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第22話 冗談の殴り合い




 「日焼け凄いね」


 リビングへの扉に手を掛けた時に、俺の横顔と露出した肌を目で捉えて伊桜は、こんな間近で日焼けした人を見たのは久しぶり、と言わんばかりに凝視していた。


 「これぐらい1日2日で完成だぞ。ちょうど曇りもなくて、日焼けするにはもってこいの天気だったしな」


 思い返すとどちらも今日ほどの快晴であり、暑さなんて猛暑日の一歩手前の34℃だった。日焼け止めを塗らない俺は、日焼け止め塗る花染たちに何度も塗られかけたな。


 「これがキャンプの成果か……ヒリヒリしないの?」


 リビングに着いてもそれは変わらない。自分とはほぼ反対の皮膚の色に、興味を持っているようにも見える。来年は泳ぎに行くことも考えてるとか言ってたし、その時は染めてあげたい。


 「1週間もすればヒリヒリは消えるし、元々ヒリヒリしにくい体質だからあんまりしない」


 「へぇー、1ヶ月ぐらいずっとヒリヒリしてれば良かったのに」


 「チクチクしてるなー。SNS上では俺のこと好き好きオーラ出てるのに、対面したら棘を刺すもんな。ネットツンデレかよ」


 「造語のセンスが皆無。まだ日焼けする前の天方くんの方が良かったよ」


 「関われば関わるほど嫌いになる特異タイプかよ。変人め」


 「変人に関わろうとする変人が何言ってるのやら」


 いつにも増してよく喋る伊桜。今までなら冗談に乗っかってもすぐに会話を途切れさせていたものを、今日は久しぶりに気分が上がっているのだろうか。


 若干口角が上がっているようにも見える。いつもの伊桜の顔は何度も横から見たのである程度は覚えている。ストーカー並みの変態さは犯罪者予備軍だな。


 「デレのないツンさんは好きなとこに座ってくれ。この家は俺1人しか住んでないから、好きなように使って暴れても良いからな。気を使えば使うほど俺からのいじわるが飛んでくるから、ドMじゃないなら気は使わないでくれ」


 「……でもそう言っても、人の家ですんなり実行出来ると思う?」


 と言いながら既にソファを端から端まで埋め尽くし、横になっている伊桜。ボケも出来るのは完璧すぎる。


 「実行出来ない人を誘った覚えはない。ちなみに、それ俺がついさっきまで寝転んで、クーラーつけてなかったから汗ダラダラ垂れてるソファだぞ」


 「はぁ?!ホントに?!」


 見たことない速さでソファからバッ!と立ち上がる。その顔は驚き過ぎて目と口はガン開きで、ワンピースも、あまりの速さに置いて行かれたと錯覚するほどだった。


 誰でもそうだが、伊桜特に清潔感には気をつけているのだと分かりやすい反応だった。逆にここで嫌がらなかったら少し引いてたな。


 「嘘に決まってるだろ」


 「……いや、真顔で言われても……」


 キッチンからお茶を注ぎながら目を合わせる。目は悪くないのにメガネを掛けると逆に目が悪くなるらしいので、出来るなら伊達メガネにした方が良いだろうに。


 でもその姿も可愛らしくて、メガネがズレても直す暇もないほど、てんやわんやの頭の中だ。メガネズレ、これ好きかもしれない。


 「無駄な体力使わせないでよ」


 「勝手に使ったのは伊桜だろ。俺はいじわるを言っただけだしな」


 「はぁぁ、屁理屈も最高にウザったい」


 再びソファに座るが、今度は寝転がることはない。少し抵抗感が出たのだろう。これは見ていて面白い。そんな伊桜にお茶を運ぶ。


 「はい、最高にウザったいお茶をどうぞ」


 「ありがと。これって汗入ってますか?」


 「何言ってんの?お茶だろお茶。汗なわけあるかよ」


 「……私、天方くんのこと嫌いだ」


 ボケに真面目な顔してツッコむ。もちろんわざとだが、ほんの少し恥ずかしさ故に頬を赤らめる伊桜は、出会って5分ほどの俺を幸せに包んでくれる。


 「人の好き嫌いをその人の前で言うなよ。傷つくだろ」


 「なら毎日のように目の前で言うけど?」


 「毎日のように目の前で言いたいほど好きってことか?やっぱりツンデレかよ!」


 「……バケモノかよ……なんでそんな次々にポジティブ思考で捉えるか分からない。そっちの道の天才?」


 「かもなー」


 「バカでしょ……間違った道の才能極めてどうする……」


 ゴクッと躊躇いなくお茶を一気に飲み干す。ここで汗入って言ったら吐き出しただろうか。


 これは完全に呆れ果てた様子。積み重なったものが爆発したようだ。まぁ、よくここまで俺のこのイカレたいじり方に耐えてきたものだ。


 「少しゆっくりしたら色々始めるか」


 「その時間が地獄なんだよね。天方くんとの会話時間が1番疲れる」


 「じゃ、何も話さないぞ。無の時間を1人で楽しめー」


 「それも嫌だから、適当に独り言でも話しててよ。私に無害そうな話しをしてたら、タイミング合わせて入るから」


 「他力本願かよ。自分で話題探して独り言呟け」


 「無理ー」


 お互いがお互いに無敵である。基本伊桜のことは拒否らない俺は言われたことを簡単に実行するし、伊桜はそれを知るから、好きなことを話したり実行したりする。


 だから自分の思っていることを素直に包み隠さず伝えてくれる。冗談も本当のことも交えてしまうのがデメリットだが、どっちがどっちなのか、雰囲気で分かるぐらいには親しい仲なので問題はない。


 そんな会話をすることが、伊桜の言う1番疲れる時間なのに、それに気づかず俺の問いかけに反応するあたり天然も少し入っていてアホらしい。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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