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第23話 大収穫




 そんなアホ伊桜は結局、ソファを端から端まで独り占めしてダラッとしている。俺も全然男子で、興味を持っていると伝えているのに堂々と寛ぐところ、俺を男と認識してないようだ。


 襲う気も、監禁する気もないのでそれほどの距離に詰め寄れたかなと思えば全然高揚感は味わえる。


 「静かなのが嫌いならテレビでもつけて垂れ流しにしていいぞ。俺も静かなのはそこまで得意ではないし、なんならいつもそうしてるタイプだからな」


 「それなら天方くんがつけてよ。私がつけたら後々文句言われそうだし、リモコンは私より近いでしょ?」


 圧倒的に寝転ぶ伊桜に近い。俺の5倍は近い。俺はリビングの椅子に座っていて、伊桜の寝るソファの前のテーブルに置かれたリモコンからは離れている。これで近いと言われるなら病院へ連れて行くレベルに心配だ。


 「伊桜ってめんどくさがりなんだな。怠惰すぎて、好きな人をイジりたくなる気持ちになるわ。とりあえず()()いい?」


 「それイジるじゃなくてイジメだよ」


 離れた俺にメガネ越しに視線を向けてくる。スマホに集中してるわけでもなく、ただ俺との会話を適当に繋いでいるようだ。


 「やられたくないなら自分で手を伸ばして取るんだな」


 「優男じゃないなー」


 「優男で売ってないし、そもそも伊桜の世話をするためにここに居るんじゃないからな」


 普通に俺の家だから居る。それをなしにすれば、伊桜との思い出を作りたいから居る。


 それからやり取りに満足したようで、手を伸ばしてすぐに取れる距離にあるリモコンを持つとテレビに向けてポチッと優しくボタンを押す。伊桜がどんな番組を見るのか興味はある。


 ランダムにポチッと押し続ける。お目当ての番組を探しているのか、気になった番組で止めるのか、どちらにせよ寝転がりながらリモコンを触る姿は可愛い。横顔はほとんど髪で見えないが、目は薄っすら見え、キリッとしたクールビューティーらしさはキャップがある。


 「普段どんなの見るんだ?」


 中々止まらないので聞いてみる。


 「私はいつもスマホで動画を見るからテレビは見ないかな。それに本読むのが多いし」


 「現代っ子ってやつだな」


 俺と同じだ。垂れ流しにするだけであり、この椅子に座って時間を潰すのがいつものルーティンである。たまにテレビで映画を見たりするが。


 「だねー、だから好きなものないし、だからといって意味不明なのを流し続けるのは嫌でしょ?難しいんだよ、選択する側も」


 「あと5回切り替えたやつにして放置すれば?」


 「そうしますか」


 いい提案だとは思う。優柔不断ではないが、そういった長引くことはあまり好きではない。時間を有効活用するに越したことはないだろう。


 そして5回目で決められた番組。最近流行りのクイズ番組である。それを見てこれでいいかと目で確認を取る伊桜。どんな行動をしても可愛く見えるのがズルいな。


 「俺はアリだと思うぞ」


 「オッケー、ならこれで」


 やっとリモコンをテーブルのギリギリ端っこにスッと優しく置く。少し騒がしく、でも2人の空間にしては物足りない気のする部屋の完成だ。でも居心地の良さが変わらないのは何故だろうか。


 そんな中で、ふと思うことがある。


 「伊桜」


 「ん?何?」


 声だけ向けられる。スマホに負ける俺は友達として正解なのかもしれない。


 「ここなら誰も見ないし、メガネはずして前髪上げて、本当の姿って言ったら変だけど、演じない伊桜を出したらだめなのか?」


 俺が興味を持つ根本的な理由である演じない伊桜。何故演じるのかという理由に対しても興味は十分に持っているが、それよりも整った顔を見たいという、年相応の男子高校生らしいことに惹かれるのだ。


 「んー、別にいいけど写真撮ったりしないでね?しない人だって知ってるけど、言っておかないと誰にも見せないからとか言って撮りそうだし」


 「えっ、いいのか?」


 ほとんど、無理と言われて諦めるつもりでいたので、思わぬ承諾に驚きを隠せない。


 「天方くんが聞いてきてその反応は変でしょ。どうせ見せても見せなくても対応は変わらないし、減るものでもないからいいよ」


 呆れもせず、嫌がりもせず、本音で言っている。俺が何かしらの隠す原因ではないと知っていても、嫌な感情を持たずに見せてもいいと思われる関係を結んでいることが嬉しい。


 「ありがとうな」


 「……珍しく気持ちこもってるじゃん。色々狂うからやめてよ」


 「それほど見たくて嬉しいってことだ。照れるなよ」


 「照れてない」


 今度は呆れた様子。照れてはいるだろうが、それは俺が珍しいことをしたから。いつもなら呆れてすぐに言葉の棘をぶっ刺しにくるので、今日は特別な日なのかもしれない。


 黙ってメガネをはずして前髪を上げると、丁寧にそれをセンター分けにする。するとあらま、見違えるほどのクールビューティーの神がそこに顕現してるではありませんか。


 額の傷も顕になり、でも決して容姿の良さをを損なう要素ではなく、これもまた伊桜怜の本当を飾る一部なのだと改めて感じる。


 「マジでその姿が世界で1番好きだわ」


 「そりゃどーも。容姿だけは恵まれたからね」


 「俺からしたら容姿ほど性格も恵まれてると思うぞ。俺限定かもしれないけどな」


 「それは本当に天方くん限定だね」


 髪を後ろで結ぼうとヘアゴムを取り出すが、何を思ったかそれをやめる。結ぼうとした瞬間の横顔が焼き付いてしまったのは大収穫だ。

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