第46話 そういえば演じていた
自分でやるからなのもあるが、第1に顔が整っていていたとしても、壁ドンに愛おしいキス顔をプラスしてそれをゼロ距離で見せられたら耐えられないだろう。
人間という生き物は、それをイメージしろと言えば好みのタイプを想像する。だが、良いのは妄想の時だけだ。たとえ推しがその壁ドンをしたとしても、突然ならば誰もが拒否をする。そして幻滅するだろう。
「欲するからやってって言ったら?」
「伊桜にならやるかもな。いや、逆に伊桜には嫌われたくないからしないかもな」
「嫌わない約束でなら?」
「押すな。そんなにしてもらいたいのか?」
「ゼロ距離でそのアホ顔を見れるなら全然あり。写真撮って1日はスマホの壁紙にするよ」
スマホの電源をカチカチとつけて消してを繰り返す。何もない真っ白なロック画面。予想通りといえば予想通り。でも本関係の何かを設定しているとも思っていた。
「止めてくれ。その1日が不運に塗れるぞ」
「美少女の強運と壁ドンの不運。どっちが勝つかも気になるんですけど」
「美少女ってワード使って浸るな」
この性格を誰にでも共有出来たならば、きっと伊桜が美少女と自負することに何も嫌悪感などは抱かないだろう。だが、言っておいてなんだが、この伊桜との関係は誰にも譲る気はない。
1から不思議な縁によって巡り合った出会いだ。それをそこらの生徒に取られてたまるものか。男子が大きな敵だが、俺は女子にも敵対心を持つ。仲を深めやすいからこそ、危うい敵だ。
ウザがられない本性を見せれる相手は、未だ俺だけであってほしいものだ。
「今のうちに浸らないと、歳を重ねると後悔するし言えなくなるからさ。いいじゃん、誰の目の前でも言うわけでもないし」
「確かに。でも伊桜は歳を重ねても更に神々しくなる気もするけどな」
「どうだろうね」
「可愛いならともかく、クールビューティーなら大人の色気とか、そこらの強化しやすいんじゃないのか?」
「天方は今の私じゃ満足出来ないって言うの?ヒドイ。絶交よ」
「だから誰だよ」
心底呆れたように、それも今日1番の煽る表情で言うので、自然と誰だと聞きたくなる。意味が分からないタイミングでの謎の人格が生まれるので、情緒不安定なのか、テンションが高くなりすぎてこうなるのか、読めない伊桜は飽きさせない。
「んまぁ、私はブサイク演じてるんだし、そもそも人から可愛いと思われることには興味はないからね」
そうだったと、とっくに忘れていた伊桜の偽の姿。それを思い出させるように、眼鏡と前髪を触ってアピールしてくる。
今は夜であり、この周辺に同級生は住んでいないことを知っているため、姿はそのまま。麦わら帽子だけが隠せるアイテム。
偽、他の同級生からしたら本当と思う伊桜の姿ならば、逆に見られて色々後で詮索されるため、この姿が最適ということ。俺は素が見れるのでラッキーだ。
「その性格と触れ合ってると、マジで夏休み明けに自然に話し掛けそうだわ」
「大丈夫大丈夫。演じてる私を見れば流石に分かるよ。あっ、アホな天方でも分かるよ」
「付け加えるな。否定はしないけど」
誰がどう思えば、伊桜がこんなにも陽キャ寄りの明るく接しやすい、冗談をよく言う負けず嫌いだと知るか。話しだせばそれが簡潔する間に1度は笑い、勝負をすれば勝ちのために必死になる。しかもそれが本当の性格だというのだから改めて演技の凄さを実感する。
「忘れる人が悪い。私も時々忘れるけど。まぁ、学校始まったら会う回数なんてそんなに無いし、だんだんと染み付いてくるよ」
「意識して見るだろうからな。多分今の伊桜が標準ってなって変に思うだろうな」
今まで意識しなかったし、伊桜は存在感も薄かった。故にどういう人なのかというイメージ、第一印象も無かった。だからこそ、こうして関わりを持つようになってから、第一印象が決まった。
これが本性だとも知り、偽りも作っていると知っている。俺にだけそれを見せるのだということも。
「そんなに私が好き?」
「何?真面目に答えるやつ?」
少し低めのトーンで、ノリに乗れなさそうな雰囲気の質問だった。咄嗟に頭で考えるよりも先に口が開いた。反射的に。
「あー、いい。聞き返されたら答えは冗談で返ってくるし」
「さぁな。真面目を望むなら――好きだぞ。恋愛的な感情はないけどな。どうせ好きになるのも時間の問題だろうから、今から好きって言っても間違いではないかもしれないけど」
「そう言って数々の女子を誑かしてきたの?」
「告白したのもされたのも0って言っただろ。誑かしてない」
「うわー、それ――」
「天然たらしじゃないからな?」
「……面白くなーい」
いつも先読みされるため、これはやり返しの1つだ。天啓だったが、完全に正解だったようで、やや不服そうに頬を膨らませる。
表情筋もそうだが、頬の活動が活発な人なので、見ていて様々な種類の表情が生まれ、動悸を早くしてくれるのは隣に立つ男としては至福。
無限に見られる。
「面白くなくても、俺は俺だからな。これからも何回も続くぞ」
「それ以上に私は先読みするけどね」
「間違いない」
認める以外ない。俺は語彙力もなければ単調な生き物。伊桜には手に取るように、息をするように簡単に先読み出来るだろう。
羨ましくもある。俺も先読みの力を得たいものだ。
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