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次なる方針

新章開幕です!

『偽りの勇者』第一巻、好評発売中!

著者もTwitterを始めましたのでよろしくお願い致します。


因みに著者の別作品「おっさん船医ですが処刑されました。しかし生きていて美少女美女海賊団の船医やっています。ただ、触診をセクハラというのはやめて下さい。お願いします」も更新致しました。

興味のある方はぜひお読みください↓

https://ncode.syosetu.com/n7090eo/


「そっちに行ったぞ!」


 俺は大声を出して警告する。


 黒い巨大な物体が地面を疾走していた。


 その胴体は大木と錯覚する程太く、それでしてしなやかさを持っていた。口を開ければその中は真っ黒で、唯一白い牙からは、猛毒を含んでいる。


 一度現れればその周囲の生き物を喰らい尽くす口の中が真っ黒なのが特徴的な魔蛇……通称"黒瑪瑙蛇ブラックタイガースネーク"と呼ばれる巨大な大蛇だ。


「大丈夫だよアニィ!」


 俺の答えるのは、魔族である鬼の血を引く娘、イフィゲニアことフィアだ。彼女は、魔族特有である紫の瞳を険しくしながら、逃げることなく拳を構える。


「【虚空無兇冴】!」

<ジャアァァッッ!!>

「硬いッ……うわ!」


 渾身の突きである【虚空無兇冴】であっても僅かに進行を止めるに過ぎず、鱗もヒビは入るも割れない。

 それに返す刀で"黒瑪瑙蛇ブラックタイガースネーク"は頭突きをするのをフィアは避ける。


「へへんっ、そんなのに当たるこのイフィゲニアさまじゃっ、わきゅっ!?」


 躱したと思ったフィアが得意げな表情を浮かべるも、その後相手のくねらした胴体によって吹き飛ばされる。


「【古くから共にある木霊よ、大地に色取り取りの花で飾りましょう、舞い散り咲き誇る花畑(フラワー・クッション)】」


 金髪のエルフ、『聖女』であるアイリスがエルフにのみ扱える【木霊との語らい《ことのは》】によって、一瞬で咲いた花畑がクッションとなり、危うく激突するのは避けられた。


 アイリスはぷんぷんとフィアに注意する。


「フィアッ! 油断しちゃダメですよ! わたし達は命のやりとりをしているのです! 相手だって死に物狂いできます!」

「いててっ、ごめんアネェ」

<! ガウッ!>

<シャアァァッ!>


 飛ばされたフィアを追うように、"黒瑪瑙蛇ブラックタイガースネーク"が迫り来る。


 "金白狼(マーナガルム)"と呼ばれる魔狼であるジャママがアイリスを乗せ、フィアを加えてその場から退避する。しかし、"黒瑪瑙蛇ブラックタイガースネーク"も巧みに身体をくねらせ追い縋る。


