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「私が思うに、ユノちゃんは、よくも悪くも自由なんだよね」
「そう?」
「うん。自由で、自分に正直でしょ? たとえば」
そう言って、リアムがあたしの頭にちょんと触る。思わず、メッチャ反射的に、その手を思いっきり払いのけてた。
ビシッていい音がしたし、あたしの手もジンジン痛い。あんまり痛いから、手をブンブン振ってみるけど、やっぱ痛い。
「ユノちゃんは自覚してないかもしれないけど、ここまで、って決めた線がはっきりしてるからね。その線に対して、とにかく素直でしょう? 私は外側だからね、意味もなく触ると今みたいに怒られるってこと」
「ちょっと、リアム。勝手にユノ嬢に触らないでくれる?」
ドナとの訓練は切り上げたのかな? エレンさんがあたしを背中からギュッと抱き締めて、リアムにビシッと抗議してる。
手に持ったままの槍が、エレンさんのやる気をバッチリ示してるよね……。
「私は、理由もなく、ユノちゃんには触らないよ? それとも、妬いてくれた?」
「ヴァージルじゃあるまいし。それから、何度も言っているけれど、私は誰とも結婚しないと決めているの。いい加減に諦めたらどう?」
……何でそこで将軍が出てくるのか、よくわかんないけどさぁ。
とりあえず、リアムは今のとこ、一方通行だってわかった。しかも、割と望み薄?
「ユノちゃん、こっそりと失礼なことを考えないでね?」
うっ……ひょっとしてあたし、声に出してた?
ニッコリ笑ってるリアムから、あたしは一歩下がって逃げる。まあ、後ろにはエレンさんがいるから、それ以上逃げれないんだけどね。
気持ち的には、十歩くらい一気に逃げた気分。
「まあ、エレンちゃんが諦めるまでは、しつこく追いかける覚悟はあるからね。気の長い根比べかな?」
後ろでエレンさんが思いっきり引いたし。あたしもちょっと、さすがにその宣言は引くよ。聞いた人がみんなどん引きするよ?
……ホント、無駄に執念深いよね、リアムって。
そういえば、将軍は家を継ぐんだよね? エレンさんの場合、アルヴィン様じゃなくって、エレンさんが継ぐのかな? それとも、家自体、エレンさんでおしまいにするのかな?
「ねね、エレンさん」
「なぁに?」
頭の上から降ってくるエレンさんの声は、すっごく優しい。でも、ちょこっとだけ、警戒してる雰囲気もあって。
「エレンさんも、お貴族様だよね?」
「……まあ、そうなるわね」
「じゃあさぁ、エレンさんの家って、どうなるの?」
「私の家? ああ、そういえば、どうするのかしらね」
ちょっ! お貴族様でも、その辺無頓着ってのはありなの? ってか、お貴族様って、家が第一なんでしょ? だから、自分の家より上の人には逆らわないし、政略結婚も成り立つんじゃないの?
ざっくり話を聞いて、あたしはそういう認識でいたんだけど……ひょっとして、ちょっと違ってたってこと?
「私が無理に継がなくても、王位に関係ない兄さんの子供に継がせればいいもの。今すぐどうにかしなきゃいけない話じゃないはずよ。まあ、爵位を持った誰かがすぐに必要なら、仕方がないから継ぐけれど。それでも、譲るのは兄さんの子供で上等よ」
「へぇ……そういうのもありなんだ?」
ってか、そうだよね。アルヴィン様の子供でもいいじゃん。
それにしても、お貴族様って複雑だね。何か、頭がごちゃごちゃになりそう。
「ヴァージルみたいに、男子継承の家はそういうことが多いわね。娘ばかりの当主の実弟の息子が継ぐ、なんて、別に珍しくもないわ。他には、男女問わず、長子継承の家もあるけど。私の家は、兄弟姉妹の中で一番優秀な人間が継ぐことになっているわ」
「ふーん。お貴族様もいろいろあって大変なんだね」
「うっかりして、一人に二つも三つも爵位を継がせないようにするのが大変ね。少しでも出来の悪い人間が残らず継ぐと、あっという間に落ちぶれてしまうから。最低でも二人はいないと、悩むことすらできないでしょ? そこも苦労の種みたいね」
……うん、何か、すっごい複雑。
エレンさんは当たり前って顔で話してるし、リアムも理解できてるみたい。うんうん、って頷いてるし。
って、あれ?
「エレンさんの家は、一番優秀な子に継がせるんだよね? じゃあ、もう決まってんじゃないの?」
だって、エレンさんも二十一歳になるんだし、さすがに決まってるよね? まだ、ってことはないと思……うっ! あたしの首にかかってたエレンさんの腕に、ググッて力が入った!
し、死ぬから! それ以上力が入ったら、あたし多分死んじゃうって!
「ユノ嬢は時々、妙に鋭いのね」
あ、うん、わかった! わかったから、腕の力抜いて!
ジタバタ暴れてみたら、エレンさんはスッと腕をほどいてくれた。
はー、助かったぁ。
「ガイルファラに攻め込まれた時、父さんに言われたわ。万一の時、継ぐのは私だって」
振り向いて確かめたエレンさんは、どこか遠くを見てる目をしてた。懐かしいとか、そういう感情は何にも見えなかったけど。
「王都に敵が近づいてきた時には、オーレリア様の存在が知られる前に、兄さんと一緒に逃げろと言い含められたの。夜の闇にまぎれて攻め込まれたあの日、私は迷わずオーレリア様を連れて、仕方なく兄さんも回収して逃げ出したわ」
……こう、淡々とさりげなく語ってるけどさぁ……やっぱ、アルヴィン様の扱いってそうなんだ?
ほんの少しだけ、エレンさんの目に、寂しそう……ううん、悔しそうな色が見えた。
「とてもお世話になったから、グレース嬢のご両親も連れ出したかったのだけれど……ドナには一度に乗れなくて。オーレリア様を安全な場所へ下ろして、もう一度戻ってきた時には……王都は陥落していたの」
あー、そっか。だから将軍は、王女様が無事だって知るのに時間がかかったんだよね。一緒に逃げた騎士様たちも、立て直さなきゃいけないし。




