第36話 種類
欲しい物はタイミング良く思いついたが、してもらいたいこととなると特別思いつくことはない。今ってか、ずっと望まずして伊桜から幸福感を味あわせてもらっているのだから、考えたこともなかった。
一緒に居ればそれだけで満たされるものがあるので、考えるのが難しいというよりかは思いつかないというのが正しい。
「枕か……ってか破るってやっぱりアホなのは平常運転なんだね」
「あの日は遊び疲れたんだよ。仕方ないだろ」
思い出すだけで肌がヒリヒリするようだ。1ヶ月はヒリヒリしてろと言われたことが蘇る。
「次は何が聞きたいんだ?」
「一旦終わり。特に聞きたいことはないかな」
「めちゃくちゃ早いな。1個だけとか、俺のこと知りたいと思ってない人の数だろ」
「それは人それぞれー。私はちゃんと知りたいと思って聞いただけだし、そんな急いで聞くようなことでもないでしょ。どうせ長い付き合いとかになるんだから」
今日の伊桜は珍しいも珍しい。長い付き合いになるなんて覚悟してるとも思ってなかったし、こうして俺を知るために行動してくれるとも思ってなかった。
冗談を冗談で返すこともあまりなかったし、感情豊かに笑ったり呆れたりすることが多く、情緒不安定の一歩手前まで来ている限界女子のようだ。
可愛いからいいんだけどな。
「俺のこと好きになりつつあるってことか」
「ううん。微塵も」
「……やっとこっち見たと思ったら真顔でガチ否定するなよ。面白みはあっても与えるダメージは大きいんだからな?」
紫の火花を先に散らしながら、顔だけは俺の方を向いて真顔で何言ってるの?という顔で見てくる。真顔はその人のそのままの顔が見れるため、クールで少し男装のメイクを入れると、余裕で男と見紛う可能性のあるほどイケイケな顔が現れる。しかしいくらそれが好みでもダメージは来る。
罪深い女だ。
「はぁぁ、可愛げあると思ったらすぐこれですよ」
「これが好きなんじゃないの?」
「そうだけど、ここも可愛く冗談で頷いてくれるのが優しさだろ?」
「そんな関係を築いた覚えはないけどねー。私は天方くんの思い通りにならないタイプだから」
「可愛さはどこに行ったのやら」
「天方くんの妄想の中」
「上手いこと言うな」
ただ火花を散らすだけでは物足りなくなったか、指先をクルクルと回して回転させて遊び始めた。退屈だとは思ってないが、味がほしいと思ってきたのだろう。
今でも満足はしている様子。もう少ししてから種類を変えて遊ぶとするか。近所付き合いが良好過ぎると言っても、流石に夜の庭で、爆竹や比較的音の激しい打ち上げタイプのものは扱えないが、それ以外なら何とかなる。
これを作った人は天才だな。
「ねぇ、天方くんは今楽しい?」
伊桜のマネをしながらクルクルと回していると、今度は楽しいかと聞かれる側になる。
「めっちゃ楽しいぞ」
「それなら良かった。いつも私に楽しい?とか満足?とか聞いてくるけど、天方くんは楽しくなかったりしないのかなって思って聞いてみただけ」
「なんだそれ。俺から誘ってるんだし、そりゃ楽しいに決まってる。それに伊桜が楽しければ俺も、感化されるわけじゃないけど、幸せと楽しさは感じてるぞ」
今だって良かったと微笑みながら安堵するような伊桜に、俺も頬を緩ませてしまう。それほどに今が楽しい。
「思い出に残ると思う?」
「現在進行系で残ってるな」
今日会ってから全てのことが鮮明に思い出せるのは当然のようなこと。しかし、それを明日明後日それ以降良かったこととして覚えていられるかが大切なことだ。
俺が目指すというか、今作りたい思い出というのは、良くある『一生忘れない思い出』というものではなくて『ふとした時に思い出せる小さな思い出』だ。
俺たちの関係性的に、まだ出会って2ヶ月も経過しておらず、友人としても分からないことだらけだ。それで一生なんて作れるとは思えないし、残るわけもない。
どうせ友人となにかした思い出なんて、スマホなどに記録してもそれ以降見たりしない。その時その時の気持ちの昂ぶりで撮るだけの写真に意味はほとんどないと思う。
思い出には様々な種類があるが、俺たちはカップルが作る思い出、親友と作る思い出よりも何倍も小さくていいから、俺たちだけの「あっ、あの時あれあったよな。楽しかったな」というやり取りができる程度の思い出を作りたいのだ。
それも、薄い記憶で。
重たく残る記憶や、すぐに思い出せる思い出を作るのは、そういう関係になれた時だ。俺はそれを目指しているかと聞かれればなんとも言えないが。
「私も結構いい思い出になってると思う。久しぶりのことばっかだったし、何もしてないけど、夏祭り感を少しでも感じれたから」
「彩りをプラス出来たなら俺も嬉しいわ。失敗すると思ってたけど、伊桜となら失敗しなかったな」
「完璧な女だからね。人にも影響しちゃうんだよ」
「自信満々だな。本当の伊桜で花染華頂と競ってほしいわ」
「それは嫌だよ。勝ち負けある女子の勝負は凄いんだから」
「……なんでか分かる気がする」
学校での2人を思い出すと納得する。花染と華頂の体育やテストの友達としての睨み合いは毎回凄いものだからな。勝っても毎回僅差。圧勝するまであと何年必要なことか。
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