 そんな彼女たちを守るように、身の丈ほどの大盾を構える『騎士』、エドアルド。


「その通り。狩りとは命と命のぶつかり合い。油断することは、良くありません。【要塞(フォートレス)】」


 先に【要塞(フォートレス)】により身を固めたエドアルドが、"黒瑪瑙蛇ブラックタイガースネーク"と衝突する。


 通常であれば跳ね飛ばされる程のサイズ差であるが、エドアルドは多少後退するも真正面から受け止めた。


「ぬぅ……ッ! 【反射鏡盾(カウンターバッシュ)】」

<!!?>


 エドアルドによって、真上へと跳ね除けられる。


 下顎から衝撃を食らったせいか、ぐらりと、脳震盪を起こしそのまま無防備に直立する。


 そんな"黒瑪瑙蛇ブラックタイガースネーク"の背中を駆け上がり、俺はすらりと細く鋭い剣……"刺斬剣イザイア"を構える。


「"緋花"! "月凛花"」

<フシュルッッ!!?>


 首へと剣を突き刺さすと同時に、真横へ一閃。頭と胴体を完全に両断する。


 周辺地域を恐怖に陥れた"黒瑪瑙蛇ブラックタイガースネーク"は、信じられないような顔で頭が落下し、やがて胴体も地に臥した。





 俺たちは"黒瑪瑙蛇ブラックタイガースネーク"の討伐を村へと伝えた。その際に、切り落とした頭を見せる。

 誰もがその事に驚きながらも退治された事に涙を流して喜んでいた。


 そんな中、俺は村人たちと共に居た銀髪のダークエルフである、キキョウへと声をかける。


「キキョウも、村の護衛をありがとう」

「別にぃ、結局入れ違いになる事はなかったから暇だっただけだわ」


 俺たちのいない時に、入れ違いであの大蛇が来たら村に守る戦力がいなかった為、キキョウにこの場に残って貰っていた。


 最も、その心配は杞憂だったようだけど。


 村人達が喜び合う中、村長が話しかけてくる。


「あのお礼の方は」

「あぁ、大丈夫です。既に報酬は受け取っているから」


 そう言って俺は、母親に抱きついて喜んでいる少女を見る。少女もまた、俺を見て笑顔を浮かべた。


 あの少女と出会ったのは偶然だ。


 旅の途中、ジャママが魔獣に襲われている彼女を見つけた。明らかにそぐわない格好にナイフを一本だけ持っていた少女は、助けた所泣いて懇願されたのだ。


『わたしの、たからものをあげる。だから、だからぁ、村を、みんなを助けて』


 そう言われて渡されたのは、ただのツヤツヤした石だ。


 だけど、本人にとって大事なモノであることは見て取れた。それを渡してでも助けて欲しいと懇願されたのだ。


 だからこそ、それに応えないのは『救世主(ヒーロー)』としてありえなかった。


 最後まで頭を下げて喜ぶ村人たちに手を振り別れを告げ、俺たちは元の旅に歩み出した。


 俺が手元で貰った石を眺めていると、フィアが問いかけてくる。


「アニィ、本当にそんなのでよかったの?」

「あの娘にとって最も大切なものを貰ったんだ。なら、その願いを聞き届けたいと思うのは変なことかい?」

「損な事をするわね、アヤメ」

「しかし、彼らしいでしょう」


 呆れるキキョウに対し、エドアルドは納得したように頷く。


 そんな中、懐かしそうにアイリスが微笑んだ。


「昔を思い出しました。アヤメさんも、あぁやってわたしを助けてくださいましたよね」

「そうだね。思えばあれが全ての始まりか。あの時はきみとこうして共にあることを予感してなかったよ、アイリス」

「はきゅっ、あわわわっ」

<グルゥ>


 俺がアイリスの名を呼ぶと彼女は顔を赤らめ、あわあわと手を動かし、そのまま隠れるようにジャママの毛並みに顔をうずくめた。ジャママは困ったように鳴いた。


「アネェ、またアニィに名前呼ばれて照れてるよ。仲良しだね!」

「彼と彼女の仲が縮まった事。それが悪いとは言いませんが、戦闘中にもあれでは困りますな」


 フィアが単純に喜び、エドアルドが苦言を呈する。

 彼の言いたいこともわかるがこればっかりはアイリスに慣れてもらうしかない。


「ふぅ〜ん、仲良くねぇ。へ〜……」


 唯一少しだけ面白くなさそうなのはキキョウだが、その事を指摘するほど無粋でなかった。恐らくは、あの湖畔の後で戻ったアイリスの様子を見て何かを察したのかもしれない。


「まぁ、そこの使い物にならなくなったちみっ娘は置いておいて。実際問題、此方もあの貧乏な村からお金をむしりとろうとは思わないけども、この先もあんなんじゃいつか此方達無一文になるわよ。流石に限界はあるわ」

