016 次の行き先
「おいこらあああ!待てや!このクソガキ!止まらねえとぶっ殺すぞ!おい!!」
後ろから走りながらの怒号が飛んでくる。
そうは言われても、ごめんなさい!逃げます!
ふー、撒けたかな?もう声がしない。
...さて、今からどこへ行こう。
今後は盗んでしまった後だからこそ、絶対に、頼ってもいいって言ってくれたカルエに泥を塗って、頼るわけにはいかない。元から、家にバレたら怒られるだけでは済まないからこそ、そんな考えはないけれど。
これで絶対にカルエに頼れなくなったのだと、自覚しておきたい。
...街に私と同じ身寄りのない子どもがたくさんいるらしいスラムがある...。
そこに混ぜてもらえないか、一度行ってみよう。
少し実家に近づいてしまうけれど、城下の街ではないから見つからないだろう。
スラムまで遠い...。
それに風が寒い...。
お腹も空いた...。
あ、美味しそう...。あのお菓子らしいもの、捨てられているけどまだ食べられるよね?
「おいしい。」
ゴミ箱に入っているから廃棄食品だろうけど、それを感じないくらい今までの何よりも美味しい。
「またのお越しをお待ちしております。」
そんなことを思っていると入口から店員さんがお客さんをお見送りしていた。
ああ、なるほど。服装から予想するに、比較的地位のいい人のためのお店なのか。それは美味しいはずだ。
街からも外れたこんな辺鄙な場所なのに地位の高いらしい人がいるということはそれだけ有名店なんだろう。
あ、じゃあ早く去らないと。もし来ていたら、家族に見つかりかねない。
「ふー、ついたあ!」
今回はなんとか三日で着いた。
さて、スラムを探しに行こう。
とりあえず街を歩き回ったけど、わからないなあ。見える範囲にそれっぽい建物もない...。
そこにあるお店の人に聞いてみようかな...。
「すみません。」
「いらっしゃい。何をお求めだい?」
「あ、えっと、スラムの場所を教えてほしくて...。」
「...あそこは見物しに行くような場所じゃないぞ?あそこにいるガキは盗みばかりする、どうしようもない子供だ。」
私を怪しむように、よほど悪い方々が多いのか、それを思い出しているのか、眉を潜めて話してくれた。
「その、ただスラムに興味がありまして...。教えていただけないでしょうか?」
「ああ、別にいいよ。それより欲しいものはないのかい?」
「はい、申し訳ありません、今持ち合わせがなく。ただスラムの場所のみ教えてほしいんです。」
「あ、仲間に加わる気か?それはやめておけ、街の人間全員から追いかけ回されるぞ。もちろん俺からもだが。」
忠告をしてくれて、場所だけ聞きたいって言うのに追い返しもしない。優しい人だ。
「あ、もちろんそのようなつもりはありません。ただ、この目で見てみたいだけなので。」
仲間に入りたいけど、追いかけられるなら嘘を吐いたほうが良いよね。今から追いかけられたくはないし。
「別に他の街と一緒の感じのスラムだけどねえ。まあいい、あそこに小さい道があるだろう。あそこを入って、左に曲がって、右に曲がって、右に曲がったところだよ。色々盗まれもするだろうから、気をつけろよ。」
「はい、ありがとうございました。」
あの小道に入って、左、右、右...。少し奥に入ったところなのかな。とりあえず行ってみよう。
言われた通りの道を歩いてきたら、原型はあるけど廃れている家のたくさんあるところについた。
言われた通りの道って言っても、はじめ以降ただ道なりに歩いただけになるけれど。
「さて、言われたところにきたわけだけど...。人影がない。」
こんなに昼間なのに、人が一人も居ない。スラムって身寄りのない子どもがたくさんいるイメージだったけれど、違ったのかな。
声をかけてみれば出てきたりするかな...?
「すみませーん!誰か、いませんかー?すみませーん!あのー!誰かー」
「...うるさい、誰だ、お前。」
大きな声を出していると、奥から人が出てきた!
「あ!こんにちは!えっと、お兄さん?」
「お前に兄と呼ばれる筋合いはない。」
つ、冷たい!でも、そうだよね。このお兄さんは兄ではないもんね。
「それもそうですね。ではとりあえず、はじめまして。」
「挨拶もいらない。入口で大声で呼びかけて、なんの用だ。」
「いくつか質問がありまして...。聞いてもよろしいですか?」
質問から入るのは無礼かもしれないけど、このお兄さん手短にしてほしそうな雰囲気があるし、状況的にそっちのほうが良いよね。
「...なんだ。」
質問させてくれるのか!やった!あ、危ない危ない。冷静にしておいたほうがいいよね。
「あなたたちは身寄りのない子供だと聞きました。それは事実なんですか?」
「ああ、それがなんだ。」
より一層、お兄さんの目つきが鋭くなってしまった。
「いえ、ただの疑問です。次に、あなたたちはどのように生計を立てているのですか?」
「...。」
訝しむような視線を向けてくる。あ!悪意はないと伝えないと!
「ああ、いえ、悪意ある疑問ではなく、私と同じなのか気になったといいますか。なので、そんなに睨まないでください。」
「同じ?」
「はい。私は生まれた家から捨てられ、ほかの町で暮らしていました。ですが、金がなくなってしまい、ゴミを漁っているのがお店の人にバレ、追いかけられたため逃げてきました。あなたたちはどのような状態なのだろうと。」
「...お前も苦労人なのか。わかった、こっちへこい。」
「え?はい、わかりました。」
なぜ『こっちへこい』になったのかは分からないけど、ついてこいって言うならついて行ってみよう。
それしかできることはないし。
ついていった先の家には私よりも小さな女の子一人と男の子二人が居た。
「悪いな、ご飯を持って帰ってくると言ったが、急用ができた。」
「どうしたの?ルカンお兄ちゃん。」
「俺がご飯を持ってくる間、こいつのことを見張っておいてくれないか?」
「ん?だあれ?このお姉ちゃん。」
「言うところによると、同じような境遇らしい。だが、信用はできない。だから、俺が帰ってくるまで見張っていてほしい。ごめんな、急にこんなお願いして。」
「ううん!わかった!じゃあみんなで話しているね!」
「ああ、頼む。」
私に向ける警戒した顔と随分違う。この子たちは全員家族なのかな。
「じゃあ、俺は行ってくる。お前はこいつらと話していろ。」
「わかりました。いってらっしゃいませ。」
「...。」
むず痒そうな顔をしてなにか言いたげだったけれど、口を開いて閉じて、歩いていった。
返事はない。けど、殴られなくてよかった。
まずはこの子たちと話してみたいな。ここのこととか色々教えてもらいたいし。




