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第45話 何とかかんとか壁ドン




 靴を履き、部屋着そのままに伊桜と家を出る。鍵も閉め、往復にして40分ほどの散歩が始まる。


 「さっきはノリで言ったけど、ホントに良かったの?時間かかるよ?」


 どこまで行こうと、中身は優しい女の子。気を使うのは自然なほどに。だからこそ、夜遅くを1人で戻らせるのは申し訳なくなるらしい。そうなればお互いお互いの家に帰るのを無限ループすることになるが。


 「大丈夫だ。意外とロマンチストでな。夏の夜はよく1人で外を歩くんだ。静かな時間が好きだから、適当に徘徊をな」


 「へぇー。言われてみればそういうイメージあるよ。実はまったりするのが好きそうなイメージ。ロマンチストは……遠いかな」


 「ロマンチストは俺も思う。そんな気にするほど女子とは関係は固くないしな」


 男女ともに人との関わりをそこまで好まないのは知れたこと。自分から積極的に関わることはないため、仲のいい友達や、クラスメートとしての友達というレッテルを貼られた友人は皆無。


 「まったりは?」


 「個人的にはいつメン以外にはおとなしいから意外と正解かもな。あと伊桜もか」


 「後付は良くないなー」


 「冗談だ」


 「んふふー、知ってる」


 やたらと機嫌が良いと、それだけで人の見方は変わるもの。煽られる時は無性に可愛いことがムカつく原因の一端だったが、今では可愛いことが頬を緩ませる原因の一端だ。


 伊桜は時々、何かしらの条件をクリアした時に「んふふー」や「あはっ」と笑って言葉を続ける。多分機嫌がいい時の見分け方なのだろうが、条件が分からないため未知の特典だ。


 それにしても、普段クールな伊桜から華奢な笑い声を聞くと、コンビニのアイスの当たりを引いた時の50倍はレアそうで、自然と嬉しさが込み上げる。


 「逆に私の今のイメージはどう?」


 「んー、俺と似たような感じだな。のんびりマイペースの天真爛漫なクールで可愛さも兼ね備えた……うわっ、神々しいな」


 言いながら思った。どこの記憶を遡っても、どの記憶に映る伊桜も非の打ち所がないように完璧だった。人はマスクをしている人を見ると、隠れた部分を理想と合わせると言うが、俺の記憶もそう改竄されたように美しく彩られていた。


 「うわって言うな。これでも美少女自負してるんだから、高いプライドに傷がつくでしょ?」


 「それは本気なんだよな……でも何も言えないほどに整ってるからな……これはうわって言うだろ」


 華頂にも花染にも悪いが、先日の川辺でキャンプをした時の変顔や失態を思い出して比べてしまう。変顔でも可愛く失態すら美に感じさせる2人だったが、俺の伊桜フィルターにはどうしても伊桜を越えられない壁がある。


 どれもこれも脳内に出てくる記憶の写真はうわって思うほどに現実を遠ざける。


 「私のイメージって美化されてるね。良いのは容姿だけだよ、性格は完全に天方の美化入ってる」


 「そうか?悪いと思うとこないけどな」


 「口悪いとことか、思ったことすぐ言うとことか、拒否される割合高そうでしょ?」


 「嘘つくなよ。口悪いのも思ったことすぐ言うのも全部冗談だろ」


 容姿が整ってることを自負してると言う時と、俺に対して好きなように言葉を選んで投げ掛けるのには区別しやすい。自信満々に、出会った時に真剣に言った時とは違って、悪口などを冗談で言う時は口調が緩くなる。語尾を伸ばしたりするのもその証拠だ。


 「バレた?本当に気にしてることは何もないよ。良いとも悪いとも思わない普通の性格だとは思ってる」


 「負けず嫌いの質は普通ではないけどな。あっ、負けず嫌いなとこは美化されてるかもな。チクチクと陰湿な陰口みたいに刺してくるのは悪いとこかもしれないわ」


 「気づくなよ。そのまま乗り切れそうだったのに。そういうとこが嫌いになる要因なんだからな?気ーつけや」


 「誰だお前」


 口調の変化も冗談のそれ。恥ずかしさを隠す時もたまに出るので、その区別は未だ難しいが。仲を更に深めて自然と分かる領域まで到達したいものだ。


 「不思議な性格だよな、ホントに」


 「よくこの性格に付いてこれるね」


 「運命だからな。相性抜群だから引き合って出会ったってとこだろ」


 「ないない。もしそうなら美少女の運命がこんなストーカーと出会うことなんて、どれだけ不運なんだって思うし」


 「冗談なら笑って許す。冗談じゃないなら念願の愛おしいキス顔でゼロ距離壁ドンする」


 「出来もしないこと言うもんじゃないよ。……ちなみに冗談です」


 若干マジでやりそうな雰囲気を醸し出すことで、しっかりと怯えさせることには成功。頬を人差し指で掻き、狼狽寸前の動揺を見せた。


 それよりも「よくこの性格に付いてこれる」という言葉を発したということは、自分でもそれが本性と知っていて俺に見せているということ。そこが気になって、途轍もない罰ゲームのような壁ドンを選択肢にしたほど。


 つまりは、この喋り方と話し方、関わり方を望んで居るのではないだろうか。真意は定かではないが、可能性はある。


 これまた興味をそそりそうな魚の小骨が喉に引っ掛かってくれたようだ。


 「でもその何?何とかかんとか壁ドンって面白そうではある。受けたくはないけど、絶妙なワードセンスだったからめっちゃ気になる」


 「残念。俺がやりたくないから絶対にあり得ないぞ」

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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