第20話 デート準備
夏ってばなんでこんなにも暑いものか。汗なんて出ない日はないし、外に出ればクーラーのある部屋に戻りたい気持ちに駆られてしまう。冬のこたつほどではないが、これもまた瞬間接着剤並に取り除くのが難しい。
現在時刻16時を過ぎた頃。日は落ちかけてるだけで、完全にさよならするにはあと3時間は必要なほど。まだ暑さは残り、夜にもムンムンとした空気感は俺らを襲うだろう。
梅雨並みの気持ち悪さだろう。
俺は先週にいつメンとのキャンプから帰って来て、ゆっくりとした時間を毎日のように過ごし、怠惰の限りを尽くしていた。が、それも今日で一旦ストップになる。理由は今の作業に関係大ありのことだ。
今日は待ちに待った伊桜との夏休みデートの日である。デートなんて聞こえが良いが、別に好きになるためとか告白するために用意した時間ではない。単にお互いの思い出作りのために用意した楽しむための時間である。
下心は満載も満載。しかしそんなことはどうでもいいし、表にも出さない。ただ伊桜の笑う顔を見れれば俺の気持ちは満たされる。今日の目標は決まっているのだ。
集合時間は19時あたりからならいつでもいいと言ってある。お泊りする予定はない。家の場所もしっかりと教えてあるので、相当な方向音痴でなければ迷わず来れる。
伊桜も親には許可をとっているようなので、全くもって問題はない。これで後は楽しむだけの時間となる。我ながら用意周到に立ち回っているのは素晴らしいことだと自画自賛する。
珍しいんだぞ?俺がこうやって準備するの。
ちなみにいつメンとのキャンプでは基本作業はしていない。役立たずであるが故に、ほとんどを蓮と千秋に任せた。不甲斐ないが、得手不得手を持つ人間だからこそ許してもらいたい。
庭は中々広い。一軒家なのでそれなりに自由が出来るし、近所とも仲は良好過ぎるので多少の我儘も許される。隣の家に幼馴染の美少女がいるなんてことはなく、幼馴染は蓮だけで蓮も近所とは言えないとこに家があるので寂しく一人暮らしだ。
汗をかきながらも手足は動かす。ミンミンと蝉がうるさい。近くの木を伐採したいとこれほど思うことはない。特に一斉に鳴きだしたら、それはもうドカンと。
軒下にぶら下げた、薄い青を含んだ白縹を輝かせる夏の風物詩の風鈴が唯一の味方だ。音を聞くだけで感覚では少し涼んだように感じる。対抗するように鳴く蝉はマジで暑さと相まってムカッとするが。
それでも滞りなく簡単な準備を早々に終わらせる。予定としてはすることなんてそんなに無いが、楽しむことに全力で挑むには準備から万全にしなければ。何事も全力だ。
夏の風物詩といえば団扇や風鈴などの物系を除けば、ほとんどが外で行われることを浮かべる。お祭りや海水浴など、家族や友人、恋人と行くにはどれも違和感のないこと。でもそれ以外にも楽しみ方ってのは存在する。
それが上手くハマれば今日は大成功となるだろうし、失敗してもそれはそれでいい思い出だ。来年もあるのなら少しは気負わなくて済む。
そんなことを考えながら、そこまで焦ることなく、準備を終えた。時計は16時半を知らせており、効率の悪いことしかしない俺には、思ったよりも早く終わったことに成長を感じる事が出来て嬉しかったりする。
まだ伊桜が来るまで時間はたっぷりだ。流石に浴衣は目立つので着てこないだろうし、美少女の姿でもやってくるわけもない。近くでタイミング良く祭りが行われていればチャンスはあったが。
その場合は歩いて来るらしい伊桜には避けたいことだろうし、このタイミングが完璧だったと思うのが良きだ。
「はぁぁ、それにしても、友達としてなら好きになってもいい、か」
クーラーの効いたリビングで堂々と全身を冷気にぶつけている。汗が冷たく感じるほど直だ。
先週の伊桜とのやり取りに引っかかることがあった。それを思い出して、いや、焼き付いて離れないことを不思議に思う。
それからも暇な時は適当にどうでもいいことを送っては、めんどくさがられているが、変わったことは何もない様子。辛辣なのも、返信が遅くなるのも。これが女子に嫌われる男子の追いメッセージというやつかと考えたが、どちらかといえば伊桜からの暇つぶしによる投げかけが多いので違うと思う。
伊桜らしくないことを言われたのは少し驚いたが、機嫌を損ねたわけでもないので、調子そのままに返信をした。友達としてなら、という言葉には他意はないように思える。が、俺は今までの伊桜の発言を思い出し、他意はあると思ったから引っかかるように感じているのだ。
恋人としては一線を引いているのではないだろうか。
それは意味合い的に当たり前のことだが、更に強調されて、伊桜の過去の何かと繋がることを示したかのように。
憶測のことであるが、ブサイクとして演じる理由に大きく関わっていたりするかもしれない。だから俺は今でも関わり方には気をつけている。元々女子相手なので踏み込みすぎないよう、範囲内で好き勝手暴れていたが、最近では関係性を崩さないように一言一句で地雷を踏まないように意識している。
俺に好感を抱いていても、どれだけ仲のいい友達でも、超えられたくない一線を持つのは人として普通だ。だからやり過ぎには注意しながらも、伊桜を最大限イジってやろう。
いつかその内容を聞ける日が来るといいんだが。
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