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第21話 いらっしゃい




 クーラーに涼み続けると、それを幸せと思ってしまうのか、幸福感故に時間の経過を早く感じる。リビングのソファに座ってスマホをイジったり、テレビ番組に目を向ければいつの間にか18時半を超え、伊桜が家に来るまでもうすぐといった時間だった。


 それに気づいた俺は家の中の最終確認をする。一人暮らしだが、整理整頓には常に気をつけているので、慌てて片付けるなんてことはしないで済む。なのでこれからするのは見逃してる部分がないかの確認だけ。


 クーラーガンガンの部屋なので、ソファからは簡単に背中を剥がすことは出来る。立つと周りを確認する。変わったとこは陽光の入る角度ぐらい。その他は位置も何も変わらない。


 黄金色の夕日が30分もせずに沈むだろう時間帯。今日は雲1つない快晴であるため、夜の外は幾分かジメジメした空気は消え去るだろう。


 少しでも気持ち悪い要素が減るのは助かるな。


 部屋内の確認を終えた俺は庭を向いて、今度は外で腰を降ろす。いつ来ても分かるように、室内との間にある扉は8割ほど開けている。冷気が逃げるなんて、そんなことはどうでもよくて、ただ気分的に背中に当たる冷気を涼しく感じるために、正面から温風を受けていたかった。


 両腕を胴体の後ろについて、顔は空を仰ぐように操作する。夏らしい生温い雰囲気と、19時前なのにまだ明かりを残そうと意地を張るような太陽が相まって、やはり夏が好きなのだと十分に実感する。


 「地球さん。今日だけは贅沢させてください」


 クーラーをガンガンに効かせて、それを無駄にするかのように扉を開ける。地球温暖化促進派のようで、省エネなんて微塵も考えてないような愚行である。が、今日だけは、今日だけは目を瞑ってほしい。日頃いい子ちゃんにしてるので。


 なんてお願いを誰にするのやら。どちらと言わずとも俺の方が目を瞑って、現在進行系で気持ち良くなっている。冷気と温風がいい塩梅だとこれほど心地良いとは、知りたくなかったものだ。


 そしてそんな心地よさにどっぷり浸っていると、その時はやってくる。家についた独特なインターホンが1度鳴らされる。すると俺はすぐにその場から動き出し、駆け足で玄関へ向かう。


 別に特別なことを思って向かうことはないが、待ちに待っただけあり、ワクワク感や、気持ち悪いと言われるようなほどのニコッとした笑みは浮かべている。俺の内面はまだまだ子供らしい。


 多分外に居るだろう伊桜にも聞こえるようにドタドタしている。ダッシュしてるわけではないのに、耳に響く、今までにない一歩一歩ドンドンとした音は今後聞くことは無さそうだ。


 好奇心によって玄関の扉が素早く押される。ガチャッと音と共に開かれると、その先には、陽光が左頬に照りつけるため、左目と頬を隠すように片手で陽光を凌いでいる伊桜怜がいた。


 赤、それも薔薇色のように色味に柔らかさのあるワンピースを見事に着こなしている。細かなとこはしっかりと手入れしていたり、着飾るようでちゃっかりネイルもメイクもしている。メガネと前髪は何も変わらないのは、やはり顔が良いと思われたくないからなのだろう。


 「どーも」


 この暑さの中、汗1つもかかず、何処へも出かけてないのがよく分かるほど透き通った白い肌。麦わら帽子を被っても俺の中の伊桜のイメージに変化はない。そんな可愛らしい伊桜はクールに簡単な挨拶をする。


 「どーも、久しぶりだな。見ないうちに少し可愛さ増したか?」


 「私に可愛いくなるための向上心はないよ。だからそれは天方くんの妄想の私。今の私の見た目を可愛いと言う人は天方くんだけだよ」


 「いやいや、本当の伊桜を知らないからこそ、皆今の伊桜を可愛いと思うんだぞ?普段学校で大人しくて誰とも関わらないから、伊桜の可愛さに気づかないだけで」


 「はいはい。私は何が何でも可愛いなんて興味ないの」


 「開幕から素っ気ないな」


 夏休みに入って初めて会うが、夏休み前と同じ雰囲気で話せるのはとても嬉しい。SNSでやり取りを繰り返しても、それは生存確認程度のことであり、こうやって面と向かって話すよりも断然簡単だ。なので正直そこまで好きではない人とも会話するので、連絡の真意は定かではない。


 でもこうして話すと気持ちがモロに伝わるので、嫌われてないんだと実感しながら、楽しく会話することが出来る。


 やっぱり直接だな。


 「とりあえず、暑いのは嫌だろうし入ってくれ」


 「うん。ありがとう」


 初めて女の子を家に入れるが、緊張の欠片もない。確かに女の子で、なんならめちゃくちゃタイプの美少女なのに、不思議と幼馴染である蓮と話してる時よりも楽な気分だ。


 いつメンの前でも好き勝手やらせてもらってるが、俺自身、グイグイ行けるからか、伊桜と関わるということに全くの無抵抗なのだ。


 そんな伊桜とリビングへの廊下を歩く。隣に並べるほど広いので、自然な形で伊桜は俺の隣にいる。お互い無意識で隣に並んでいるだろう。おそらく緊張しないのもお互い同じらしい。


 勝手な解釈だが、それでも俺はホワホワと心地よさを温かく胸の底に感じる。俺の口ほどの高さである身長が、俺のいたずらしたい欲をかきたてる。このリビングまでのたったの10秒が、こんなにも意識へ刺激を与えるなんて思ってもいなかった。

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