第47話 写真で欲求回収
歩き出して10分だろう。感覚では2分とかそこらでも、ここらの街並みを知る俺だからこそ、体感でそれは分かる。早くも折り返しに、幸福感の時間経過は恐ろしいと教えられる。
そう思うのは俺だけではないか、伊桜もスマホを取り出してカチッと電源をつける。意図してない同じスマホ。真っ白に光るとその通り、9分が経過しており、すぐに10分の間隔に広がった。
「先読みするわ。早いねって言うだろ?」
スマホを見て一瞬目を大きく開いたのを確認して、ズルでもそう思ったと先読みを自慢する。
「正解。そんな経ったかなって思ってた」
「同じく」
「流石は私の友達。読めてるね」
「親友なんで」
友達という少し曖昧で確かな関係でもない呼び方よりも、特別な人に思う親友の方が、俺たちの関係には合っている。お互いにしか見せないそれが親友として物語る。
再びポケットにスマホを入れる。その瞬間にふと、先程までのことで気になることを思い出す。
「さっき撮った写真、俺の背中だけを撮ったのか?」
顔は見えなかったはず。俺も伊桜のスマホを横目でも確認出来なかったのだから、それは確定。では何故それでも撮ったのか。アホ顔や動揺する顔を撮るのが好きだと言うから、きっと俺の顔を移して撮りたいのだろうに、背を向けても撮るのだから余計に。
「拡散するわけでもないだろうし、黄色の火花を撮るだけでもないだろうし。普通に気になる」
「見たいの?」
「見せてもいいなら。無理に見たいとは思わない。寂しく1人で花火をしてる自分の姿なんて、面白味もないしな」
「んー」
スマホを顎の下に置き、腕を組んで考える。スッと出てこない時は許可が下りない場合が多い。しかしそれはごく普通の友達関係なら。
「あれ、実は私も写真に写ってるんだよね。1人で寂しくしてるのを撮ろうとしたけど、折角だから一緒に画角にって。だから私の顔がドアップなんだよ」
「自撮りってことか?」
だとしたら、あの時のシャッター音の後の座り直しはそういうことだったのかもしれない。秘密裏に写真を撮って思い出に残すとか、やはりツンデレは消えてないそう。
「私を撮りたくて撮ったんじゃないから自撮りっていう、女の子がよくするような感覚の自撮りじゃないよ」
「……ホント、女の子らしさを出したがらないな」
「いいのいいの。天方の前だけ特別に美少女になるから。天方にだけね?それも特別に」
「自然と言うから男の心に来るってもんだろ。そんな強調されても嘘としか思えないぞ」
「嘘ではないけど深い意味もないね」
お互いに恋愛的好意すら持たない関係。なんなら伊桜も好感はあってもそれが段々と下がるほどに、関係は友達寄りになっている。関わりやすければそれで今はいいが。
「だから見せれるよ。私のご尊顔を拝んでくださいよ」
「次会った時に偽伊桜だった時のギャップ凄そうだわ。教室でたまたま感出して、ご尊顔拝ませてもらうぞ」
「ダメです。多分めちゃくちゃ動揺して泣き出すから。知ってる?女子の泣きって男子には強力なんだよ」
「知らないけど知ってる気にはなる」
ちょっと男子、何々ちゃんが泣いてるよ?というちょっと男子の組み合わせが自然と浮かび上がる。だが、それは高校生にもなると言う人は少ない。むしろ泣いても解決しないことを知ってるため使うのは恥ずかしい。
未だに純粋に「ちょっと男子」を使う人は、女子で居るならぜひ友達になりたいものだ。
スマホを片腕操作なのは慣れからだろう。スムーズにその写真へと辿り着くと見せてくる。
「はい、これが泣き出す前の私のご尊顔と、横顔綺麗な天方だよ」
やや暗順応した目には、その見せられるブルーライトたちに目を細めるほどに視野を狭められる。だが背景や写真先がほとんど暗闇だったため、それは刹那の話。
見せられる写真には、三分の一をそのご尊顔で埋められ、その奥で寂しそうに花火だけを見つめて膝を曲げる俺が写っていた。
とはいえ、俺に視線を移すほど俺の目は節穴ではない。三分の一という画角を埋めたその顔は、室内の明かりに照らされたこともあり、背後の暗闇とは無縁の白く透き通るようなきめ細やかな肌をしていた。
吹き出物は皆無。何も楽しむ様子のなく、悔しさだけを残して軒下に座ったというのに、写真には満面の笑みで女の子らしく可愛さを全面に出して、青春謳歌する人となる伊桜が目に焼き付いた。
「写真の撮り方上手いな。毎日撮ってる人よりも上手そう」
「はーい10点。そこは私の顔と一緒に褒めるとこだよ」
「承認欲求を回収しようとするな。言わなくても可愛くてクールなとこは分かってるだろ」
「それでも言ってもらいたいのが女の子なんだって、勉強してないの?」
「女の子らしさは求めてないのでは?」
「特別な人相手だと違うんだよ」
「……男の扱い方を知ってる人じゃないか」
「天方にだけだよ」
実は承認欲求の塊なのでは?なんて思うほどこの演技は上手い。どれだけ鈍くても、伊桜は元々女子として可愛さを求める性格ではないため、可愛いと言われることを望んでいない。
女子である限り、少なくとも可愛いと言われることには興味を持つかもしれないが、伊桜が求めるのは伊桜らしさ。自分にしかないとこを褒めてもらいたいという欲求だ。
少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです




