夏蚕の意見
奇病■■専門―奇人
⻆谷 春那
夏蚕の意見
「・・・なぁ。」
「どうかしたかい?」
「私はもう、この事から手を引こうと思うんだ。」
「おや、君らしくない。何故だ?」
「・・・元々、私はあまり、彼女に思い入れが無い。確かに、父さんの離婚を手伝ってくれた恩義もあるが、それは、互いの利害が偶々一致していただけ。ただの、一過性の関係性さ。」
「一つ良いか?君は、彼女だけに思い入れがないわけでは、ないだろう?僕も含め、すべての人間が、どうでもいいんだろう?」
「別に、どうでも良い訳ではない。ただ、深く、思いやれないだけさ。お前は、ゲームのNPC全てに、深く、思い入れを抱けるかい?違うだろう。贔屓のキャラクターと、そうではないモノが居る筈さ。私は、そのハードルが、少し人より高いだけさ。」
「でも、彼女は君の姉君だろう?」
「姉と言っても、義理だし、『元』さ。もう、私にとっては正直、赤の他人だ。」
「・・・じゃあ何故?赤の他人の身元を引き受けているのさ。」
「簡単な事さ。このままいったら、父さんに面倒事がいってしまうだろう?」
「ファザコンめ。」
「それだけではないさ。私の社会的信用も、大切さ。」
「・・・それなら、姉を放り出せば、君の信用も、失われてしまうんじゃないのかい?」
「勿論、金銭面は援助するさ。だけど、もう、見舞いには、行きたくない。」
「何故だい?」
「・・・彼女が、心底、生理的に受け付けないからさ。たったそれだけさ。」
「・・・彼女の症状の原因が、分かった気がするよ。」
「それが何であろうと、私の責任ではないよな?だって私は、本当に、『何もしていない』。必要以上の事も、未満の事も。」
「それさ。それが一番の、原因さ。仮に君に悪気も、『その気』も無かったとしても。これは、君と彼女の問題さ。もう、分かっているんだろう?」
「・・・お前は、気付いていなかった。だから、そんな軽い口を叩けるのさ。」
「何をさ。」
「・・・25年前、私は父さんとヒスを別れさせたかった。父さんには、合わない人だったから。だが、私はお前に、もう一つの目的を隠していた。」
「だから、何をさ。はっきりと、結論から述べてくれないかな?前々から言っているけど。君は、結論を先延ばしにする傾向がある。」
「でも、それの本職への影響は、低いものさ。」
「また、話を逸らしたね。一体、何を隠していたって言うのさ。別に、僕が『寛容』な人間であると、知らない訳ではないだろうに。」
「それもそうだね。」
「そうだろう?」
「・・・じゃあ、言うさ。俺はあの時、ヒスと父さんを別れさせたかっただけじゃない。それは確かに、一番の目的であったが、もう一つ。大事な『二番目の目的』があった。」
そこから先の声量の大きさは、極めて小さいものであった。一気に抑えられたその声は、誰に聞かれてはいけない言葉を、口にしたのだろうか?部外者は、勿論そうだろう。かの「元凶」にも、聞かれてはいけないだろう。だがしかし、最も聞かれてはいけない人物は、彼ら彼女らではない。
他の誰でもない。その言葉は、目の前の男―担当医であり、一番の親友を、曇らせる言葉であったのだ。
当時の彼は、勿論、気付かなかった。夏蚕は、上級の、「嘘つき」であったからだ。しかし、不快にさせたくて隠した訳ではない。かの男は、そんな人物ではない。そんな、他人を思いやるような人間ではない。勿論、彼は知っている。
きっと、社会的信用を、損ないたくなかったのだろう。他でもない、父と自分の。
しかし、そうとは言えど。「気づかなかった」と言う事実が、彼を苦しめる。夏蚕は何も思っていない。それも、理解している。しかし、何だかんだ言えど。
椛田 石竹は、夏蚕と違い、人間味に溢れているのだ。接触時間が長ければ、自然と愛着も生まれる。「親友」が傷つけられかけた事実を知れば、素直に怒り、傷つく。何より、無力な自分さえにも、怒り。憎むのだ。
対して、夏蚕は、割り切るプロだ。「割り切る」と言うより、元々、そう言う湿った感情が、存在しないのだ。
夏蚕が、石竹に言った言葉。告げた事実。過去の忘れ物。そして現在の引きずりもの。
湿った感情・事実を抜けば、こうなる。
「真理愛は、夏蚕が好きだった。」
そして、湿った感情を入れれば、こうなる。
「真理愛は、夏蚕にフラれ、た。だけれども武力的に迫り、しかし拒絶され、病んだ。」。




