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同じことをグルグル考えてたら、うっかり寝てたみたい。
「ユノさん、エレンさんが呼んでいますけれど……」
ひかえめにドアを叩いて、グレースが教えてくれたよ。
グッと拭ってみたけど、よだれは大丈夫!
「教えてくれてありがとね!」
そのまま飛び出そうとして、ふと、机の上に置いてたものが目に入って。
せっかくだし、渡せそうなら渡しちゃおうかな?
腰につけた小物入れにちゃんと入れて、部屋から飛び出した。
「お待たせ!」
「可愛い女の子に待たされるのは、期待と不安が入り混じって素敵よね」
……エレンさんは、やっぱりよくわかんない人だね。とりあえず、怒ってないことはわかったけど。
宿舎の外に出たら、もう薄暗くなってた。ほとんどの人は、夕食食べてお風呂入って寝る、って感じで、そのどれかをやってる頃。
……あ、夕ご飯忘れてた。戻ってきたらないかも。
「ユノ嬢、ひとつお願いがあるのだけど」
お城に向かって歩きながら、エレンさんが言う。
「城内に入ったら、黙っていてね。私が手招きをしたら、そこのドアの前に立って、ジッと待ってて。ドアは私が叩くから。その後は……ユノ嬢にお任せするわ」
「よくわかんないんだけど……つまりあたしは、エレンさんが連れてってくれたドアの前に立てばいいってこと?」
「まあ、大ざっぱに言ってしまうとそういうこと」
ってことは、城内にあって、使ってない部屋に連れてかれるってことかな? そういうとこなら、こっそり会うのには最適だし。
お城の中は、廊下にも絨毯が敷いてある。だから、歩いても足音はしないんだよ。
階段上ったり、廊下を歩いたり、ウロウロして。エレンさんがいきなりピタッと足を止めた。
多分、そこが目的地だね? でも、ここってさ、ずいぶん奥まってない? 何となく、普通に来た人が来る場所じゃないっていうか、そういう雰囲気があるんだけど。
ちょいちょい、って手招きされたから、ドアの前に立ってみる。
メッチャしんとしてて、ここにホントに将軍がいるのか、実は半信半疑ってくらい静か。
あたしの右側から、エレンさんがドアを叩いた。
「ちょっと用があるのだけど、開けてくれる?」
言ってすぐに、エレンさんはスーッと離れてく。
椅子から立ち上がる音がして、カチャカチャって音もして。ちょっと乱暴にドアが開けられた。
胸当てだけっていう、ホント最低限しか鎧をつけてない将軍って、ちょっと珍しいね。あ、手甲も手袋もないし。
「……え?」
「えっと……こんばんは?」
すっごい久しぶりって気がして、一瞬、何言っていいかわかんなかったよ。で、結局、挨拶が出てきたんだけど。
「……ユノ、さん?」
将軍は、びっくりしてるみたい。
でも、まあ、そうだよね。エレンさんだと思って開けたら、違う人間がいるんだもん。普通はびっくりするっしょ。あたしだったら、悲鳴あげてるかも。
「えーっと……いろいろあって、ちょこっと話したいから、エレンさんに連れてきてもらったんだけど……もし邪魔だったら帰るし、ちゃんと言ってね」
リアムとエレンさんが企んだ、なーんて、さすがに言えない。言ったら、完全に脱線しちゃいそうじゃん?
「……エレンが、ここまで連れてきたんですよね?」
「え、うん。……って、あれ?」
右にも左にも、エレンさんがいないんだけど……どこ行ったわけ?
いつものことだけど、通った道なんて覚えてないし。一人じゃ帰れないんだけど。
「……すぐに送っていきたいところなのですが、少し待ってもらえますか? どうしても、今日中に終わらせなければいけないことがありまして……。飲み物は出せませんが、ソファはありますから」
何か、ここ、人を招き入れる部屋じゃないっぽいから、お茶とかは期待してないよ。それに、そんなに長居する気もなかったし。
あたしは頷いて、部屋に入れてもらった。
「お邪魔しまーす……」
右手の壁に本棚が二つ並んでて、その前におっきめの机がどーんと置かれてて。机の上には、ちょこっと紙束が乗ってる。窓も暖炉もある。
こういう部屋、何て言うんだっけ? 何か、言い方あったよね? ……まあ、いっか。
肝心のソファは、テーブルの両側に三人くらい座れるのが二つ、向かい合って並んでた。そのうちの、将軍が見える方に、あたしはそっと座ってみる。
うわぁ、ソファがふっかふか! あたしのベッドよりフカフカだよ!
座ってはちょこっと腰を浮かせて、また座ってみて。毎回、フワフワってして体がぐーっと沈むのが面白いね!
やっぱお城の中って、高くっていいものが多いんだろうなぁ……。
クスクス笑う声がして、ハッとして見たら、将軍が左手で口を覆って笑ってた。
「……ああ、笑ってすみません。どうぞ、続けてください」
見られてたってわかったら、もうできないよ……さすがに恥ずかしいし。
大人しく座って、逆に将軍をジーッと見てみる。
ペンを持ってるし、何か書いてるみたい。書き終わったやつを、机の上にあった紙束に重ねて、別の紙を持ってきて読んで。
見てるだけで大変そうだけど……あ、顔をしかめてる。すっごい渋い顔。左手をおでこに当てて、メッチャ考え込んでるっぽいね。
あ……今読んでたやつは、何にも書かないで横に避けちゃった。後で考えるってことかな?
次のを取って読んで、書き込んで。ホント、忙しそう。
そういえば、エレンさんは将軍がここにいるって知ってたんだよね? ってことはだよ? 当然、あたしの相手する暇なんてないの、わかってたと思うんだけど。
「お待たせしました」
あ、終わったのかな?
「お疲れ様ー」
「いえ、毎日のことですから。むしろ、待っていたユノさんが疲れたでしょう?」
「座って見てるだけじゃ疲れないよ? ってか、将軍って、毎日あんなことやってんの?」
見てるだけで大変そうって思ったのに、あれが毎日なの?
「宮廷騎士団の団長という肩書きがありますからね。それなりに、目を通さなければいけない書類も回ってきます。後はたまに、領地や身内からのいざこざが届くこともありますが……慣れれば、それほど苦ではありませんよ」
うーん……あたしは、聞いてるだけで嫌になってくるんだけど。将軍は平気っていうか、もう慣れちゃったってことなんだね。




