第37話 花火勝負
「それなら俺と別の勝負をしよう」
「別の?」
「ああ。それなら関係も気まずくならないし、むしろ俺相手なら楽しめるだろ」
俺に好感を持つからこそ、こうして俺に対して辛辣で本当の態度を取り、ずっとこうして友達と居たかったと伝えているような立ち居振る舞いをする。それを知るから、いや、そう勝手に解釈して今の関係を築けている。
結局は学校で1人でいるのを好んでいても、心のどこかでは友人を求めるものなのだ。稀に本気で1人が好みだという人もいるだろうが、隣の隠れ美少女は決して違うと言い切れるほどに、その思いが強かった。
「楽しめるかはその時次第だけどね」
「今楽しめてるなら変わらず楽しめるだろ。そんなすぐ俺の提案で楽しくないとか思われたら泣き叫んでやるくらいだ」
「子守りは苦手だから、そうなったらすぐ帰らせてもらう」
「包容力ってやつはないのか?」
「全く無い。同い年の男子のそういう幼い部分も、物理的なことも受け入れないよ」
「……絶対ツンデレ意識してるだろ」
「してません」
いい思い出だと笑って喜んでくれていた伊桜から一転、俺のことは受け入れたくありませんと口に出して言われる棘刺しの伊桜。狙ってるとしか思えない。
でも、包容力が無いのは分からないこともなかった。物理的っていうとこはもちろん、人の性格を何でも優しく受け止めるタイプではないだろう。
俺のことを本気で嫌がっているとは思わなくても、踏み込んではいけない一線があることはなんとなくでも察している。
「それで?勝負って?」
なんだかんだ勝負となれば負けず嫌いは発動するようだ。手には鮮やかな色を放つ火花が散り続けているが、持っているだけで意識は俺に向いている。
「今手に持ってるもので勝負ってなったら1つしかないだろ」
「花火で勝負……?」
「珍しくピンとこないのか?」
「そんなにしたことないから花火の勝負っていう当たり前を知らないんだよね」
「なるほどな」
俺もほとんど同じ回数だろうが、それでも疎いと言われれば頷く。俺の当たり前は他人の当たり前ではないなんて普通のことだ。これに関しては疎くても分かるようなことだったがな。
俺もしたことはないし。
「ヒントは線香花火だ」
「……分かったかも」
「やっぱり知ってるやつだっただろ?誰でも聞いたことあるから、疎くてもそれは分かるだろうな」
正解だと確信し始めたのか、結構世間一般で知られるようなちょっとした遊びの勝負に気づけなかったことを、悔しがるように目を細める。
「どっちの線香花火が先に落ちるかってやつ?」
「大正解」
線香花火を手にしたら友人が側にいれば良くやるやつだ。1人で出来ないので当然だが、何かと罰ゲームを決めては完全運ゲーの勝負に全力で挑むのは、1つの風物詩と言っても過言ではないだろう。
「花火って言われたから、線香花火とは思わなかった」
「悔しいからって言い訳するなよ。線香花火も花火だぞ」
「手に持ってるって言った」
「それは悪かった。説明不足だったな」
よくよく考えて見ればそうだ。手に持ってるといったことで選択肢は絞られたようなもの。その上で答えを出そうとしたのなら、一般的では知られていない勝負だろうし、答えが出てこないのも分かる。
分かりやすくと思ったら逆に難しくしてしまう天才かもな。
「すんなり認められたら調子狂うんだけど」
「それで良いだろ。調子狂わない時なんてほとんどないんだから」
「慣れてないと困ることはあるんだよ。あっ今気まずくしちゃったかな?なんて気を使うから」
「今まで無かったくせに。まだ慣れてませんって言い方やめろよ」
「無理ー」
無理だと拒否するのにハマってるな。可能なことでも絶対に無理と否定し、俺を少しでもムカっとさせようとする。なんとも子供じみたことをするものだが、そこがプラスになる女子なのでそこにムカつきそうになる。
可愛く無理ーと言う分まだましだ。これが煽るように見下し感満載で言われたなら、その時は猿轡でも付けて遊ぼうか。
「はいはい、無理無理ばかり言う人の隣には居たくないので水飲んで来まーす」
「はーい、帰って来なくていいからねー」
このままホントに猿轡を持ってきて付けてやろうかと思うには、十分に煽りは効いていた。
リビングに戻り、冷蔵庫まで向かって中の水をコップに注いで一息に飲み干す。この時の爽快感はハンパなくて生き返るという言葉そのものを感じれる気分になる。
伊桜も汗は不思議とかかなくとも、飲み物はいるだろうと思い、先程伊桜が使っていたコップを洗い氷を入れてお茶を入れる。
後ろからこっそり忍び寄って露出した肌のどこかに冷えたコップを付けてやろうかと、そう思うくらいに俺はいたずらが好きだった。
コップを右手に持ち、気配を消してゆっくりと歩く。リビングから庭までには特に音がなる踏みものはなく、これは好機だ。開け広げて来たため扉を開けることもなく、俺に背を向けた伊桜だけがしっかりと目の中に入る。
そして伊桜の背後に来ると、首元につけてやろう、そう思っていたが、花火を両手に持ちながら楽しそうにリズムをとって横や縦に、指揮を執るように花火で遊ぶ伊桜に俺の手は止められてしまっていた。
ついでに鼻歌も歌っているようで、俺には少しだって気づいていない。まるでここに自分1人しかいないかのようだ。
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