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第32話 満足




 これが時々見せる伊桜の可愛いとこだ。口では拒否をしていても、体は受け入れてしまうから無意識に思ってない行動を取る。だから恥ずかしさも現れるのだろう。人間関係が大変だろうな。


 チョコバナナを持つと、イジり倒したい欲求がブワッと出るのを感じた。このまま好きなだけ遊ぶのもありだが、近いうちにブチギレるだろうからやりすぎには注意をする。


 伊桜だって人間だ。仲のいい友人だとしても、何度もイジられ続けて耐えられるほどドMでも、特殊性癖を持っているわけでもないので少なからず嫌とは思うときが来る。その前にやめなければならない。


 「私の食べるタイミングでずらさないでよ?」


 「してって言ってるようにしか聞こえないけど」


 「やったら残りのチョコバナナ一気に全部口の中に詰め込む」


 「顔がマジでやるって言ってる……」


 やってみろ。そう言えば一瞬で両手にチョコバナナを持ち、口の中へと突っ込んでくる伊桜の姿が想像出来るほど威圧感がある。


 「分かったから、ほら、あーん」


 素面でやるなら恥ずかしすぎて穴があったら入りたい状態だが、今の俺は謎の高揚感に駆られてそんな気持ちは一切なかった。呆れながらも口を開けてくれる伊桜。ずらして頬にチョコをつけてやろうか葛藤するが、今日は満足なほどに幸せを貰ったので素直に口へ運ぶ。


 気力のないような顔はもぐもぐしても変わらない。不満を募らせるような表情である。


 「ここでもなにか仕掛けてくると思ったのに。やりすぎってビビったのかな?」


 葛藤にギリギリ勝った俺を煽るようにニヤニヤする。でも、どこか不満そうなのは俺の勘違いだろうか。


 「やってほしかったのか?それならまだ残ってるし、やってもいいぞ」


 「言った後なら何でも出来るし、意味ないから無理ー。天方くんってビビリだね」


 「……俺がチョコバナナを口の中に詰め込む側ってのは認められるか?」


 「か弱い女の子にそんなことするなんて最低だから認められません」


 似たような性格だからこそ、考えることや、やり返すことは同じようなことばかり。俺もそれは分かっていても、伊桜を目の前にするとそれが飛んでいってしまう。だからやり返しを余裕で受ける。


 これがポンコツと言われるのなら、それは伊桜へのブーメランでもある。それに気づかない方がよりポンコツだろう。


 とはいえ、未だに俺が棒を持って伊桜はそれを小さな口でパクパクさせ、餌付けしているが現実とは思えないほど可愛い。普段天真爛漫さを隠し、おとなしくしているクールビューティだからこそ、ギャップとしてそう思うのだろうが。


 よくこの整った顔を隠していられるよな。誰かしらにはバレるだろ、普通は。


 「食べ終わってるよ」


 ずっと見続けるのも申し訳ないと思い、どこか違うとこを適当に見ていると、流石は大食いの伊桜、何かを深く考える暇もなく食べ終えていた。もっとパクパクモグモグしてるとこを見たかったのは正直ある。


 「早すぎるわ」


 「私の特技みたいなものだし」


 「学校の弁当もこれくらいなのか?」


 「んー、多分同じだね。1人で食べるからこれが普通だと思うよ」


 「あーなるほどな」


 確実に1人で食べるのと大人数で食べるのには差がある。大人数で会話を挟みながら食事をするのに、1人でその中で黙々と食べる人なんてそもそもグループに呼ばれないだろう。


 1人で食べるとこに全くの寂しさを感じさせないのは慣れではなく、ただ好んでそうしているからだ。伊桜がわざと友達を作らないことも、演じる理由が関わるのだろうが、別に作ろうとしていない。


 それほどに演じる理由が重いものだと知らせると同時に、その空いた、友人への拠り所を俺が見いだせていることに嬉しくは思う。でも、一緒に食べようと言い出せない壁があるのは問題でもある。


 そんな悩みをどうするか考えていると、隣では最後の一口を食べ終えた美少女が満足気にニンマリしているところだった。


 「お腹いっぱいか?」


 「チョコバナナって思ったよりお腹に溜まるよね。満足です」


 「それは良かった。まだ食べたいとか言い出したら今後何か食に関することを思い出として残す時に、大変さがワンランクアップするところだったわ」


 「大丈夫、私は夏より冬の方が食欲減るから、多分今が全盛期」


 「冬の方が食べてるイメージあるけどな」


 「私も人って冬の方が食べるってイメージはあるけどね」


 私は例外だよ、と言いたげな顔は冬でもよく食べるんだと確信させた。大食いと自負する人が、冬は夏より食べないと言っても、それは俺の普通の倍は食べるってことだろう。


 食欲の秋と言われる季節ならば、どれほど食べるのか気になるのは今からだと早いか?


 「よし、食べるのは終わったし、次に移る前に少し休憩するか」


 「もうこれが最後と思ってた」


 「屋台で食べるもの食べるだけでデートしましたとか、もう少し濃い内容にしたくないのかよ」


 食がそれほど好きなのか、それとも満足したのか。特別な愛情を注がれる食に俺もなりたいものだ。


 「でも何するか分からないもん」


 「すぐ分かるから教えなくても良いだろ。だから伊桜専用のクッションにでも抱きついてな」


 「私専用なんだ、あれって」


 「新品だったし、伊桜帰ってから俺が抱きしめてたら想像するだけで気持ち悪いだろ」


 最初から伊桜専用で購入したので俺のは別に置いてある。流石に変態でもその域はどこまでかを自分で決めている。美少女の抱きしめたクッションを俺がニコニコして使うなんて……なしだな。

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