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白亜の灯都スティーニオ

著者の別作品「おっさん船医ですが処刑されました。しかし生きていて美少女美女海賊団の船医やっています。ただ、触診をセクハラというのはやめて下さい。お願いします」も更新致しました。

興味のある方はぜひお読みください↓

https://ncode.syosetu.com/n7090eo/


 やがて方針を決めて数週間が経った。


 ガタガタと揺られる感覚。俺達は今、幌馬車に乗っていた。


 この幌馬車は、"白亜の灯都スティーニオ"へと向かう最中に出会った商人と仲良くなり、ご好意により乗せてもらえた。


 ジャママにも怯えない、強い馬が引いている。

 この分なら、予定よりも早く着くだろう。


 さて、現在太陽の位置は真上。午後に差し掛かり、日差しが厳しくなる時間帯。幌の中であっても、かなり厳しい暑さの中、もっともこの暑さに辟易(へきえき)している者がいた。


「あ〜づ〜い……」

「大丈夫? こなちゃん」

「ぜんぜん、大丈夫じゃない……」


 キキョウであった。


 彼女は褐色の肌から汗を流し、だらんと、四肢を投げ出している。フィアが心配するも、手を軽く振るだけで身体はピクリともしない。


「キキョウ殿、いささかはしたないかと」

「だったらこの暑さなんとかして……」

「重症だな、これは」


 エドアルドの諫言(かんげん)にも、キキョウは力なく答えるだけだ。


 俺はその様子を見て、思った以上に暑さに弱いようだなと思った。そして、暑さに弱いと言えば……


「大丈夫ですか、ジャママ」

<グルゥゥ……>


 同じくジャママも舌を出して息を荒くしていた。

 この二人は随分と暑さに弱いらしい。俺は二人に水を差し出しながら、そっと外の様子を伺う。


「この辺りの地域は空気が乾燥しているし、今は日差しの厳しい時間帯だから無理もない」

「風もあまり吹いていませんからね。というか、ぼっちなら自らの魔法で冷やしたら良いのでは?」

「暑過ぎず、寒過ぎないようにするのは難しいのよ……。普段は此方自身には寒さを感じないように氷を使っているけども、それだと此方自身が涼しくないし」


 そう言えばキキョウは【動く氷巨像(ヨトゥム)】の時も寒さに堪える様子がなかったな。元々『魔法使い』は己の扱える属性には強い傾向があるから、納得だ。


「……なら発生させた氷を別に小さい布に包んで、腋にでも挟めば良いのでは?」

「! そう! それよ!!」

「うぉっ!?」


 天啓を得たりとばかりにがばりと起き上がり、思わず馬車が軽く揺れる。


「はぁ〜っ! 生き返るぅ〜! ほら、あんたもさっさと涼みなさい」

<ガゥッ!>

「こんな事に気付かないなんて、頭まで暑さで溶けてしまったんですか?」

「アイリス、アイリス。ちょっと辛辣(しんらつ)過ぎるよ」


 アイリスの言葉に俺は苦笑いになる。

 その際キキョウと言えば、ジャママにも同じように布で包んでいた氷を渡していた。


「はぁ〜、どうしてもっと早く気付かなかったのかしら」


 涼むキキョウが胸元をパタパタさせる。その際に汗だろうか、胸へと艶やかに滴る。


 あまり見てはいけないと顔を晒そうとした際、目があった。キキョウはわかりやすくにやりと笑い、赤い瞳を細めた。これはちょっとマズったかもしれない。


「なぁに、アヤメ。別に見たいのならもっと近付いても良いのよ」

「アヤメさんを誘惑しないでください! エドアルドさんとフィアもいるんですよ、少しは人前であることを考えてください!」


 いや、アイリス確かオーロ村の時何も隠さないで俺の前に出てきたよね? 


