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傭兵には傭兵の情報網ってのがあるんだよ。それで、王族に名を連ねてない、庶子の王女様が生きてるかも、って話は、あたしは割と早く聞いてたけど。あと、その庶子の王女様には、女性竜騎士の乳兄弟がいるって話も。
「それからは、国内を転々と逃げながら、いざ決起する時に味方になってくれる人を探して歩いて……ゲルト隊長と、父の旧友のセイガ隊長にも会いに行ったわね」
「へぇ……父さんとエレンさんのお父さんって、友達だったんだね」
父さん、意外と顔が広いよね。しょっちゅう、あちこちで声かけられてるもん。そりゃあ、セイライ国の代表的な傭兵だけどさぁ。
で、それがきっかけで、父さんは王女様と合流するって決めたんだよね。知ってる傭兵に片っ端から声をかけたのも、実は父さんだったりするんだよ。
だから、最初の頃の解放軍は、質はすっごいよかったんだけどね。
「そうそう、ゲルト隊長で思い出したけれど、イハル隊長はケチなのよ。勝負を挑んで受けてくれたのは、最初の一回だけ。しかも時間切れで引き分け。後は全部、面倒だから嫌だ、でバッサリ。本当に失礼なんだから。暇つぶしにゲルト隊長に手合わせをお願いしたら、近くにいたセイライ国の綺麗な女性に睨まれるし……」
「あ、それ、多分リノ姉だよ。何年も前からゲルトさんを落とすって頑張ってるらしいから、恋敵だって思われたんじゃない?」
リノ姉ってば、そんなとこでケンカ売らなくたっていいじゃん……しかも、エレンさんに。
確かに、エレンさんは美人だし強いし、リノ姉的には、バッチリ警戒対象かもしれないけどさぁ……リノ姉くらい趣味悪い人はいないし、心配することないっしょ。
……あ、でも、エレンさんだからね……ゲルトさんって強いらしいし、エレンさんって強い人には弱いし。リノ姉ってば、野生の勘でその辺察したのかも?
「あら、あの人はユノ嬢のお姉さんなのね。そう言われてみれば、マノ隊長に雰囲気が似ていたわ」
「悪趣味のリノ、凶暴なシノ、可憐な美少女カノ、残念な末っ子のあたし。って感じで、傭兵の間じゃ有名なんだけどね」
ちょこっと肩をすくめて言うと、エレンさんが怒った。正確に言うと、槍をドン、って地面に叩きつけた。
エレンさんに迫力があってメッチャ怖いんだけど……。
「本当に見る目のない男どもね! 私に言わせれば、ユノ嬢が一番普通の女の子で可愛いのに! ただ、ちょっと、警戒心が薄い気がするけれど」
「そうそう。リノちゃんとシノちゃんは傭兵時代から変わらないからさておき、カノちゃんは貴族相手に堂々と渡り合える子でしょ? 見た目はともかく、精神的にはたくましくて、可憐にはほど遠いよね。顔は確かに普通だけど、中身もちょっと天然寄りなだけで普通のユノちゃんが一番だよ」
……リアムってさ、すっごいことサラッと言うよね。カノ姉が聞いてたら、メッチャいい笑顔で、後ろからザクッて刺されるよ?
まあ、何となく、あたしも微妙な言われようって気がするけど。
「それから、エレンちゃん。ユノちゃんの警戒心が薄くなるのは、ごく限られた人だけだから大丈夫。私が触ると、さっきのとおり、思い切り手を払われるからね」
「ヴァージルに無抵抗の時点で、相当危ないのだけれど?」
別に、将軍だから抵抗しないってわけじゃないし。将軍だろうとエレンさんだろうと、嫌な時はちゃんと逃げるよ?
「ユノ嬢は、家族と同性以外じゃ、イハル隊長とヴァージルにしか触らせないでしょ? 同性だって、全員無条件というわけじゃないし。だからこそ、余計に心配なの」
「それはそれ、これはこれ、だと思うけどね。何より、振り回されてるヴァージル将軍って、なかなか見物じゃないかな?」
「確かにそれは、面白いと思うわ。ヴァージルの忍耐をかんがみれば、まだもう少し大丈夫よね。ただ、限界を突破した時の不安は尽きないでしょ?」
「ああ、そうだね。あんまり焦らしていると、また別の問題が出てきちゃうね」
……んー?
あたしを無視して二人で話してるし! しかも、何か、内容が変な方向に脱線してない?
「ユノちゃんもヴァージル将軍も、早めの対処が必要かな?」
「難しいところよね。それに私、ヴァージルに協力する形になるのが、とっても不本意なのだけど」
……えーっと、とりあえず、二人は何か悪巧みしてるってことだよね? その上、それはあたしにとって、どっちかっていうとよくないことで。
リアムが将軍側ってのは知ってるけど、エレンさんは中立になったっぽい?
「私は、ユノちゃんもそろそろ、気がついた方がいいと思うんだよね。頬や手首にキスを受けても、殴るとか文句を言うとか、行動に移さなかったんでしょ?」
えーっ? 何でリアムがそれを知ってんの!?
イハル兄? イハル兄って、そんなことも言っちゃうわけ? それとも、もう将軍と直接話ができる環境を整えたってこと?
リアムってば、手回しがよすぎない?
「わかりづらいなら、エレンちゃんに同じこと、してもらうといいかもね」
「私がやってみればいいの?」
言うなり、エレンさんがあたしを背中から拘束した。胸のとこにきてる腕に、あたしの腕はしっかり押さえ込まれてる。
元々、力じゃ勝てないってわかってるけど、ホント動けない。何か、将軍より遠慮がないから、全然動けないんだけど。
ふわってほっぺたに息がかかって、何かがそっと触って逃げてった。
「どう?」
「別に、嫌な気はしないよ?」
「じゃあ、私がしてみようかな?」
「ヤダ」
リアムは絶対ヤダ。死んでも嫌。もしやったら、リノ姉かシノ姉か母さんに頼んで、きっつい報復してもらうから。
困った顔のリアムが、ちょいって肩をすくめてる。
「じゃあ、今度はこっちね」
片腕で器用に、がっちりあたしを押さえ込んだまま。エレンさんはあたしの右手をグイッとつかんで持ち上げて、手首に軽いキスを落としてった。
うん、別に何とも思わないね。
将軍にされた時は、意味がわかってるのかってことも含めて、いろいろびっくりしたけど。
「……ユノちゃんは、ずいぶん平然としてるね」
「されるってわかってたら、そんな驚かないっしょ?」
くるよー、って知ってたら平気だよ。いきなりだからびっくりするし、動揺するんだもん。
「じゃあ、今、またヴァージル将軍にキスされたら?」
……リアムの言いたいことが、いまいちよくわかんないけど。
「場所によるけど、多分何ともない……と思う」
……あ、あれ? あたし何で、きっぱり言い切れないんだろ?




