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第25話 質問




 情緒不安定とも見て取れる伊桜は、銅像から180度変化し、いつもよりも倍元気で見たことのないほど騒がしい陽キャとなってソファを動き出す。黒髪が頭の回転についていけず、サラサラと靡くと、ほぼ正面で30cmほどしか離れていない俺のとこまで当たりそうになる。


 今から勝負をしに行くかのような面構えは、今恥ずかしいところを見せてしまった悔しさから負けず嫌いが発動し、勝手にどちらが多く食べれるかの勝負をするつもりなのだろう。


 何度も言うが俺は勝負をする気はない。大食いに自信を持つひとに勝てるとは思えないしな。


 庭に出る際、安物のどこにでも売ってあるようなサンダルに履き替える。伊桜はお嬢様でもなければ、高級品しか身に着けないプライド高い性格でもないのでそこは気にしてない。


 ガラッと扉を開けて庭へ来たが、やはり暑さはムンムンとした熱気となり全身を襲うな。昼から夕方にかけてより全然ましだが、夜とはいえ、完全に夕方の熱が抜けてるわけでもない。


 どちらかと言えば俺はこのムンムンとした空気感が嫌いなのでクーラーの効いた部屋が恋しくなる。


 「やっぱり暑いねー」


 麦わら帽子をパタパタさせながら、微風を顔に送る。学校では暑さ凌ぎに女子が手でよく風を送るのを見るが、あれは意味があるのか分からない。確かに心許ない風は来るかもしれないが、手の稼働率と見合ってないのでメリットとしては無いに等しい気もする。


 まぁ、今目の前にいる美少女が可愛ければ学校の女子についてはどうでもいいが。


 「夏は苦手か?」


 「んー、苦手かな。冬の方が好きだし、日差しを体に受けるのは嫌いだもん。でも、暖かいより涼しい方が好きだからそれで言えば夏も好きかな」


 バーベキューコンロから少し離したとこにある小さな一人用の椅子に座りながら、本当に俺にすべてを任せる気でいるように俺を見守っている。


 可愛いから許されるやつだな。


 「ギリギリ冬の勝ちってことか」


 「そういうこと。天方くんは?」


 「俺は夏だな。冬はしもやけになるし、厚着しても寒いし、朝起きれないし……色々不満が募るから絶対に夏が勝ちだな」


 「寒がり?」


 「多分寒がりだと思う」


 会話をしながら炭に熱を加える。実はこう見えてシングルタスクな男なので、会話のキャッチボールが出来てるか自分でも怪しいほど意識を割くのに手こずっている。マルチタスクの人は本当に尊敬ものだ。


 トングを持ったら絶対にやるカチカチを無駄にしてしまう。落ち着きはある方でも、何故かハンドルを持つと人が変わるではないが、トングを持つとやりたくなる。


 俺は伊桜とは少し離れた、バーベキューコンロのすぐ近く、炭の具合を確認出来るほどのとこに椅子を置いて座った。パチパチと火花を散らすように弾けるのは見ていて焚き火感あるが、暑くて熱くて柵に囲まれたここでは誰にも見られないので伊桜がいないなら全裸になりたかった。


 「ねぇ、天方くん」


 「なんだ?」


 優しく女の子らしい可愛らしさを包んだ声に違和感を覚えながらも、背を向けている伊桜の方を振り返る。そんな短時間で、何を言われるのか気になるのはいつも通りだ。


 「好きな食べ物ってなに?」


 「好きな食べ物?」


 膝の上に肘を付き、掌の上に顎を載せて前かがみになりながら、一歩間違えると睨まれてると捉えれるほど鋭い眼を向けている。真面目に聞いてるようで、これはマジで惹かれる。


 「何故に好きな食べ物を聞くんだよ」


 今時の合コンや初対面で何を話せばいいか困ったときにすら出るのが珍しい質問だ。それをどストレートに聞いてくるので理由を知りたくなるには十分だった。


 「いやー、私って天方くんのこと知らないと思ってさ」


 今度は背もたれに背中と呼ばれる部分を全てつけ、足を伸ばしゆっくり揺れる。陰キャとは程遠い伊桜がそこにはいた。今の容姿も性格も陰キャの要素は何もないけどな。


 「天方くんは私に何でも聞いてくるけど、私は自分からだと何も聞かないし、天方くんから何か言うこともないからほとんど知らないんだよね。友達としてなら最低限のことは知っていたいから教えてほしいなって」


 「珍しいこと言うな。そんな雰囲気でもないし、ツンツンもしてないし」


 「いぇい」


 ピースを向けてくる表情や態度に恥じらいはない様子。これは何かの予兆かな?


 でも伊桜から友達として知りたいと聞けたのはとても嬉しいことだ。少しでも興味を持ってくれているなら、それだけで関わりやすくなるしな。


 「好きな食べ物ね……オムライスだな。甘いものは何でも好きだ。特にスイーツは結構食べれるタイプ」


 「なるほどね。天方くんこそ、珍しくボケないで真面目に答えるじゃん」


 「伊桜の手料理は本気で食べたいって言ってもボケに入るか?」


 言おうか迷ったが、ボケてしまってはいけない気がして言わなかった。


 「入ります。食べさせる気もないし、料理得意でもないから無理」


 「そうだろうとは思ってた。でもこういうのってしれっと練習して不意に弁当作って渡すとかいうのがツンデレのテンプレだよな。いつでも待ってるぞ」


 「永遠と待つことになるよ。テンプレの上を歩く私じゃないし」


 「なんだかんだ優しいから待ち続けたら作ってくれるだろ」


 「さぁ、未来の私と天方くんの関係による」


 とは言いつつもどこか嬉しそうな伊桜。ニコッと口角が上がったように見えるのは錯覚でも、陽炎によるものでもない。

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