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「ああ、そうだ。ユノ、お前は少し、触られて平気な人間とそうでない人間の違いを、考えるべきだな」

「あら、ユノ嬢は、そんなに触られたくない人がいるの?」

 王様には説教っぽく言われるし、エレンさんは不思議そうに首を傾げてるし。

 他人に触られんのが嫌なんて、別に、おかしなことじゃないじゃん?

「呼び止める時に肩とかをちょっと叩くとか、勝った時に近くの人と手をパン、って合わせるとか、そういうのは大丈夫だよ? ただ、あんまり好きじゃない人とか、よく知らない人に、ギュッて抱きつかれるとか、頭なでられるとか、手ぇつないで歩くとか、そういうのはヤダってだけ」

「それは普通よね。私も嫌だわ……よく知っている間柄だけど、ヴァージルと手をつなげって言われたら、言った人間を即座に抹殺したいくらい嫌だわ」

 ……さすがにそれは、怖いから誰も言わないと思うよ? ってか、そこで真っ先に、嫌いな人間として出てくるんだね、将軍って。

 ちょっと苦手っていうか、相手しづらそうにしてたけど、リアムはまだそこまで嫌いってわけじゃないんだね。

 まあ、多分、リアムを将軍くらい嫌いになるのは、エレンさんでもだいぶ時間がかかりそうだし。その前に、バッチリ外堀埋められてるんじゃないかな? 何となーく、そんな気がするもん。

「私、女の子に抱きつくのも抱きつかれるのも歓迎するけれど、男は嫌よ。女の子の方が可愛くて好きだし、何だか安心できるからなんだけど……ユノ嬢は、そういうことを考えたりしないの?」

「しないよ? ヤダって思ったらヤダ。まあいっか、って思ったらそのままだもん」

 だから、将軍やイハル兄(にぃ)とは手をつなげるけど、リアムは何でか嫌なんだよね。たとえリアムが、解放軍で旦那にしたい人ナンバーワンだったとしても、嫌なものは嫌ってこと。

 あ、リアムはちゃんとわきまえてるから、あたしが嫌がることはしないよ? エレンさんにはやけに意地悪っぽいことしてるのが、ちょっと不思議なくらいだし。

「セイガの野生の勘に似た好き嫌いは、ことごとく相手を見抜いての反応だったが……ユノもそういうところがあるのか?」

「さぁ? 今まで会った人で嫌だなって思ったの、偉そうなお貴族様ばっかだもん。あ、でも、母さんが言うには、あたしと父さんが嫌がった人は、みんな裏切ったり寝返ったり、実は間諜だったりしたみたいだよ? あたしは全然覚えてないけど」

 メッチャ頑張って思い出してみたら、うんとちっちゃい頃に、すっごい苦手な人がいたかも? ってなる程度。

 最近はあんまりそういう人に会わないのって、多分、父さんが先回りして排除してくれてんだろうね。ここ何年か、お貴族様以外で苦手とか嫌って思う人に会わないなんて、傭兵やってたら絶対おかしいじゃん?

 傭兵だって、いろいろいるもん。お貴族様寄りの人とか、山賊に落ちちゃいそうな人とかさぁ。

「……なるほどな。セイガの野生の勘も健在か」

 そういえば、お兄ちゃんやお姉ちゃんからは、そういうの聞かないかも。あ、シノ姉(ねぇ)は野生の勘があるかな? いっつも割といい条件で雇われてるんだよね。凶暴ってのもあるけど、それだけじゃない気がする。

 明らかに不利な状況に放り込まれるってのがないだけ、傭兵としては、生き残る可能性が高くなるし。そういう仕事ばっかのシノ姉は、絶対選んでると思う。

 ってか、凶暴で有名なシノ姉が、危険の少ない仕事ばっかって、やっぱおかしいじゃん?



 午後の訓練までは、いっつもだいたい平和なんだけど。

 城壁の中を散歩してたら、またこの間の、お貴族様の女の子二人が来るのが見えて……もちろん、逃げたよ? メッチャ逃げた。

 だって、この間もすごかったじゃん? 一人であの子たち相手にしたら、あたし絶対負けるよ?

 リディだったらいけそうだけど……あたしじゃ無理。

 お貴族様なのに、平気で来るってことは、あの子たちは王様が怖くないってことかな? んでも、アルヴィン様と似たような、王女様に近いお家なんだよね? あ、ってことは、ケンカしに来るんじゃないのかな?

 ……うん、念には念を入れて、逃げよっと。

 でも、お城の中に入ったら基本迷うから、外を逃げ回るしかないんだよね。どっちから回ろうかな? 挟み撃ちも、ちゃんと考えなきゃダメかな?

 とりあえず、あたしはお城の裏側に逃げることにした。

 中庭って、結構おっきな木もあるから、上っちゃえば何とかならないかな……って思うんだけど。あと、迷うの前提だけど、お城の中にも入れるから、逃げるなら悪くない場所じゃないかなぁ?

 全力ってほどじゃないけど、逃げるつもりで走って中庭に飛び込んだら、将軍が一人で訓練してた。

 槍を振り回すのは、午後によく見るんだけど、剣はこんな時間に練習してたんだね。

 そっか。この時間にも訓練してるんだ? ずいぶん前におじさんに、朝のうちは書類仕事とか、いろいろやることがあるって言ってたけど……ひょっとして将軍、サボってるってこと?

「ユノさん? こんな時間にどうしたんですか?」

「この間のお貴族様の女の子たちが見えたから、逃げてきただけ。ここだったら、木の上とか、最悪お城の中とか、逃げる場所が多そうだもん」

「ああ、そうですね。逃げる時は、一緒に逃げますよ。城内で迷われるくらいなら、私が無事に逃がしますからね」

 何か、たまーに思うけど、将軍って優しいよね。それでよく戦場で生きてるよね、って聞きたいくらい、優しい人だと思うんだけど。

 あ、でも、エレンさんには冷たいよね。

「誤解のないように、先に言っておきますが、私が親切にするのはユノさんだけですよ? 他の方には、わざわざ私が優しく接する利点がまったくありませんから」

「そうなんだ……」

 誰にでも優しくしたら、自分にその分が返ってくるもんなんだけど。

 情けは人のためならず、って、マーハルニーファにはない言葉なのかな?

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