032 ルカンからの提案
ジアたちが一通りマナーや言葉遣いをできるようになって、私たちも一対一ですごく強い人でなければ負けないだろうって強さになってきたある日の夕食の時間。
ルカンは唐突に言い出した。
「あー、今日もご飯が美味しいな。」
「そう、だね?」
昔ならともかく最近は毎回のご飯が美味しいのにどうしたんだろう。
「あー、だよな...」
なんだろう、この歯切れの悪い話し方。ルカンらしくないけど、なにか言いたいことでもあるのかな。
「あー、そのー、さ。みんな王都っていう場所は分かるか?」
「うん、ホノールお姉ちゃんに教えてもらったよ!ここから南に行ったところにあるんだよね?」
レーヤはそう答えた。教えたことをきちんと覚えてくれているみたいで嬉しい。
「ああ、そうだ。よく学んでいるな。...その、王都ってどう思う?」
「んー...人がたくさん居そう!」
「ご飯が多そう。」
「ご飯の種類も多そうだよな!」
「貴族がたくさんいそう!」
レーヤ、ツィーゼ、ジアに続いて私、みんなが王都に対するイメージを答えた。
「そう、か。...大体はそんなイメージでいいんだが...あー、行くのってどう思う?」
「行く?お金が貯まったから王都に旅行に行くってこと?」
行くという言葉に私は不思議に思って、ルカンに問いた。
「いや、そうじゃなくて....引っ越すのって感じだな。」
「え?引っ越し?」
引っ越し?急に?さっきから疑問が尽きない。なんで引っ越すの、なんで王都なの。そんな疑問を持ちながら、ルカンの言葉の続きを待った。
「今はこの年中雪の降るヌリズ領にいるが、色々な利点を考えて引っ越すのはどうだろうって思ってだな。」
言葉を聞いても疑問がどんどん増えていくばかりで、
「...色々な利点っていうのは具体的になに?」
つい、聞いてしまった。止めよう止めようって思ってたのに。
「さっきみんなが言ってくれた人が多い、つまり客が増えるということ。ご飯の種類もあれば、物流が盛んだからこの国に限らないご飯を食べることができて食にバリエーションができる。そして、一番はツィーゼやジアの親は王都まで追っかけては来ないだろう。」
「あぁ、なるほど...」
すべて一理あるのは分かる。ずっと親の恐怖に追われるのは嫌だよね。私は納得して、一度なんで今なんだという言葉を飲み込んだ。
「それに言葉遣いや戦闘力なども含めて考えて、もうここに留まらなくてもいいんじゃないかなと思ってだな。」
今でもいいことは分かったけれど、なんで今なのかは分からない...
「...俺は賛成。最近変な人に追いかけられてるし、それがツィーゼの親なら逃げられるだろう。」
「「「え!?」」」
「ああ、それが大きい。二人も可愛い女の子たちが集まっているんだから標的になりやすい。ここに留まらなくても、逃げればなんとかなるんじゃないかなとな。」
絞り出すようにルカンは言った。顔からしてできれば言いたくなかったんだろう。
それにしても...全然気づかなかった。最近変な人に見られているんだ。それが理由で最近ルカンが寝ているのに警戒解いてないし、周りを気にしてたのか...。それで今動きたいのか。
...反応からしてルカンとジア以外は気付いてなかったのかな。
「そういうことなら私も賛成。王都のほうが治安が良いって聞くし、自警団とかが守ってくれそう。」
変な人に見られているなら、治安が良いと聞く王都の方が良いだろう。わけを聞いて私は賛成の意思を示した。
「はいはーい!僕も賛成!ツィーゼもホノールお姉ちゃんもみんなも、守らないとだもんね!」
私に次いでレーヤも賛成の意思を示した。
「...私は...」
ツィーゼは返事に困っているみたいだ。
「ツィーゼ、王都の話を聞いて興味があるなら、気分転換とか旅行に行くって考えてみたらどうかな?」
流石にツィーゼの親が私たちを追いかけているならツィーゼを説得したい。そう思った私はついツィーゼに向かって、言葉を紡いでしまった。
「...うん。私も賛成、かな。」
少しすっきりしない顔をしたツィーゼも賛成した。すごく無理矢理賛成させたみたいになってしまったことは本当に申し訳ないけれど、ツィーゼにとっていい方向になると信じたい。
「じゃあ、みんな賛成だな。...そうだな、移動は徒歩で一ヶ月ぐらいか。途中から雪が溶けて普通の道になるから、感覚が変わる。そこも考えて早くて一ヶ月だな。移動を開始するのは、今は初夏だから...理想は準備ができたらすぐだな。」
「あと、周りが見えたほうが安全だし太陽の出ている朝から動いたほうが良いよね。てなると私の希望は明後日かな。」
私は予定を考えているルカンに提案した。
「明後日?なぜ?」
「明日はいつも私たちの商品を買ってくださる方へここを去る挨拶。そして少ないから一日もかからないであろう荷造りのため、かな。」
「あぁ、たしかに。ここまでお世話になったのに黙って行くには失礼だな。俺らが怪しい頃から買っていてくれた方々だもんな。」
「うん。あと軽く寝る前に荷造りをしても良いかも。いらないものがあれば売って、必要なものがあれば買い足す。それもしたいよね。」
移動するには荷物は少ない方が良いし。...まあ服は減らされない方がよかったけど。あのおばさんに盗られた服は未だに見つかっていない。
「ああ、そうだな。じゃあ軽く荷造りをして寝るとするか。」
「うん。」
「じゃあ方針は決定したみたいだし、俺はさっそく荷造りしてくる!」
そう言ってジアは階段を駆け上がった。
「あ!僕もやる!ちょっと待って!ジア!」
レーヤはジアに付いていって、二階に上がって行った。
「じゃあ私も荷造りしてくる。...ごめんね、迷惑かけて。」
ツィーゼは立ち上がってそう言って二階に行こうとした。そんなツィーゼの言葉に私はついツィーゼを引き止めた。
「ツィーゼ、ちょっと待って。」
私は椅子から降りて目線を合わせてツィーゼに話しかけた。
「ツィーゼに迷惑なんてかけられていないよ。私たちを追っているのはヌリズの家の者かもしれないんだから、ツィーゼの親なんて確定していない。それにツィーゼは強くなったんだから、気にしないでね。」
「....うん。ありがとう、ホノールお姉ちゃん。」
「そうだ、ホノールの言う通りだ。見ているのが誰かなんてわからないからな。気にするなよ。」
「...うん。ありがとう、ルカンお兄ちゃん。じゃあ荷造り行ってくる。」
そう言って静かに階段を上がっていった。
多分すごく怖いよね。性的虐待をやってきた親がいるのかもって思うの。
...でも、ツィーゼに言った通り武装していない騎士で一般人に紛れていればわからないし、本当に私の家の可能性もなくはないもんね。ここはヌリズ領内だし。
それにしても、私は姿が見えてないから判断できないけれど、本当に見ている人って何者なんだろう...




