033 王都への大移動準備
ジアが着替えを終えて降りてきた。
「おはよう、ホノールお姉ちゃん。」
「おはよう、ジア。あ、そういえばジアは今日どっちについて行く?」
私は聞き忘れていたことをジアに聞いた。
「どっち?」
「うん、流石にルカンも貴族に向けて挨拶回りするだろうからさ。」
私は門の外に庶民の方へ挨拶へ行く、ルカンは貴族や商家に挨拶へ行く。そうなったときにみんながどっちについてくるんだろうと思った。
いつも通りであればルカンだけが貴族や商家に行くけれど、誰かに見られていて、その人が手を出してきたら流石に三人を守りながらは戦えない。だからこそ、数を分散させるほうがいいと思ってジアに聞いた。
「あー...俺はホノールお姉ちゃんの方について行くよ。ホノールお姉ちゃんを守る人が居ないのは心配だし。」
「私でも自分で自分の身ぐらいなら守れると思うよ?」
ルカンのおかげでルカンやジアまでには及ばなくても強くなった!私だって。
「それに男手も必要だろ。だからホノールお姉ちゃん、俺が門の外。ルカンお兄ちゃん、ツィーゼ、レーヤが貴族とか、かなあ。流石に俺一人で三人を守るのは無理だから。」
ジアなりの考えを聞かせてくれた。たしかに、それなら良い気がする。ルカンは強いから、仮にヌリズ家の騎士からでもみんなを連れて逃げることはできるよね。
「そっか、ありがとう。じゃああとでルカンにその話をしないとだ。」
「うん。そうだね。」
ちなみに、五人で強さを並べるとするなら一位はルカン、少し下にジア、そのまた少し下にレーヤ、ツィーゼ、その更に下に私かな。ジアは教えれば教えるほど才能が見えてきて、俺もいつか抜かれそうってルカンが言っていた。
「じゃあジア、ホノールを頼むぞ。」
「うん、ルカンお兄ちゃんたちも気をつけてね。」
「ああ。じゃあ俺らは先に行く。」
「うん、いってらっしゃい。」
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
「ああ。」
そう言ってルカンたちは扉を開けて貴族と商家の家に向かった。
ジアの提案をルカンに話したところすぐに受け入れてくれたらしく、ルカン、ツィーゼ、レーヤの貴族・商家組、私ホノール、ジアの門の外組に分かれて挨拶をすることになった。
挨拶が終わったら家で合流して比較的長持ちする食料を購入し、いらない服などを売って金に変えて行くことになった。今の時期が初夏だし、場所的にも気温がどんどん上がっていくことを考えたらそんなに金を使って買い溜めるのはよくないだろうってことになって、基本的にはいらないものを売るための合流だ。
「よし、このぐらいでいいかな。ホノールお姉ちゃん、もう行けそう?」
帯刀したりと準備を終えたジアがこちらに呼びかけた。
「あ、うん!もう行けるよ!」
「じゃあ行こっか。」
「うん。」
「あらぁ、どこかに行っちゃうのね。」
「はい、ここに留まるのも我々のこれから先の人生を考えてどうかなあとなりまして。今までご贔屓にしていただいて、ありがとうございました。」
「こちらこそ、ここでは手に入らない野菜や果物を売ってくれて嬉しかったよ。...ふむ、そうかい。じゃあこれをあげようか。少ないけど、今までの恩としておばちゃんからの駄賃だよ。」
「いえいえいえ!とんでもないです!そのようなものを受け取るわけにはいきませんし、ぜひそのお金でご家族になにか買って行ってあげてください。」
「いやいや、いいんだよ。別に子供も居ないし、あげて喜ぶような家族も居ないから、ぜひ受け取ってくれ。」
「...では、ありがたく頂戴します。」
「ああ。...にしても寂しくなるねえ。ここの子たちを自分の子供のように言葉遣いとか態度の変化を楽しんでいたんだけど、それが今後はなくなるのか。」
過去を思い出すように常連のおばさんは言ってくれた。
「わたしたちの拙い敬語の頃から商品を買ってくださって、本当にありがとうございました。」
私は心から今までの感謝を述べた。
「あれ、そういえばほかの子たちはどうしたんだい?」
ふと思い出したようにおばさんは言った。
「ああ、荷造りをしています。挨拶と荷造りで作業を分担してまして。」
「そうなのかい。じゃあその子たちにもよろしく言っておいてくれ。」
「はい。」
「じゃあ、私は買い物の続きに戻るとしようかねえ。...どこに行くのか知らないけど、頑張ってね。」
「はい、今までありがとうございました。」
私の礼に返事をするように手を上げておばさんは街の中に入って行った。
別に貴族や商家に挨拶に行っていますって事実を伝えてもいいような気もするんだけど、誰が敵か分からない現状だから伝えるのは控えている。誰が何を目的に追いかけていたか、分かればいいんだけどなあ..
