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急に立ち上がった将軍が、こっちに歩いてくる。
「そういえば、ユノさんは夕食を済ませましたか?」
いきなり聞かれて、正直に首を横に振った。だって、食べてないのはホントだし。
「でしたら、何か持ってきますから、ここで食べていきますか?」
「えっ、いいの?」
「たいしたものはできないと思いますが、それでもよければ」
「おいしかったら、あたしは何でもオッケーだよ。基本的に嫌いなものはないし」
夕ご飯抜きになるかも、って思ってたから、ホント、食べ物ならなんでもいいよ! 食べてないってこと思い出したら、メッチャお腹空いてきたし!
すっごく優しい顔で笑って、将軍は「ちょっと待っていてください」って言って、部屋を出てった。
……何か、心臓がちょこっとギュッてなって、全然落ち着かないんだけど。
前はこんなこと、なかったよね? 急にどうなっちゃったんだろ?
エレンさんやリアムにいろいろ言われたから、ってことはない……と思う。言われて考えて変わるなら、イハル兄にも言われたことあるし、とっくに違ってておかしくないじゃん?
それとも、積もり積もってようやく、ってこと? うーん……それも何か、微妙に違う気がするんだけど。
まあ、考えてもしょうがないよね、うん。
ふと気になって、部屋の中を見回してみた。
ソファがすっごいフカフカだったから、そんな気はしてたんだけど……この部屋の家具、メッチャ高いよね? あの本棚もさぁ、中がバッチリ見えるガラスじゃん? あのガラス全部で、セイライ国の全員が数ヶ月、ご飯もおやつも食べ放題の贅沢し放題できるんだよ?
あ、ああいう、外からも中身が知りたい、っていうところは、綺麗なガラスを使うんだけどね。そうじゃないとこは、質の悪い、曇ったガラスを使うわけ。その分安いから、たとえば、厚さを増やしてがっつり頑丈にしたりできるって寸法。
お城の中はそこまで質は悪くなかったけど、この本棚くらい、メッチャ高級ってわけでもなかったかな。
傭兵の宿舎は、そこそこのガラスだよ。一応、部屋の中から外がぼんやり見えるくらいだから。
よーく見たら、目の前のテーブルも、分厚くて重たそうなやつだ。これも高いはず。
……ってか、この部屋の家具って、さすがに将軍の私物じゃないよね? こんだけの部屋を作れる財産持ってるなら、傭兵も気軽にバンバン雇える大金持ちだもん。多分きっと、国の持ち物ってやつだよね?
まあ、どっちにしても、怖くて気軽に触れないし。
一人だとすっごい静かだなぁ、って思ってたら、キイキイって車輪が動く音がした。多分、ワゴンの音。
廊下の絨毯は毛足が短いから、おっきめの車輪をつけたワゴンなら、侍女でも動かせるんだって。まあ、そうじゃなきゃ、給仕とかしてらんないよね。
その音が、この部屋の前で止まった。ってことは、だよ?
あたしはパッと立ち上がって、ドアに近寄って、そーっと開けてみた。
うん、予想どおり! びっくりしてる将軍と、ご飯が乗ってるワゴンがある。ご飯はできたてなのかな? ユラユラ湯気が立ってるし。
「よくわかりましたね」
「ワゴンの音がしたからね」
「ああ、なるほど」
おっきくドアを開けて、っと。
将軍は慣れた手つきで、ワゴンからテーブルの上にご飯を移してく。あたしもちょこっと手伝ったけど、どれもすっごくいい匂いがして、ホントおいしそう!
野菜いっぱいのスープと、パン。それから、根菜をつけ合わせた、魚とお肉の香草焼き。
メッチャ豪華だよね! 魚かお肉、どっちかなら普通だけど、両方だもん。
「お先にどうぞ」
ソファに座ったら、将軍にそう言われた。将軍は? って思ったら、お茶淹れてるみたい。
うーん、匂いでお腹がうんと空いたけど、先に食べるのはちょっと。どうせなら、ちょこっと待って一緒に食べ始めた方がいいっしょ。
「食べないのですか?」
お茶の入ったカップをあたしの前に置きながら、将軍が首を傾げてる。
「お仕事中で待ってるわけじゃないし、お茶も待てないくらいお腹空いてるわけでもないよ?」
微妙な苦笑いで、将軍はもう一個のカップをあたしの向かい側に置いた。そこに、将軍が座って、向かい合わせ。
「お待たせしました。ユノさんの口に合うといいのですが」
「いっただっきまーす!」
パチンと手を合わせて、ちゃんとお祈りもしたし。
まずはスープを食べてみる。
「おいしい!」
うわぁ……食堂とは全然違う! こっちは香辛料がしっかり効いてて、ちょっと舌がピリピリするけど、でもおいしい!
グレースを見てて思うけど、マーハルニーファの人って、刺激物は平気でも、濃い味は得意じゃないみたい。逆にリディは、割と濃い味でも平気で食べてる。でも、味が薄いのは苦手なんだって。
あたしは何でも食べるよ? 薄すぎるのとか濃すぎるのは、やっぱり無理だけど。
んー? あれ? この香草、生っぽいけど……あ、やっぱり生だ。
「乾燥させてある香草じゃないんだね」
庭で自家栽培でもしてない限り、摘んでそのまま使うなんてできないからね。それに、生えない季節ってのもあるし。たいていのお家は、乾燥させて保存しとくってわけ。
でも、やっぱ、乾燥させたやつは、生に比べたら匂いが落ちるからね。
そっか。この香草って、今は生で使えるんだ。
「……エレンが、ユノさんは舌が肥えていると言っていましたが、本当ですね」
「そう? 香草は乾燥ばっかだったし、ホントにいいものは、誰かの誕生日にしか食べなかったよ?」
たとえば、マーハルニーファの野菜だって、いつも食べるのはひと山いくらのやつ。ガイルファラのお肉でも、そんな感じ。
誕生日だから特にいい材料を使って、食後にはおいしいお菓子も出てくるってわけ。
ちなみに、作るのは父さんね。父さんのが、料理は上手なんだよ。あたしに料理を教えてくれたのも父さんだし。
「あ、でも、傭兵として外に出るようになったら、いろんなものを父さんや母さんが食べさせてくれたっけ。変わった料理もあったけど、一度もまずいものは食べてないよ。……あっ!」
そうだ! 将軍に誕生日と、訓練してもらってるお礼兼ねてる首飾り、渡すんだっけ! すっかり忘れるとこだった……。
あー、でも、ご飯中だし……渡されても困るよね? ってか、食べちゃいたいし!
「ご飯食べたら、将軍に渡したいものがあるんだけど」
「え? あ、はい、わかりました」
よーし、これでご飯に集中できる!




