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別離



 異形の魔獣の正体が判明してからも、俺たちは2日その村で過ごした。

 というのも、異形の魔獣があれ一体とは限らず他にも周辺にいないかくまなく捜索したからだ。幸いにも、あれ以外の異形の魔獣は現れなかった。


 リンネさんは何名か村に様子を見るための兵士を駐屯ちゅうとんさせ、俺たちは街へと戻って来た。


「わたくしは直ぐにこの事をお父様と国に報告します。恐らくはすぐに戻れないでしょう。ですから先に報酬を渡しておきますわ」


 貴族であるリンネさんに対して、俺たちは流浪の身だ。

 だから彼女が国に報告する事に同行することは出来ない。


 だけど、あれを見てただ見過ごす訳にもいかない。


 だから俺は、もし何かあれば力になると伝えた。


 リンネさんはその言葉には驚きながらも、その時はお願いしますと告げた。


 無論、俺は頷いた。





 報酬を得た俺達は装備を買い直す事にした。


 俺は折れてしまったファッブロの剣の代わりに別の剣を一本購入した。なるべく質の良く、使い慣れた感じのものを買ったが慣れるまでにはまだまだかかりそうだ。

 エドアルドも別の頭鎧を買っていた。彼はあまり気に入ってはないが、それでも頭鎧がないことの方を危惧し、買ったらしい。


 そんな風に過ごしていた時、グリゼルダさんがとある事を言ってきた。


「俺ぁはそろそろ別の所に行くことにする」

「そうなのか?」


 そう、彼らはこの街から離れることにしたらしい。


「あぁ、あの嬢ちゃんからの報酬も貰ったしな。金はもう大丈夫だ。それに、ちっとあの獣人の野郎に怪しまれてきている。勘が鋭くてな。これ以上はにいちゃん達にも迷惑はかけられねぇ」

