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第35話 花火と質問




 勝ち負けを計れるとは思えないが、気分的には勝ってるのでそういうことにしよう。何の意味もない勝負だが、それでも俺には楽しいと思える要素の1つであるから、変人だとは思っても普通だとも思っている。


 そうして花火を手に持った伊桜だが、俺と比べると手持ち花火にしては少し大きすぎるようにも見える。それほど手が小さいというわけだが、体の細さも相まって俺の花火よりも火力を出しそうなほど迫力がある。


 スタイルまで良いのだからこれはもう他の女子なんて、花染華頂以外に対抗は不可能だ。なんならその2人ですら霞んでしまうほどに。俺の価値観的になので人それぞれの好みで分かれるが、ダントツ1位は伊桜だ。


 「変なこと考えてそう」


 俺の思考をすべて読むかのようにピンポイントで当ててくる。これがたまにある相性抜群だからこその相性最悪なとこ。


 「伊桜と挨拶した時からずっと変なこと考えてるけどな」


 「それはそうだろうけど、今は特に」


 「そうか?あまり変わらない気もするけどな」


 まだマシな方ではある。スタイルを褒めたりすることは女子からしても嬉しいことだろうし、俺の前では偽りの自分を演じてるわけでもないのだから、素直に喜んでくれることを考えていたと思うのだが。


 「まぁ、今はいいか。とりあえず花火しよ」


 「そうだな」


 花火が実は楽しみのようで、そこまで気にしていない様子。まだこういう幼い部分が残る伊桜はずっとそのままで居てほしいと思うほどにお気に入りだ。


 そしてつけるまで時間のかかった俺たちだが、ついに片手に持った花火を同時にロウソクに近づける。緊張の一瞬のようにどうなるのかワクワクなのは俺だけではない。


 先端が火に当たり、すぐに柔らかく小さな音とともに火花を散らす。俺の花火は赤、伊桜は黄色のネオンカラーのように眩しくて綺羅びやかな色を放つ。


 「わぁ……久しぶりだとキレイだね」


 花火に目を奪われるために見える横顔は、今まで見てきた横顔よりもキレイで俺は赤色なんてどうでもいいほどに、目を奪われる。こんな身近に幸せの源があっていいのだろうか。


 「ああ、キレイだな」


 物足りなさは全く無く、この時間はこれまでの何よりも幸せなものであり、思い出として深く刻むには溢れそうなほど満足感がある。


 そのキレイな横顔とともに。


 足を曲げ、同じ方向に花火を向けている。だからすぐ隣に伊桜はいる。浴衣を来ても着なくても、結局はその場にどんな雰囲気でどんな人と居たかが重要なんだと改めて教えられた。


 肩は触れ合うことはなくとも、それで良かった。その空いた距離が俺たちの今の距離。1年後、また花火をする、もしくは見に行く機会があるならば、その時の距離が今より近ければいいんだ。


 「あー、終わっちゃった」


 惜しむように眉を下げる。


 「1本でそんな悲しそうにするなよ。まだたくさんあるんだし」


 「私なりの可愛い女の子ってこんな感じなんだけど」


 「演じたってことか。それならめちゃくちゃ可愛かったぞ」


 「それはどーも」


 いきなり謎の演技を入れ込むので、やはり伊桜という女子が不思議ちゃんでしかないと思う。でも演技にしては上手だった。これも何でも出来る美少女の強みか。


 「それにしても、なんで可愛くしようとしたんだ?」


 花火に火をつけながら聞く。まだまだたくさんあるので次々につけていっても良いだろう。


 「んー、お礼かな。色々としてもらったなら何か返さないとって思って、そしたら可愛いこぶるとこを見せてもいい気がしてさ」


 「常に可愛いところは見せてるんだから、そんなこと気にしなくても良かっただろうに」


 「私は見せてる気ないから」


 「それなら無意識に惹きつけてるってことか。魔女かよ」


 確かに伊桜は可愛いとこを見せようとしない。それが好きではないと知っているので、理由はあるだろうが納得している。


 お礼にしては珍しくハードルの高いことをしてくれたものだ。俺に好意を抱いてくれたのだろうか。間違いなくそれは無いだろうが、何であれ普段見せない一面を見せてくれたのは友達として近づけた気がして安心だ。


 俺の花火は今度は青色。いつも気分的に光の三原色は赤色青色黄色だと思ってしまうので、今も揃ったと一瞬思っていた。緑なんて少し違和感あるのは俺だけだろうか。


 「うん、魔女だよ。それじゃ、そんな魔女から質問してもいい?」


 「なんでも」


 冗談ながらに肯定するとニコニコしながらも花火を持ち続け、俺の方は向かずに質問をする。


 「天方くんの欲しい物、もしくはしてもらいたいことって何かある?」


 俺のことを知りたいとか言っていたので、似たようなことを聞かれるとは思っていた。ドンピシャでそうだったので驚きはしない。


 「欲しい物、してもらいたいことか……」


 別に深い意味も無いのだろうが、知りたいと真剣に言ってくれたのだから本当のことを教えるべきだろう。さっきからの質問も嘘偽りなく答えてるしな。


 伊桜との時間とか答えても真面目なんだが冗談っぽく聞こえるので無しだ。難しいものだ。伊桜のことで正直十分なのだから。


 「欲しい物は枕だな。キャンプから帰って疲れた勢いでベッドに倒れ込んだら、指先で破いてしまったんだよなー。それでしてもらいたいことだけど、それは今してもらってるから思いつかないな。いつかこれを超える思い出作れるならしてもらいたいことってことで手伝ってもらうけど」

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