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第44話 帰宅




 優男としてのポイントを稼ぐのにもちょうど良さそうではある。俺的にはポイントをいくら稼いでも意味はないと知っているが、冗談としてはこのポイントは使えるので、意外と大切だったりする。


 「結構遠いのか?」


 「そこまで。歩いて20分も無いと思うよ」


 「思ってたより近かった」


 これが日常の伊桜なのか、ソファに座ってクッションを縦にし、その上に顎を載せてはスマホを触って何かしている。日常と変わらないならば、それほどの距離を築けたとして嬉しさはある。変わるのなら、それはそれで日常どのように暮らしているかが気になる。


 「帰っても家ではその姿勢を横倒しにするくらいしか変わらなさそうだな」


 「そうだね。脱力して獣に襲われないよう警戒しなくはなる」


 「警戒するほど俺は獣なのか。お望み通りその警戒を通報にランクアップさせようか?」


 「多分ドMの極致でも自分から通報されたいと思う人は居ないよ。触れた瞬間に通報するから、いつでも来ていいよ」


 スマホを見せて110と番号が刻まれていて、後はポチッと触るだけだった。間違えて押さないよう離れたとこから、持ち手はしっかり側面に添えて。


 「有名人にはなりたくないもんで。遠慮させてもらう。それに、触れた代わりに警察に通報なんて、代償が大きすぎる」


 「それでも触れる人は世の中に居るんだよ。恐ろしい恐ろしい」


 「やれるもんならやってみろってやつに、マジになった結果だろそれ」


 でも否定は出来ない。世の中は十人十色なため、自分の理解が及ばないことを平然とやって退ける人は大勢居る。伊桜という美少女ならば、そこらの欲求不満の男の目を簡単に奪い、衝動に駆らせることも可能だろう。


 恐ろしいのは美少女の方だな。


 「まぁ、天方にマジになられたら私も流石に抵抗は出来ないからね。ビクビク怯えながら毎日脅されてる気分で関わらせてもらうよ」


 「絶対服従な?」


 「今時おままごとでも王様役で絶対服従とか絶対王政を主軸に物語作らないよ」


 「低レベルだって遠回しに言うな。付き合ってる伊桜も同類だからな」


 「天方様と同類ならとても嬉しいですー」


 「もっと崇めろ。それで一生その喋り方でいろよ?」


 「無ー理ー」


 「…………」


 多分、いや、絶対に煽らないといったことを忘れて、今この瞬間でストレス解消している。次から次に俺を下に見る言い方で煽る。


 可愛さが逆にムカつきに拍車をかけてくれるので、順調にムカムカっと違うポイントが溜まっていく。爆発はしないだろうが、こうして煽られ続けるのは酷だ。


 対応が追いつかない。というか更に上を行く煽り。まるで手のひらの上で転がして遊ばれているような。


 「さっさと帰ってもらおうかな」


 「ちょうど21時なったし、ナイスタイミング。元々帰る予定でしたー。さっさとじゃなくてごめんねー」


 「最高に嫌がることしたい気分に駆られてる」


 「きゃー、暴力?」


 「いや、精神的に来るやつ」


 男女関係なく暴力は何に於いても許されない。だが、最近でも許されないと注目され始めた精神的に追い込む攻撃。それを軽く冗談として友達にする感覚でならやる気はある。


 「好きな子にやりたくなっちゃうやつね」


 「好きじゃない子にやりたくなるやつだ。好きな子にとかそんな易しいことをするわけ無いだろ。って言っても何も思いつかないけどな」


 「知ってる。ちゃんと優男だもんね」


 「煽りが含まれて聞こえるのは気の所為か?伊桜=俺嫌いの式が成り立つからそう思うだけか?」


 「冗談なら後者。本気なら前者」


 「はぁぁ、これから苦労しそうだ」


 「応援してる。抱きしめてあげようか?」


 「……遠慮する」


 通報されることはない言い方だったが、ニヤニヤされると何かを企んでいる気がして遠慮したくなる。賢い人は何をするか想像がつかないため、バカには全てを拒否することしか出来ない。


 運動関係にスキルを極振りして生まれたのがマズかったか。学力も平均程度には割り振っていれば良かった。生前の後悔だ。


 「よし、フラれたことだし帰ろー」


 「フラれてウキウキしてる人が居るかよ」


 「ここに居ますけど、何か?」


 少ない所持品を手に持ち、サッと立ち上がると麦わら帽子を右手に持った。どこか満足気で、幸せそうなのは煽っていた人とは思えないほどに微笑ましい。


 ワンピースを靡かせ、服装に変なとこはないかを確認すると無言でピースを向けてくる。気分が良くなったようで、何をしたのか知らないが影響されやすい俺も、元気を底上げされる。


 「帰るぞ帰るぞー」


 「子供っぽさ出てきたな」


 「天方と別れるのが楽しみだからって言ったらどうする?」


 「泣き崩れる。近隣住民が押し寄せるほどには泣くぞ」


 「あははっ。それは私も困るよ。普通に嘘嘘。楽しかったし、満足したから、天方にはちゃんと感謝してるよ。どーも」


 ありがとうではないのは照れ隠し。頬は興奮からこれ以上赤く染まることはないため、今照れたとか把握は出来ないが、俺の中の妄想では照れたことにして、今を幸せと思う。


 都合のいい考え方だ。


 「こちらこそ。ほら、俺が泣く前に帰るぞ」


 「了解でーす」


 この1日で仲も更に深まったか、天真爛漫であり好きなことを言って楽しむ伊桜が、こんなにも女の子らしい一面を更に見せるとは、正直驚きの連続だった。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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