「迷惑だなんてそんな事ないさ。でも、そうか。寂しくなりますね」

「お? なんだなんだ、可愛らしい所もあるじゃねぇか」

「うぉっ!? だからいきなり肩に手を回すのはやめてくれよっ」

「照れんな照れんな。うははははっ」


 豪快に笑うグリゼルダさん。悪意がないから、無下にしにくいんだよなぁ。

 ふとグリゼルダさんがバツの悪そうな顔をする。


「……悪りぃな。こんな途中で抜けだすような形になって。あの例の魔獣も解決してねぇのに」

「いえ、気にしないで下さい。貴方にとって最も大事な者がイフィゲニアなんだから、気にしていません」


 グリゼルダさんにとって最も大切なのはイフィゲニアだ。

 もし正体がバレたらどうなるか、そう考えるとグリゼルダさんの判断も間違いなんかじゃない。


 だけど、それはイフィゲニア……いや、フィアか。あの後、俺もアイリスちゃんのようにそう呼んで欲しいとフィア自身に頼まれた。


 とにかくフィアにとっては残念な事なのだろう。

 珍しく、食い下がっている。

「とうちゃん、もうちょっとだけいられないの? まだあたしみんなといたいよ」

「あー……、俺ぁもそうしてやりたいんだがよ」


 グリゼルダさんが困ったような顔をする。

 その様子にフィアは無理だとわかったのか俯く。


「……折角、ごめんなさい言えたのに。折角、仲良くなれたのに、これが別れだなんてやだよ。もっと、もっと……」

「フィア、これは別れじゃない」

「えっ?」


 俺は膝をついて彼女と視線を合わせる。


「人生はまだまだ長い。また何処か別の場所で会えるだろう。だから、別れなんかじゃない。こういう時何というか知っているかい?」

「ううん、知らない」

またね(・・・)、だ」


 そう、これは今生の別れなんかじゃない。

 生きてさえいればいずれまた会える。


 その為の再会の約束。


「また会いましょう、その時はわたしはもっとお姉さんらしく振舞ってあげますから!」

<ガゥッ! ガゥガゥッ!>

「ま、元気にやりなさいよ。あと言っとくけど次までにこなちゃん呼びはやめてよね! わかった!? なら、怪我に気をつけていきなさい」

「道中何かと苦労があるとは思います。ですが、我々は少なくとも貴方達の友人であり、味方でもあります。御武運を」


 各々(おのおの)が言葉をかける。

 その言葉にフィアは目元をゴシゴシと擦り、涙を隠す。


「うん、またね!」


 フィアが笑う。


 それは今まで見た中で一番ステキな笑顔だった。











 街の外、森にて。


「主任、街に潜伏させた者から連絡が。あの親子どうやらこの街から離れるようです」

「なに!? 全くこれからあの小娘を始末しようという時にッ。作戦変更です、我々はその親子を追うとする!」

「向こうの方はどうするのです?」

「そんなの彼女に任せておきなさい。私の作品(・・)を何匹か送っておけば後はどうとでもなるでしょう」

「わかりました、そのように」

「くひひひ、さぁ、待っていたまえ。魔族の血を引く娘よ! 必ずや我が手に!!」


 周囲に並ぶアヤメが倒した異形の魔獣と同種の魔獣の群れ。

 その中心でヨゼフ・ドクトゥルは狂気的に笑っていた。










「全く、まだヨゼフ・ドクトゥルは来ませんの?」


 森の一角、馬車の中でリンネは待っていた。

 場所を指定されて態々待っているのに、当の本人は未だこの場に現れない。


「たしかに遅いな。これなら街の中で待っていた方が良かったぜ」

「途中で合流し、一緒に王都に向かうというから待っていますのに、待たせるだなんて。わたくし達には時間がないというのに。一刻も早くあの生物の事を知らせねばならないといいますのに」

「お嬢様、あまり眉間に皺を寄せれば癖になります」

「そうは言いますけど、ヒノハ。一体いつまで待たせるつもりーー」

<バウッ!>


 リンクルが吠える。

 次いでランドルフが反応する。


「ヒノハ!! お嬢様を守れ!!」


 直ぐに馬車内から飛び出るランドルフ。

 しかし僅かに遅かった。


「ぎゃあぁぁっ!」

<ヒヒィィンッ!?>


 外に居た御者と馬が出血し、その場に倒れ伏した。ランドルフは御者をすぐさま側に引き寄せる。


「おい、無事かっ!?」

「わ、私は何とか……しかし馬がッ」


 視線の先には既に事切れた馬がいた。

 ランドセルは舌打ちする。足を奪われたと悟る。相手は組織的な行動を行う奴だ。


「ご無事ですか?」

「お嬢様!? おいおい、馬車の中にいろよ!」

「わたくしだけが中で震えている訳にはいかないでしょう。リンクルの力を発揮するにはわたくしが必要不可欠です。貴方、馬車の中に入っていなさい。中で傷口を塞ぐのです」

「し、しかし」

「クドイですわ! 早く行きなさい!」


 御者を馬車に戻す。

 リンネは改めて馬車を襲った不届き者、魔獣を見た。


「あれがわたくし達を襲った魔獣ですか……【思念相波】」


 リンネが技能(スキル)を使い、相手の考えを読み取ろうとする。


<ギィィアァァァッ!>

「うぐっ」


 しかし魔獣が吼えると同時に強制的に【思念相波】を打ち切られた。

 痛みによろけるリンネをヒノハが支える。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

「えぇ。しかしこれではっきりしました。アレ(・・)もまたわたくし達が運ぼうとしている存在と同じですわ。対話しようとしたら複数の思念で跳ね返されました」

「なら、やっぱりこの間の奴と近しい存在か」

「えぇ、間違いないでしょう」


 人の気配は混じっていなかったが、複数の魔獣が融合している時点で関係しているのは間違いない。そして、それがこの場に現れたとするならば理由は一つしかない。


「偶然、ではないですわね。やってくれましたわねヨゼフ・ドクトゥル……ッ! 貴方が黒幕だとは」


 偶々あの生物と類似した生物が現れるなどあり得ない。

 リンネは一連の事件にヨゼフが関わっていたと確信した。この場に現れなかったのは、口封じの為か。


「どちらにせよ、向こうから本性を現してくれたのなら好都合。この事を公表する為にわたくしは此処で死ぬ訳にはいきません。リンクル! ランドルフ! わたくしのコアストリドット家の名で命じます! 蹴散らしなさい!」