これでざっと常連さん全員には挨拶できたかな。じゃああとはジアの方
「おい!ふざけてんのか!」
急に怒鳴り声が聞こえてきたけど...ってジアの方だ!
「大丈夫!?」
ここで商売を開始してから少し経ったあと、本名をそう安々と言うのは危険なのではと思って、みんなで話してお客様のいないときにのみ名前を呼ぶようにしている。
って、そんなこと思い返している暇ない!
「ああ、うん。大丈夫。このお客様がなんでみんないないんだって言っているだけ。」
「...そう。」
...顔を見たことがないからなんとも言えないけど、まさかこの人がツィーゼの父親?みんなって...ツィーゼを探してる?ジアの反応からしてジアの父親ではないだろうし...とりあえず対応しないと。
「お客様。大変申し訳ございません。みんながいない理由は、仲間が一人体調を崩してしまい、ほかのみんなで看病にあたっているためなのですが...誰かに用事でもございましたか?」
できるだけ冷静にその男の人に問いた。視線の端で警戒態勢に入ったジアが見える。
「あぁ、お前じゃないもう一人の女に用があるんだよ。そいつを出せ。」
やはりツィーゼの...?
「...失礼ですが、その者にどのような御用でしょうか。」
「ああ?あいつの親なんだよ、俺は。仕事でここに来たんだが、たまたま似ているやつを見かけてな。まさかとは思ったが、間違いなくあいつは俺の娘だ。」
言葉から分かる通り、やはりツィーゼの...
「左様でしたか。ですが申し訳ございません。その者は現在こちらにいませんので...明後日に再びこちらに来ていただくことは可能でしょうか?明後日ほどになれば仲間の体調もよくなると思いますので。」
「チッ!明後日になったら絶対に連れてこいよ。」
「はい、かしこまりました。ではご要件はそれだけでしょうか?」
ツィーゼの父親らしき人物はいないという用が済んだからか、返事もなしに去っていった。
...それにしても私たちを見ていたのはツィーゼに性暴行をしていたという父親、なんだよね。これで言えることはそれだけかな。
あ!ジア!
「ジア、大丈夫だった?怪我してない?」
そう聞くとジアは警戒態勢を解きながら答えた。
「うん、大丈夫。別に手も出されてないし。それより...あれがツィーゼの父親か。」
「...うん、多分そうだね。それにしてもこっちにツィーゼを連れてこなくてよかった。流石に無理矢理連れて行かれたら対応できなかった。」
「うん...あ、てゆーかよく機転利かせたね。ホノールお姉ちゃんのおかげであいつは明後日までここには来ない。」
そんな程度であれば家族を守るために嘘を吐けるけど...
「まあでもあくまでここに来ないだろうっていう仮定だし、どうなるかはわからないけどね。家までバレていたら体調崩しているのを好機に来るかもしれないし。」
「うん、警戒はここを出るまでずっと続くね。」
「うん。さて、もう挨拶はこのぐらいにしてルカンたちに合流しようか。さっきの情報もルカンに伝えたいし。」
「うん。」
そう言って私たちは片付けをはじめた。
こっちにツィーゼの父親が来たということはルカンの方に行かなかったっていうことだろうけど、見ていたのが一人なのか否かも知らないし、向こうの事も知りたいな。
とりあえず合流を急ごう。




