第24話 返事はどこから
「1つ気になったんだが、なんで結ばないんだ?」
やはり謎には解決を求めるのが人としての普通だ。秘密を知りたくなるのも、禁止されてることをやりたくなるのも、カリギュラ効果と言われるように心理的なものであり基本正常だ。
俺の問いかけに聞かれることを予測していたように即答える。
「私不器用だから結ぶのに時間かかるの。それに今やっても面倒なだけだし、困らないから良いかなって」
「そこでもめんどくさがりが出るのか。絶対に一人暮らし出来ないタイプだな」
「……一人暮らしの人に言われると説得力ある」
「言い返せないってつらいよな」
「ふんっ、別に」
ぷくっと頬を膨らませてもおかしくないほど拗ねたように悔しがる。まったく、なにしても可愛いのは罪だって何度思えば良いのだろうか。
もうこれだけで十分なほどに幸せなのだが、それは幸せなだけだ。俺らの目的は思い出を作ること。それも楽しくて良かったと思える思い出を。
そしてそれは今から作るのだ。レッツラゴージャスサマーフェスティバル。
「そろそろ始めるか?もう外は暗いし、俺はツンデレ伊桜を堪能したから元気いっぱいでいつでも行けるけど」
「私もそんなに来たときから疲れてなかったからいつでも行けるよ。あと、ツンは百歩譲ってあってもデレは無いから」
「自覚なしの天然モノのデレってことか。それは今後何度見ても最高だろうなー」
「これに疲れさせられるんだけど。今すぐぶっ倒れてあげようか?」
「任せろ。全身全霊で介抱する」
「ああー!もう!一発いい?!!」
ついに限界達した伊桜怜は爆発してしまった。全く怒りを感じない冗談のブチギレなのだが、これが目つきが鋭くなってよりイケメン度が増したクールビューティーの最上位の存在であるために、俺には得でしかなかった。
「おいおい、自分でイジメは良くないって言っただろ?」
「いや知らない。これイジメじゃないから」
「ほらな?理不尽って最高だろ?」
少し前、俺が理不尽を言うとウザったいと言っていたが、やはり都合よく使ってしまうものなのだ。全てに置いて冗談の上に成り立つことだが、それでも少しはムカついただろう伊桜には、煽られているように捉えるだろう。
その通り、微睡みのない透き通った薄っすら碧の目は俺に向かって刺すように睨んでいた。ドMなら至福の時間であるが、あいにく俺はかけ離れた存在なので楽しく笑顔で返す。
にしても、1度目を合わせると吸い込まれるように離せなくなる。照れはしないが、興味を持つ身としては若干の心の揺らぎはある。
「はぁぁ、もう疲れに疲れたから全部の作業任せる」
「ああ。元々そのつもりだ」
「……カッコつけようとしちゃって……」
「美少女が目の前にいるのにカッコつけない男が居るかよ。それに興味津々なんだぞ?それはもう何が何でも張り切るさ」
「はいはい、そうですか。もう今日は反応これだけにするよ」
「はいはい、そうですかー」
「……何も喋らない方がいいかな」
執拗なほどのめんどくさい返しを続けると人はどうなるか、結論、ムカつきすぎて言葉も感情も失う。
瞬きもせずに銅像のようにソファに寝転ぶ伊桜。微塵も動かず、俺が何かを話しかけても受け答えしてくれないのは絶対だと伝わってきた。
魂がこの世界にあるのかも怪しい。これが壊れた人間の最終地点かもしれない。
「先に庭に出てるから、俺が痺れを切らして熱々の焼きそばを顔に垂らしに来ない間に出てこいよー」
そろそろ動き出さないと伊桜とラブラブお泊りが始まるので、それを避けるために重たい体を無理にでも動かす。こんなに重いのは絶対に俺の本能が働いているからだと把握するには、シワのない脳みそでも余裕らしい。
そんなこんなで庭へ向かうため、テレビと伊桜の間を通りながらそう言うと、グゥゥと気持ちのいいお腹空いたの合図がされる。俺ではないなら1人しかいないだろう?
「……あれ、伊桜さん?」
パッと伊桜を見ると、そこにはついさっきまでテレビを体ごと向けて見ていたのに、真反対に体を向けてこちらに背中を向ける姿があった。
速すぎるだろ。
「今お腹鳴りました?」
「…………」
「焼きそば食べます?」
グゥゥ。
「あの、お腹は正直なんですけど。高校生なんだし、そんな拗ねた態度とらなくてもいいじゃないですか」
「……うるせぇ」
「わぁお、口悪くなってますよ。俺何も悪くないのに」
どんどんと一歩ずつ歩み寄る。そのたびに焼きそばと発すると、共鳴するかのようにお腹が鳴る。それを堪らえようと体をギュッと丸めるが、音が収まるわけもなく、恥ずかしさはとっくに最上階へ到達している。
すぐそこまでくると、頬が赤く染まるのがよく見える。
「伊桜さん、元気――」
「ああ!ウザい!天方くんがウザいせいでお腹空いたじゃん!!」
「……いきなり振り向いて大声出すなよ。びっくりするわ」
「知らん!自業自得!もう最悪すぎてこの家の食べ物全部食べてやる!」
どこかネジが飛んだか、吹っ切れた伊桜は確かな覚悟とともに握りこぶしを作ってやる気十分だった。恥ずかしさを乗り切るコツは勢いだと、はじめて学んだ。
「それは困るし、そんな食べれるのかよ」
「私、意外と食べるよ」
「そうなのか。ならそれを見るのが楽しみだな」
「良かったね、どっちが多く食べれるかとかの勝負じゃなくて」
「俺はどちらかと言えば少食だから、そもそも勝負しないんだよ」
「勝った」
ボソッと1人で何を勝負してたか、すでに何も話さないと決めたことを忘れた伊桜は、俺を遥かに超える元気でソファに正しく座っていた。
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