第4章 裏
奇人■■専門―奇人
⻆谷 春那
第4章 裏
男―患者の弟が連れて来た、専門の「■■医」―は、彼女の担当医から説明を受けていた。症状や、危険行為、言動、個室の設備等。
彼女―貝山 真理愛―の症状。その中でも、最も厄介なもの。それは、攻撃性だ。彼女は、少しでも自分の思い通りにいかなければ、それを「修正」しようとする。つまり、彼女の周囲の人間たちは、彼女を彼女の「理想通り」―「姫扱い」しなければ、ならないのだ。さもなくば、攻撃されてしまうから。
彼女の症状の「伝染性」。これを踏まえると、彼女の症状は「攻撃性」と言うより、「世界観の構築」とも言える気がする。「理想の世界を、見る」ための、症状なのかもしれない。
彼女を「姫扱いする」と言う、「常識汚染」。「認識改変」。
稀に、彼女の「ご友人」にもなるし、「騎士様」にもなる。かと思えば、「召し使い」となる事も多々。法則は未だ、調査中だと言う。
「自分が何者か」と言う認識さえも、姫との関係性も。全てが書き換わる。大変に、厄介なものである。全くの赤の他人でも、適用されるらしい。唯一の救いは、時間経過で元に戻るという事。しかし、「設定」は継続されており、「役割」が変更される事はないと言う。
しかも大変にアクロバティックで、ドメスティックなお姫様のようだ。
「『お転婆』なのよ。」
呆れたように、医者は言う。
「ただ『暴れる』なんて、可愛いもんじゃ、ないけどね。包丁よ、包丁。ヤンデレ・メンヘラ姫様も良いとこ。」
「だったら、その包丁を隠せば良いだけなのでは」と、思うだろう。しかし、そんなに簡単なお話ではない。
「・・・防護服、貫通するんですよ、先生?どうしろって、言うんです。」
一度「役割」を与えられたら。彼女と同じ空間に居る限り。彼女のために、その「役割」を果たし続けなければいけない。時間経過で元に戻るとは言え、大変に迷惑なものである。しかも、「防護服」を貫通する。この「貫通」は、未だ「役割」を与えられていない者は、時間経過と頻度が二次関数のグラフのように関わり、いつか与えられてしまう。例え、防護服を着ていても。もう「役割」を与えられてしまった者は、「シフトチェンジ」するまでに分も要らない。
この「愛玩動物」と言う役割を与えられてしまった担当医に、流石に同情せざるを得なさそうな二人。
「何故包丁を取り上げられないのか」。「何故そもそも、包丁を与えてしまったのか」。その理由は、つまり「役割によるものだ」と言う。「召し使い」が「お姫様」の望む物を持って来てしまった。それを取り上げようにも、「お姫様」から物を取り上げる訳にはいかない。
包丁を渡す前に止められなかったので、もう詰んでいるのだ。
「・・・なぁ。やっぱり、私は入らない方が良いのではないのかい?それに本当は、私が入っては、いけないんじゃないのかい?元々、面会謝絶なんだし。」
流石にここまでの「説明」を聞いてしまった以上、怖気づかない訳にはいかないだろう。しかも彼は、「弟」とは言え、「義理の弟」。両親の再婚により出来た姉である上、その両親は既に離婚済み。つまり、「元義理の姉」。もはやここまでの重大なリスクがあるなら、拒絶しても「非情だ」とは言われないだろう。
「何を怖気づいているのかい。『防護服』だってあるんだから、そんな突発的になる訳ではない。少しなら、大丈夫なはずさ。」
「本当に医者なのか?」と思ってしまう程、軽薄で軽率な、説得である。
「それに、君の力が必要なのさ。より、多くのデータが必要だ。」
「という事はお前、私をただの『サンプル』としようとしているという事かい?」
「あぁ、そうだよ。それに、僕の見立てによると、君は特別さ。きっと大丈夫。それに、『既に知り合い』と言うデータが、少ない。」
「・・・元々、あまり会いたくない人だったんだが?」
「まぁ、人付き合いは難しいものだろう。君のような人間にとっては、余計に。」
「否定はしないが、酷くないか?」
「大丈夫さ。骨は、拾ってあげよう。」