<バウンッ!>

「合点承知ッ!」


 リンネの号令を聞き、ランドルフとリンクルは戦闘態勢を取る。


「【剛渦落(ごううずお)とし】」


 迫り来る魔獣の攻撃を躱し、寧ろ相手の力を利用してそのまま地面へと叩き伏せ首を折る。


 獣人であるランドルフは身体能力に優れている。

 それこそ並大抵の魔獣相手ならば上回るほどである。


<ブラララッ!>

「おっと、あぶねぇな」


 更には洞察力に優れ、ある程度相手の動きを先読みしていた。


「【爪牙咬(つめぎかみ)】」


 鋭利な爪が交差し、噛み跡のように異形の魔獣に傷を与える。


「あん? こいつッ!」


 何故かやたらと強靭な毛並みがランドルフの爪を巻き取った。

 その隙をついて、蝙蝠に似た異形の魔獣が背後の頭上からリンネを襲いかかろうと無音で迫る。


「リンクル! 【顎強化(ジョー・パワーアップ)】、そして【牙刳(きばら)】」

<バゥン>


 リンネの『魔獣使い』の技能(スキル)によって強化された顎でリンクルは異形の魔獣の猛攻を躱し、喉元に食らいつく。

 そのまま首を振り、大地へと屈服させた。大きさからして5倍は差があるにも関わらず一撃で首を粉砕した。


「ランドルフ、貴方油断し過ぎですわよ」

「心配すんなや、お嬢様。あれくらいなら多少傷負っても俺の敵じゃねぇよ」

「大バカ者! 毒を持ってる可能性を考えなさいと言っているのです!」

「はっ!? そうだった!」


 リンネの言葉にランドルフが気付く。

 彼は若干頭が弱かった。だが、強さは本物だ。瞬く間に襲い来る異形の魔獣を屠殺する。


「はははははッ! なんだなんだ、例のお騒がせな異形の魔獣もこんな程度かッ! これならアヤメ達に任せなくてもオレ一人で何とかなったな!」


 ランドルフはその身体能力を遺憾なく発揮して、傷を負う事なく異形の魔獣を倒していく。このままいけば殲滅も可能だろう。


(……妙ですわ)


 しかしリンネは違っていた。

 リンネはアヤメが倒した異形の魔獣を直に見、そして魔獣や人間が融合している事を知った。


 だが目の前の奴からはそのような気配を感じない。

 ほぼほぼ、ただの魔獣に近い。無論、有るはずのない頭や翼が存在しているのもあるので、例の生物と同類であるとは思うのだが、これでは弱過ぎる(・・・・・・・・)


 更には異形の魔獣の動きだ。一匹たりともリンネの方向に向かってこないのだ。リンクルとランドルフが守っているとかでなく、対象から外れているのを感じた。


「ランドルフ! あと数体倒したらわたくしと御者を抱えて街へ撤退しなさい!」

「はぁ!? おいおいお嬢様、俺とパイセンだけで此処にいる奴等倒せそうだぜ!?」

「嫌な予感がします。わたくしを殺すつもりならば、もっと一斉に襲いかかっていいはず。なのに、ずっと此方を伺う個体もいて、かといって攻めない訳ではなくまるで貴方方をわたくしから離すのがもく……てき……」


 何かに気付いたようなリンネ。


 何故ヨゼフはこの場に現れなかった。

 遠くから監視している? いや、それならリンクルが何も吠えないのはおかしい。リンクルの耳と鼻なら離れていても気付くはずだ。


 アヤメは異形の魔獣はまるで本能のままで暴れていたと言っていた。怒りと憎しみをもってして。だが目の前の異形の魔獣は明らかに連携も統率も取れている。情報と一致していない。


 ヨゼフが現れなくて良い理由。それは、元より撹乱か或いはその場に指令者(・・・)がいるから。

 なら、その指令者はーー


「だからお嬢様は駄目なんですよ」

「えっ」


 トスっと。

 リンネの胸にヒノハの隠しナイフが突き刺された。

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