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イハル兄から将軍に、あたしの情報が流れてんのはわかった。よーくわかった。ってことは、母さんやカノ姉も、いろいろ暴露してそうな気がするし。
そもそも、手首にキスする意味教えたの、絶対イハル兄だよね? 昨日までの将軍見てたら、そんなの知らないっぽいし。知ってたら絶対、とっくにやってるはず!
「……あのさぁ、将軍。ちゃんと意味、わかっててやってる?」
「ええ、もちろんですよ」
ニッコリ笑って言うし……。
最初の頃の、真面目で爽やかそうって印象って、やっぱ作ってたのかな? こっちが本性っぽいよね? だって、こういうこと、素でできる部分がなきゃ無理でしょ? あたしだったら、多分できないし。
「ユノさんには、言葉を尽くすより、行動を見せつけた方が早く理解してくれる。そう、イハル隊長が教えてくれていたのですが……ここまできて、一気に嫌われる真似はしたくないでしょう? 確かに、警戒されずにはっきり伝える、いい手段ですよね」
手首へのキスは、欲望。
恋愛感情があるない関係なく、何が何でも手に入れたいって意思表示。そんなふうに、お兄ちゃんたちに聞いたよ。
……もし、将軍が全部知ってたら、今、絶対、喉を狙ってきたよね?
喉は、互いに恋愛感情あり限定の欲求、って意味だし。
そりゃあ、喉なんて、一歩間違ったら殺されるかもしれないし。あなたには無防備ですよ、ってこと……らしいよ? 手首より凶悪だよね。
うっかり喉にされて、そのくらい油断してた、って言われなかっただけマシかも……。
これはもう、イハル兄だけじゃなくって、母さんにもカノ姉にもユウガ兄にも、がっつり釘差しとかないと!
「どうやら、少しはご理解いただけたようですね」
将軍ってば、何か、妙に嬉しそうだね……。
そういえば、あたしが知ってる中で、他人に関心が薄そうな人たちって、みんなちょっとあれだよね。イハル兄もリアムも将軍も、一歩間違ったら、ひたすら相手を追いかけ回してそうな雰囲気、あるし。
特にリアムは、もう実行してるよね……。
「……ってか、今さらなんだけど、何であたしなの?」
まあ、カノ姉だと、腹の探り合いだから嫌だ、ってのはわかるよ? カノ姉の歴代彼氏、頭の中までみっちり筋肉、って人ばっかだから。
でもさぁ、将軍だったら、他にも選択肢はあるっしょ?
「前提として、私は家を継いでいます。貴族は血を残し、一族を繁栄させることが役目です。ただし、相手は誰でもいいわけではありません。ここまでは、理解できますか?」
「うん」
何となくだけど、頭では理解できるよ。感覚的には、よくわかんないけどね。
「王族も同様ですが、妻の家柄は大きく影響します。陛下の母君は、一介の侍女でした。当然、陛下には後ろ盾などがありません。だからこそ、離宮に押し込められ、他王族の乳兄弟だったエレンたちと、ごく一部以外、存在を知らずに育てられたのです」
あ、そっか。王族として認められてなかったから、ガイルファラが攻め込んできた時、王女様は生き延びたんだっけ。王女様の存在が知られてたら、マーハルニーファの王族って、今ごろ全滅してたよね?
エレンさんたちは王女様と近い血縁者だって言うけど、王女様みたいな目の色じゃないし。他に、あんな目をしてる人、見たことないもん。
……って、エレンさんとアルヴィン様って、王女様の乳兄弟じゃなかったの?
「ねね、エレンさんって、王女様の乳兄弟じゃないの?」
「関係の説明が面倒なので、普段はそういうことにしていますが、正確には違いますよ。アルヴィンとエレンは、陛下より二歳ほど年上の、第三王子の乳兄弟でした。母君が侍女とはいえ、王の娘ではありますから、王族の乳兄弟の中でも、より年の近いエレンを陛下の遊び相手にあてがった、と聞いています」
「へぇ……そうなんだ?」
あー、でも、そうだよね。王子様とか王女様の乳兄弟の中から、年の近い人間を遊び相手にした、なんて、長々と説明してらんないもん。それなら、似たようなもんだし、乳兄弟でいいよね。
「陛下の扱いを見ればわかるでしょうが、互いに同等の家でなければ、火種しか生まれないのです。その点、ユノさんであれば、恐らく誰よりも強い立場になるでしょう。私としても、セイライ国とのつながりを持つことは、自国の貴族との縁より、はるかにありがたいものです。何より、あの様子を見て、それでもなお、セイライ国の王を敵に回す人間がいるはずはありませんからね」
「……まあ、あたしも、王様と王子様があんなにすごいなんて、想像もしてなかったからね」
お貴族様が来なくなった時点で、あたしにはあんまりかまっちゃダメだって、母さんがビシッと言ったんだって。しかも、明日には追い返すらしいけど。気配察して、王様たちが夕方に押しかけてきそうだよね。
まあ、事前に来るって言ってくれれば、一日くらいなら別にいいかな、って思うよ。一日だけだったら、何とか我慢できるから。
「……ここまでが建前です」
「へ?」
建前?
「他国の王族を気にかけているのか、それとも別の理由か、はっきりしていなかったのですが……魔道士に狙われたあなたを馬上へ引き上げた時のことを、覚えていますか?」
もちろん、覚えてるよ。ってか、それが、将軍って個人を見るようになったきっかけだから。
頷くあたしに、将軍がニコッて感じで微笑んで……メッチャ嫌な予感。
「あの時、笑顔でお礼を言ったあなたが、欲しいと思いました。老若男女問わず、誰とでも親しくしているあなたを、どんな手を使ってでもこの手に入れたいと思うまで、そう時間はかかりませんでしたね」
え……? そ、そんな雰囲気、全然なかったよね? っていうか、ずっと、ごくごく普通の態度だったよね?
「一時は、イハル隊長にも殺意を抱きましたよ」
ちょっ……冗談になってない! 全然、これっぽっちも、冗談にならないから、それ!
まだ手をつかまれたままだし、どうせ逃げられないってわかってるんだけど。思わず、ズズッと後ろに下がっちゃった。
「残念ですが、私は、あなたを逃がすつもりはありません。後は、あなたが頷くだけです」
……何でかな? 頷いたらいけないような気が、するんだけど……。