「確かにキキョウの言うことにも一理ある。実質問題、俺たちにはあまり懐に余裕があるとは言えない」


 旅を続けるにしても金は必要だ。

 食料、飲み物、衣服、武器、薬、何にしてもお金はかかる。旅をし続ければ当然あらゆる物は無くなるし、衣類や武具は摩耗する。


 だからこそ、所々で頼み事を聞いたり、はたまた魔獣に襲われて困っている人を助けたりして金銭を得ていたがそれもそろそろ厳しかった。


「手早いのは冒険者になる事だ。だが、俺達がなるというのは難しい。というか、不可能だ」

「同意致します。依頼者との仲介や都市間の検査がある程度軽くなるのは魅力的ですが、デメリットが釣り合わないかと」


 手っ取り早いのは冒険者になること。

 だが俺達は誰もが訳ありのパーティ。武によって名を挙げるという行為は出来ない。


 いや、それなら何で各地で『救世主(ヒーロー)』だなんて、目立つ行為をしているんだと言われたら何も反論できないけども。


 話が逸れたな。


「だけど、一応解決策は考えているんだ」

「それは一体なんですか? アヤメさん」


 復活したアイリスが問いかけてくる。まだ多少顔が赤いが、それでも俺の言葉が気に掛かったのだろう。

 他の皆も、俺を見つめている。


「あぁ、みんなは"ダンジョン(・・・・・)"という言葉を聞いた事はあるか?」


 ダンジョン。


 その言葉が指す意味はこの世で一つしかない。




 "白亜の灯都スティーニオ"、そう呼ばれる所がある。




 其処には巨大な白い塔があり、誰が建造したのかも、いつから其処にあるのかも謎の巨塔は、象徴として今尚存在感を醸し出している。


 ここまでなら太陽国ソレイユの輝都の方がユーリウス城も含めて、伝統的な建築物が数多く並ぶ事で有名だろう。


 しかし、其処には他の国では得られないとある産物があった。


「数多くの国がある中で、何故人々が其処に集まるのか。それは」

「地下に広がりし迷宮ですね、アヤメ殿」

「その通り。エドアルドは知っていたか」


 ヴァルドニアの元騎士団長であるエドアルド。他国の事情にも精通しているらしく、俺の行き先である都市に着いても知っているらしい。


「無論です。"地下迷宮(ダンジョン)"と聞いた瞬間悟りました。莫大な富と夢見る者達が集いし坩堝。故に、もう一つ別名を付けられたのが"金と夢と欲望の箱"と」

「なんか一気に欲にまみれた俗な言い方になったわね」

「まぁそうだけど。金を稼ぐという点において、これ程相応しい所はないだろうね」


 キキョウの言う通り俗な言い方にはなるが、結局俺たちの目的も金なので一概に否定出来ない。


「とは言え、無論それには危険が付き纏う。さっきも言ったけどそこの地下には入り乱れた無限に広がる"地下迷宮(ダンジョン)"がある。そしてそこは強力な魔獣の住処という話だ」

「魔獣、ですか? その都市の下に? ……え、それは大丈夫なんですか? 上に溢れてしまったりとか」

「アイリスの疑問も最もだけど……」


 アイリスは信じ難いものを見る目で俺の話を聞く。エドアルドも俺の言葉を引き継ぎ、答えた。


「そのような話は聞いた事がございませんね。少なくともかの都が誕生してからは一度たりともなかったかと」

「あぁ、俺もそう聞いている。恐らくは魔除け、或いは結界かそんなものが設置されているのだと思う。アイリス、きみの故郷にも似たような技術で高度な隠蔽が施されていたんじゃないか?」

「それは……はい。確かにわたしの里の魔獣除けの隠蔽魔法を施してはいます。でも、完全にという訳ではありませんし、時には綻びから入り込むこともあります。でも、その都市は今までずっと、なんですよね?」

<グルゥゥ>


 やはり信じられないのだろう。難しい顔をする。ジャママもまた、自らが魔獣である為に、何故そこの魔獣が上に出ないのか理解が及ばないのだろう、うなり声をあげる。


 でも、その思いは理解出来る。


 実際、太陽国ソレイユも魔王軍からの侵攻を防ぐ結界を張っているが、それは魔王軍用であり、魔獣とかは入り込める為完璧では無い。にも関わらず、"地下迷宮(ダンジョン)"で魔獣が溢れたという話は聞いたことがない。


「だが、その魔獣こそが俺たちの目的だ。どういう訳か、其処にいる魔獣たちは倒せば魔石(・・)をおとすらしい」

「えっ!? それは、すごいですね。それほど強力な魔獣が複数(・・)いることも。そして、それらが地上に現れないことも(・・・・・・・・・・)


