第27話 いただきます
性格は人それぞれで好みが分かれるだろうが、俺と相性のいい伊桜は俺からしたらとても可愛いと思う。ツンデレというやつだが、ただのツンデレではなく、俺にだけツンデレというのが最高に高揚感を得られる。
それを知ってるだろうけど、敢えて可愛くないと言うのは伊桜らしい。思わずニヤけてしまうな。
そして、水分を十分に飛ばし、焼きそばという料理を鉄板の上で完成させた俺は、なるべく焦げが付きすぎないように素早く用意していた紙皿に盛る。ここまでの手順はスムーズであり、緊張もなく、伊桜とはまるで二人で一人のように居心地が良かった。
作り出す前によく食べると言っていたので、少し多めに盛っておく。青のりと紅生姜をパラパラと上から加えてやることで、少しは屋台で出されるような焼きそばに見えるだろう。
「はい、完成」
山盛りにされた焼きそばは、女子が食べ切れる量を遥かに超えるもので、若干、ホントに食べれるのかと疑問を抱きながら、いじわるついでに盛った。
「わぁ、美味しそう!」
「……そんなにお腹空いてたのか」
まるで子供の頃、欲しい玩具を親に買ってもらった時の俺を彷彿とさせる伊桜は、幼気さを感じさせる。これでクールビューティーなのだからギャップに心を打たれそうだ。
「この時間、家ではとっくにご飯は食べ終わってるから普通だよ」
プイッと頬を膨らませてそっぽを向く伊桜の先にある時計は、19時半をもう少しで回ることを知らせる。俺も19時前に晩御飯は済ませるが、それでもこれほど待ちくたびれたと言わんばかりに、今にもよだれを垂らしそうにはならない。
「すぐ拗ねるなよ。お腹空いたことをバレるのがそんなに嫌なのか?」
「嫌に決まってる。恥ずかしいとこ見せたら天方くんにバカにされるじゃん」
「それはそうだが、賢い割にドジで少しアホな伊桜にも原因はあるんだからな」
「ない。全部イジってくる天方くんが悪い」
「女王様かよ」
1人用の椅子に深々と腰掛ける伊桜の隣に、俺も椅子を持って行き、すぐ隣に座る。ソファ並みに大きければ、肩を寄せ合って、なんてこともあっただろうが、そんな展開は望まない俺はこれだけで十分だった。
「近いんだけど」
「逆に2人だけの空間で離れて食べたら違和感あるだろ。どれだけ俺が嫌いでも隣にいるのは仕方ないって」
近づいたとはいえ、まだ1mは離れている。この距離でも否定されるなら今後近づく際にこのことがフラッシュバックしそうだ。
「嫌いではないけどね」
「じゃ」
「好きでもない」
「おいおい、思わせぶりは良くないって花染が言ってたぞ」
「勝手に思わせぶられてると勘違いするのも良くないって伊桜は言いたいぞ」
「ははっ、何だよそれ」
俺の口調を真似て話すその姿は、笑顔ではないのに不思議と惹かれて話の中へと飲み込まれるようだ。気分を悪くすることもなく、ただただ落ち着いたフワフワとした空間で談笑している。俺に自然と笑顔が作られるのは無理もない。
「はい、それじゃ温かいうちに食べまーす」
「そうだな」
一段落つくと、空腹に耐えられるのも限界が来たようで、音がなる前になにか入れないといけないと言っているように合掌する。
「いただきます!」
「いただきます」
元気すぎる、今日1番の元気だな。ニコッとしてから割り箸を割る。均等に割れたのを目にしたのは初めてかもしれない。ここでも秀才ぶりを発揮されると、伊桜の欠点が無いと思える。
俺も左に3分の2ほど持っていかれ、ブサイクな割り箸を手に焼きそばの山へ持って行く。紙皿を持てば真ん中に重さが偏って凹んで来るので、ほんの少し掌が熱かったり。でも耐えれる程度なので溢したりしない。
ズルズルっと何も気にせず音を立てながら麺を啜る。すると香るウスターソースに絡められた麺の濃すぎず薄すぎず、完璧とも言える匂い。俺も空腹だったからか、鼻腔がいつもの3倍は喜ぶように幸福感を脳に伝える。
「美味!」
同じタイミングで啜った伊桜も同じだったのだろう。味蕾が味を捉えるとすぐ声に出してありきたりで嬉しい感想を簡素に伝えてくれた。
「流石は一人暮らしだね。美味しいよ」
「ただある素材を混ぜただけだけどな」
「それでも私よりかは全然上手に作れてるし、1人で出来るのはすごいよ」
「……そうか?それなら良かったと思えるな」
偽りなく正直に感想を述べてくれる、いや、褒めてくれる。そんなことが今までなく、喧嘩に近いような言い合いしかしてない関係で、いきなりそんなことされると照れてしまう。食事に夢中の伊桜は照れる俺に気づかない。これが恥ずかしいからバレたくないって気持ちなのかもな。
満面の笑みで食べ進める。俺よりも全然食べるスピードが違う。飲み物のように無くなるその速さ、焼きそばとかラーメンっていった麺類は飲み物だよ、と言い出しそうだ。
あっ、飲み物。
「お茶を取ってくる」
「ん。んんんん」
ちょうどもぐもぐしていたので返事はそれだけ。「うん。ありがと」というのは感覚で伝わった。口の中いっぱいに詰め込まれた焼きそばも、これほど美味しそうに食べてくれたら本望だろうな。
「顔にソースがついてるからこれで取れよ」
「ん」
唇の周りにポツポツと斑点のようにソースが散っていた。気になるタイプなので、ティッシュを取って拭いてもらう。そして俺はそのまま家の中へ戻り、お茶を取ってきた。
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