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第31話 ポンコツ




 4本ともにチョコを纏わせると、予想通り冷やして置いた2本のバナナにはチョコがしっかりと固まっており、残りの2本は溶けただけのチョコがベタベタと纏われている。


 「完全だな。それは好きにかけていいから」


 カラーチョコスプレーだけではないが、何が好みというものは誰でもある。甘いものが好きな俺はかけて食べても美味しく思えるが、甘いものが好きな人でもカラーチョコスプレーはちょっと……って人も中にはいるだろうし。


 「うん。ありがとう」


 そんなに上手く作れたのか、完成したチョコバナナを眺めながら驚きのものを見るような目を、一切逸らさずに感謝を伝える。


 「客観的に見ると、今の伊桜は幼気満載だぞ」


 「そう?普段ポンコツな天方くんが器用なことして信じられない目の前の光景を作り出したら、驚かない人は居ないでしょ」


 「俺って普段から伊桜にポンコツって思われるほどのことをしたか?」


 「常日頃からポンコツ」


 「自覚ないし、いつメンにもポンコツって言われたことないんだけどな」


 いつメンは全員秀才だが抜けてる部分がある。花染は元気すぎて空気の読めないとこ、華頂なら天然なとこ、千秋ならお人好しで困ってると言われたら誰にでもついていくとこ、蓮は鈍感で周りの情報に疎いこと。なら俺も1つほど抜けてる部分があってもおかしくないのかもしれない。


 頭が悪いってとこかもしれないが、ポンコツで収まるレベルじゃないだろうし、分からない。


 「いつか分かるよ。自分のどこがポンコツなのかが」


 「俺って待てないんだよな。秘密とか詮索したいタイプだし、焦らされたらもどかしくて夜寝れなくなることもあるからな」


 「私も似たようなタイプだけど、それは知らない。最悪、睡眠不足に悩まされたら、睡眠に効果のある何かをプレゼントしてあげるよ」


 「まじ?それじゃ今睡眠不足だから添い寝をプレゼントしてくれよ」


 出会って1番の冗談を言った気がする。添い寝をプレゼントなんて自分で言っておいて恥ずかしさが込み上げてくるほどだ。しかし言ってしまったのならそれを軸にイジり倒したい。


 どんな反応をするか楽しみだったが、伊桜は「はぁぁ」っとため息を溢すと、チョコバナナを手に取りカラーチョコスプレーをつけ、流れるように俺の口元へ突き出す。


 「これで我慢しろ。私に添い寝なんてハイレベルなことは出来ないから」


 気持ち悪いこと言ってんじゃねぇ、と怒りを載せた優しく包んだ言葉は、鋭利な刃物と変わらなかった。これがくりっと丸い目をした美少女なら小動物の威嚇なんて思えただろうに、真逆だからこそガチ感が出る。


 これはこれで好きだが、踏み込みすぎると変な癖が目覚めそうなので危険領域には一歩手前から観戦するとしよう。


 「……いただきます」


 伊桜からのあーんなんて今日してもらえるとは思ってもいなかった。こういう嫌われることを見越しての冗談も言ってみるものだな。


 チョコの固まってない方のチョコバナナてあったので、ヌメッとしたチョコの食感はあったものの、味は屋台で食べるものと大差ない。いや、伊桜からのあーんを加味すれば屋台なんて優に超える。


 「やっぱり簡単に作れて美味しいっていいな」


 「余計なこと言わなければもっと美味しく感じるのに」


 「それだけで味なんて変わらないだろ」


 「雰囲気的なものから変わるの。分からないと思うけど」


 物理的にでも見下したいのか、俺よりも頭1つほど低いとこから無理にでも俺を下に見ようとする。一生懸命なとこも可愛いが、これを冗談でしてるとこがポイント高い。


 「楽しい雰囲気なんだから美味しい方向にならないか?」


 「楽しいのは天方くんだけ。私はやられっぱなしで楽しくありませーん」


 「そのくせにちょっとニヤッとしてるのがツンデレなんだよなー」


 「それはチョコバナナが美味しいから」


 「食べてないだろ」


 「作る過程が楽しかったから」


 「溶かしただけだろ」


 はじめにニヤッとしたことを肯定してしまったが故に後に引けない状況を自分で作ってしまった。その結果逃げ道を削ることになり、現在目を細めて睨むように俺を見ている。


 何を言いたいのか十分に伝わってくるのが俺たちの関係のデメリットだ。


 「はいはい、俺の見間違いです」


 ここは優しく引いてやる。正直こういうとこがあるから、俺よりも伊桜の方がポンコツなのではないかと思っている。


 「……別にいいけど」


 「拗ねるなよ」


 「子供だもん」


 「開き直られると何も言い返せないな」


 そっぽを向きながらも、チョコバナナへと手を伸ばす伊桜。表情は柔らかいとは言えないが、何故かフワフワとした雰囲気が漂っている。きっと伊桜は内心楽しみなのだろう。


 ならばと、伊桜が手を伸ばす先にあるチョコバナナを俺が手に取る。


 「……何してるの?」


 「あーん返しをしようと思って」


 「私はいらないんだけど」


 「嫌なことされるのも思い出の1つだろ。楽しくないことが思い出にならないかって、そうでもないしな」


 でも楽しくないことの差はもちろんある。イジメの領域や、人が本気で嫌がることをするのは思い出としては残っても最悪なものだ。楽しかったと思い出すためには、お互いがお互いの安全領域を知ることが第1になる。


 結局はその判断は笑えてるか笑えてないかで可能だ。極端な話だが、それは間違いだとも言えない。だから伊桜もいらないと言いながらも、伸ばした手を既に引いている。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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