 アイリスが驚くのも無理はない。


 魔石。生命の奇跡とも言われるこれは非常に強力な魔獣から偶にとれる神秘の結晶だ。その効力は、貴重な回復薬(ポーション)の素材となったり、強力な武具への加工に使われる。


 俺はかつて"商業都市リッコ"で行われる《大輪祭》の為に、飛竜を討伐したがそれからも取れなかった。それほど貴重なモノなのだ。


 そして、その魔石を有する魔獣は強力で強大な力を持っている事が多い。だからこそ、それらが地上に現れない事がアイリスには不可解なのだろう。


 そこまで説明した所、フィアが首を傾げながら尋ねて来る。


「だったらアニィ、そこで魔獣を狩るの?」

「あぁ。正直、そこに住処とする魔獣にも遅れを取ることはほぼ無いとは思っている」


 索敵のジャママに、遊撃としての俺とフィア、仲間の盾となるエドアルドに、範囲攻撃に優れているアイリスとキキョウ。ある程度構成は変化させる必要はあるが、大凡近距離中距離遠距離全てに対応出来る。


 無論、油断し過ぎてもいけないがそれでも誰かが死ぬという事態になる事は低いだろう。


「そろそろ本格的に装備も揃えようかなと思ってね。先の戦いでまたも剣を失ったし」


 『熔岩』のラーヴァと戦った際に、俺はまたも剣を失った。有り合わせ、つまりは繋ぎの為の剣ではあったがそれでも失ったのは俺の腕が未熟だったからだ。


 今俺の腰には、ヴァルドニアという国の近衛騎士団長ジャモコから拝借した"刺斬剣イザイア"しかない。


 名剣の類なのか、この剣だけは未だに刃こぼれもない。勿論、日夜俺がきちんとメンテナンスを施してはいるが。


「だから装備を揃え、路銀を稼ぐ為に俺は"白亜の都スティーニオ"に向かいたいと思っているんだが……フィア。きみはどう思う?」


 魔石は高値で売れる。だからこそ、俺は"白亜の都スティーニオ"を目指そうと思ったが、当然そこには沢山の人々がいる。


 "白夜の街プルギス"では、仮装する事である程度フィアの正体をカモフラージュ出来た。だが他の街では、難しく必然的にフィアは身を隠す服装と行動を制限することになる。当然これはフィアに不自由を強いることになる。


 彼女が拒否するならば別の方法を考えるつもりだ。その意味でも確認をとる。


「とうちゃんも言ってた。生きていくには金が必要だって」


 フィアは自らの父親……グリゼルダさんの事を語る。

 ギュッと拳を膝の上で握り、唇を噛み締める。


「とうちゃんはあたしのせいで街から離れる事を余儀なくされた。数少ない街に滞在する間もずっとあたしの側にいた。大丈夫だと笑ってたけど、やっぱり負担になってたんだと思う」

「フィア」

「あたしは、アニィ達の負担にはなりたくない」


 語るフィアは沈痛な顔をしていた。

 悪いことを言ってしまったかと、俺が自身を責めていると彼女は顔を上げる。


「だから、あたしは大丈夫だよ。だって、あたしは一人じゃない。アニィ達がいるから!」


 白い歯を見せて、屈託のない笑顔を見せるフィア。


 ……参ったな。

 俺の想像よりもフィアはしっかりとしていた。


「杞憂だったようですね。フィアは強い娘ですね〜。よしよ〜し」

「えっへん!」

<ガゥッ!>


 アイリスがフィアを身に寄せ、撫でる。ジャママもまたフィアに寄り添った。それを見た俺たちは微笑ましく思いながら見守る。


「何だかんだで子どもは成長するものね」

「然りですな。それでは、アヤメ殿」

「あぁ、俺たちは"白亜の都スティーニオ"へと向かう事にしよう」


 皆の承認を得て、俺は方針を告げた。







「……それにしても魔石ねぇ。そんなのが好きなの人ってのは。……なんか、アイツ(・・・)を思い出すわ」


 その最中、キキョウが誰にも聞こえない小さな声でぼそっと呟いた。


皆様の応援のおかげで書籍版を販売出来ました。

今後ともよろしくお願い致します。

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