117
ほっそい革紐を買って、あたしの分はバッチリ直した。ヘザーが鎧の下に来るように、長さも調節したしね。んでも、将軍の分は、革紐を袋に突っ込んだだけ。
だって、長さがわかんないし。
イハル兄が同じくらいの体格だから、試させてもらえばいいんだろうけど……何かそれは違う気がするじゃん?
同じくらいの体型の他人で、ちゃーんと合わせたから大丈夫。なーんてこと、あたしは言われたくないし。
自分がされたくないことは、人にもしない。じゃなきゃ、いざされても文句言えないじゃん?
で、問題は、これをいつ渡すかってこと。
渡すなら、あたしの中で答えが出てからがいいかな、って思うんだけど……それだとホント、いつになるかわかんないよね。
午後に暇だと、訓練に混ざりに行きたいなぁ、って思う。でもそれは、単なる暇つぶしも兼ねてるってだけで……って、あーっ!
あたし、今日、まだ訓練してないじゃん!
エレンさんはきっと、王女様のとこだよね? あたし一人だと、離宮どころか、王女様のとこまで行けないし……んー。
一人で黙々とやるのって、メッチャ苦手だけど……騎士様たちが走り込みしてないのを確かめて、この宿舎の裏でこっそり訓練してよっかな。
あ、そうじゃん。どうせ走り込みがしにくいなら、ここでやってても一緒だよね? リディもグレースも出かけちゃったし。
腕立てとかだけなら、そんなにバタバタして、下に響かないだろうし……ここでやっちゃう? 素振りは危ないから外がいいんだろうけど、その時だけ外に行けばいっかな?
うん、じゃあ、ちゃちゃっと済ませちゃおう!
朝のうちにエレンさんと訓練を済ませて、騎士様たちに見つからないようにする。そんな日も、もう五日目。
で、今まで別に、将軍と顔を合わせなくっても、何とも思わなくって。エレンさんと訓練するのも悪くないよね、って思ってたり。
まあ、あたしは元々、誰に対してもそうなんだけど。
エレンさんと訓練してると、二日に一回くらい、リアムも一緒に混ざってる。何か、前々からこんな感じで、ちょくちょく来ては訓練してるんだって。
……リアムってさぁ、エレンさんの興味を引くやり方、ホントよく知ってるよね。リアムと打ち合った後のエレンさんが、妙に満足げだもん。
今、エレンさんは、ドナとやり合ってる。ホント、すっごい体力だよね。さっきまで、リアムとやり合ってたのに。
「そういえば、ユノちゃんは、今頃ヴァージル将軍がどうしてるかな、って気にならないの?」
「なんないよ?」
別に、好きなことを好きにやってればいいじゃん、って思うし。
「ってことはさぁ、リアムはエレンさんが何やってるか気になるの?」
「もちろん。だから、こうして押しかけてきてるでしょ?」
……へぇ。
あれ? じゃあ、王女様のとこにエレンさんが行くのって、リアムから逃げる意味もあったりするんじゃ?
「あのね、ユノちゃん。エレンちゃんが午後にお城に顔を出すのは、竜騎士の筆頭としての仕事があるからなんだよ。まあ、来れるものなら来てみろ、って挑発はされたけどね」
やっぱそっちの意味もあるんじゃん!
一応お貴族様とはいえ、リアムじゃ、気軽に王女様のとこに押しかけられないんだろうし。エレンさん的には、一番の安全圏だよね。
「私としては、仕事の邪魔はしたくないからね。だからこうして、エレンちゃんが自由に過ごしてるこの時間に会いに来てるんだよ」
「じゃあ、リアムはエレンさんの一日の過ごし方も知ってんの?」
「だいたいはね」
リアムらしくニッコリ笑ってるから、まあ、多分ホントのことかな。
そりゃあ、集団生活が基本だし、毎日の行動って似たり寄ったりになるよね。あたしもそうだけど、リディやグレースだって、昨日も今日も同じように過ごしてるし。
「じゃあさぁ、エレンさんは、リアムが一日をどんなふうに過ごしてるか、知ってるのかな?」
ほら、何て言うか、ちょっと片思いっぽいじゃん? エレンさんはどのくらいリアムに興味があるのかって、気になるっしょ?
「気にはしないみたいだね。ただ、割といろいろな人の行動を把握しているらしいよ。特に女の子に関しては、ほぼ全員、完璧に把握してるね」
「……ああ、やっぱそうなんだ」
ってことは、あたしもバッチリ把握されてるよね。
「だから、一昨日だったかな? ヴァージル将軍が貴族令嬢に迫られているところも、上から見ていたらしいよ?」
「ふーん……将軍って、相変わらず大変そうだね」
「まあ、ヴァージル将軍は、私があげた首飾りでその子を撃退したみたいだけど」
へぇ……そんな簡単に撃退できる首飾りなんてあるんだ? ……んー?
「……リアム、あのさ。そのあげたやつって、ひょっとして」
「この間買ったでしょ? せっかくだから、ヴァージル将軍にも恩恵があるといいな、と思ってね」
あーっ! よく見たら、リアムってば指輪してる!
「ユノちゃんが買ったことは言ってないから安心してね」
ってかさぁ、リアムが買ったの、恋愛成就じゃなかった? それでどうやって、撃退するわけ?
こんな願かけするくらい、振り向いて欲しい人がいます。なーんて言っても、お貴族様の女の子は納得しないでしょ?
「ねえ、ユノちゃん。これって、見てもどんなお願いが込めてあるか、わからないでしょ?」
リアムが指輪を見せながら言ってきた。
……あー、何となくわかったかも。
「家庭円満のお祈りつき、とか言ったんだね!」
「しかも、ユノちゃんからのプレゼント、っていう嘘のおまけつきでね」
それってつまり、全部嘘じゃん!
……ひょっとして、外堀、ガンガン埋められてるんじゃ?




