど、多分びっくりしてるんだと思う。あたしも、誕生日の話をしたことない人が知ってたら、やっぱりびっくりするし。
っていっても、何日前が将軍の誕生日だったか、もう忘れちゃってるんだけどね。
「……私の誕生日を、知って…………ああ、エレンですか?」
「うん。エレンさんと話してた時に誕生日の話題が出て、それで教えてもらったんだよ」
「ありがとう、ございます」
前も、こんな顔してるとこは、見てるはずなのに。
メッチャ嬉しそうにふわって笑う将軍は、何となく、今日のあたしには心臓に悪い。何が、って言えないけど、とにかく心臓がギュッてなって困るんだもん。
「開けてみても、いいですか?」
「あ、うん、どうぞ」
……気に入って、くれるかな?
急に、そんな些細なことが気になってきたんだけど……いらない、って言われたらどうしよう……。
布で作ったちっちゃな袋を、将軍は手のひらの上でひっくり返す。シャラ、って鎖が鳴って、騎士様を模した首飾りがポトッと落ちてきた。
「……騎士、ですね」
「うん。いろいろあって迷ったけど、健康祈願のお祈りが込められてるやつなんだよ」
「ああ……リアムからもらったものと同種なのですね」
「リアムから? あっ、恋愛成就のやつ?」
ギョッとした顔で、将軍があたしをジーッと見てきたんだけど……知らないって思ってたのかな? 一緒に行って買ったんだから、知ってても別におかしくないじゃん。
「いくつも買うくらい、全力でエレンさんを落としにいくのかと思ってたけど、一個は将軍にあげたって聞いたからさぁ」
女の子を追い払う道具に使った、ってことも一応知ってるけど……まあ、そこは聞かない。
……何となく、今は聞きたくないし。
「あ、その中に、革紐も入れてあるんだ。もし、鎖だと当たって痛いなら、革紐だとちょっとは楽かな、って思って。あたしは長さもちょっと足りなかったし、革紐にしちゃったけど」
将軍は首飾りをそっと手で包み込んで、人差し指一本で器用に革紐を引っ張り出してる。あるのを確認して、もう一回、あたしを見てきた。
「ユノさんも、買われたのですか?」
「うん。ヘザーそっくりのがあったから」
込められてるお祈りは『恋愛成就』だけどね!
何でか、ちょこっと寂しそうに笑って、将軍は首飾りをつけた。胸当てに当たらないとこで、銀色のちっちゃな騎士様はユラユラしてる。
将軍が動いたり、しゃべったりするたびに、ちっちゃな騎士様が戦場を駆けてるみたい。
「ずいぶん短いですね」
「あれ? じゃあ、リアムがくれたやつは?」
苦笑いしながら指でつつく将軍に、サクッと聞いてみた。
だって、リアムだよ? こっそり紐に変えてあるとか、ちゃっかり鎖を長いのにしてあるとか、してそうじゃん? わざわざつけて試さなくっても、リアムだったら長さを合わせやすいと思うし。
「もっと長い鎖でしたよ。きちんと鎧の中に入る、絶妙な加減でしたが……」
さっすがリアム。やっぱ、ちゃんと長さ変えてたんだ。
「あたしでも鎧の下に行かなかったから、将軍じゃ短いとは思ったんだけど……長さを合わせるの、あたしじゃ難しくって。イハル兄は同じくらいの体格だと思うけど、イハル兄に合わせるのも何か違うしね」
「では、こちらは、ユノさんと同じ革紐に変えましょうか」
ユラユラしてるちっちゃい騎士様に触りながら、将軍はそんなことを言う。優しいとか、穏やかとか、そんな言葉が似合いそうな笑顔で。
嫌になるくらい、心臓がギュッとなって、何となく息がしにくくって。
何でか将軍を見てられなくって、代わりに、テーブルの角をジーッと見てみる。んでも、将軍が動くと、空気とか雰囲気でわかるし。
「ねえ、ユノさん」
顔は向けれないけど、一回頷いて、ちゃんと聞いてることは伝える。
立ち上がって、こっちに来る気配がして。あたしの右側の、テーブルとソファの間で、将軍がスッて片膝をつく。鎧でガッチガチに固めてある時も破壊力があったけど、今も十分、破壊力だけはあるよね。
……でもさぁ、そうやって跪いた時って、いい思い出がないっていうか。悪い予感しかしないんだけど。
「迂闊にも、今まで言い忘れていたのですが……」
将軍は、ため息みたいな苦笑いをこぼした。で、あたしの右手をひょいってつかむ。んー……つかんでるんじゃないね。将軍の手の上に、ちょこんと乗っけてる感じ。
こうやって見ると、将軍って、手がおっきいよね。あたしの手が、ちっちゃい子供の手みたいだもん。
「……私と、結婚してくれませんか?」
「へっ?」
な、何か、聞こえた、けど……き、聞き違い?
恐る恐る、将軍を見てみた。
跪いてるから、ソファに座ってるあたしと、目線の高さが変わんないくらいかな? 右側に、将軍の顔があって。
……すっごい悲愴感。
何て言うか、ダメ元で言ってみました、って顔してる。だから多分、ヤダ、って言っても、将軍は「そうですか」で終わらせると思うし。
……嫌だって言ったら、それで終わっちゃう気がするんだよね。
あたしがホントに嫌なのって、何だろ?