 今となっては懐かしいアイリスとジャママと出会ったばかりの時の光景を思い出しつつ、隣のエドアルドを見ると、我関せずと目を瞑っていた。


 彼はどうやら関わる気がないらしい。


「あんちゃんたち、もうすぐ着くよ」


 そんな時、幌馬車の御者が話しかけて来る。

 さっと外を見ると、"白亜の灯都スティーニオ"の象徴たる白い巨塔が見えた。




 此処まで乗せてくれた幌馬車の商人に御礼と謝礼を渡し、別れる。


 幌馬車から降りた俺たちは周辺に集う人の数に、目を丸くする。


「すごい人の数ですね。まだ灯都に入っていないのにこんなに」

「あぁ、"商業都市リッコ"を思い出すね」

<ガウ>


 《大輪祭》と呼ばれる花火を打ち上げる祭りが行われる時期に、俺とアイリスとジャママは"商業都市リッコ"に訪れた事があった。

 あの時もすごい人数だったが、ここはそれ以上だ。


「わぁ、何だが武器を持った人が多いね」

「前に説明致しました魔石を求める人達と言うことでしょう。魔獣を狩るというのであれば、彼らは冒険者なのかもしれません」

「どうでもいいから、早く中に入りましょ……直射日光はきついわ……」

<ガゥゥ……>


 フィアとエドアルドが話している最中、辟易とした様子でキキョウが話す。今、彼女は完全に外套で姿を隠しているから、いくら氷があっても暑いのかもしれない。


 同意するようにジャママも頷いている。


 そう思い、俺たちは人の流れに従って進む。


「わっ、なんですかこれ。門……? いや、どちらかと言えば綺麗に掘り進んだ洞窟(トンネル)のような……」

「此処に書いてあるよ。……へぇ、"栄光への道のり"か。なるほど、そう呼ばれるだけはある」


 "白亜の灯都スティーニオ"の中に入る入り口は、門では無く、灯都を囲む城壁をくり抜いた長い 隧道(トンネル)だった。


 まだ入ってはいないが、入り口からでもわかる中の様子は、まるで天然の星空かと錯覚するほどの煌めきが天井に散りばめられていた。


 このまま中に入って上を見上げればもっと、綺麗だろう。


 そう思い、足を踏み入れる。




「うッ」

「いたっ」

「んぅ?」




 アイリス、キキョウ、フィアが何か小さくびっくりしたような声を上げた。


 俺が振り返ると、アイリス達がキョロキョロと辺りを見渡し、自身の身体を確かめていた。


「どうかしたのか?」

「いえ、何か、身体に違和感みたいなものが……」

「ピリッとした痛みが走ったわね」

「アネェとこなちゃんも? でも、痛みはなかったよ?」


 顔をしかめる二人に対して、フィアも違和感こそ感じたが痛みを伴うものではなかったらしい。


 今だに何か違和感を覚えているのだろう。顔や身体をさする二人。フィアは首を傾げ、同じように自らの身体を触るも、やはりあの二人のように痛みのようなのはなかったらしい。


 俺は顎に手を当て、少し考える。


「エドアルド、君は?」

「いえ、私は何も感じませんでしたが」

<ガウン>


 エドアルドは首を振る。念の為、獣の感で何か気付いたかとジャママにも視線を向けると首を横に振った。


 実際に俺も何も感じなかった。三人の言う違和感にも心当たりはない。幸い、何かすぐに影響があるものではないらしい。


「この暑さに当てられたのかもしれないね。それか、ここに来るまでの疲労もあるかもしれない」

「そう、ですよね。もしかしたら知らず知らずのうちに疲れが溜まっていたのかもしれません」


 アイリスが釈然(しゃくぜん)としなさそうにしつつも、それくらいしか考えられないのかなんとか納得したような表情を浮かべる。


「であるならば、先に宿を探すのが先決ですね。アヤメ殿」

「そうだね、なら早く此処を抜けるとしよう」


 街に滞在するにしても、拠点となる場所を探すのが先決だ。そう思いながら、俺達は門を潜り終える。


 淡い光の隧道(トンネル)を歩き、やがて出口が見えてきた。強い光に思わず目を細め、遂に隧道(トンネル)を抜け、俺は目を見開いた。


「これは、なんとも。見事だ」


 全員があまりの光景に圧巻されていた。


 何よりも目立つのは、全ての建築物が白い事だ。

 青い空と白い建物のコントラストは、とても美しい。思わず、感嘆の息を吐く。


「"|白夜の街プルギス"の街並みも見事だったが此処はそれ以上だね」

「来たのは初めてですが、成る程。美しい光景ですな」

「すごーい! 辺り一面真っ白! 白しかない!」


 フィアが口にする白、それは建物だけではなかった。

 居並ぶ建物から、そこらに生えている雑草、そして大地そのもの(・・・・・・)までものが(・・・・・)


 更にはそこに住む人々。


 大凡豪華な衣服で、すれ違う人々全員の顔が明るい。それだけでこの灯都に住む人々がどれだけ豊かなのかがわかった。

 更にはそこで売られている品物。どれもこれも見たことない物ばかりだ。古今東西の珍品が集まっていると言っても過言では無い。それだけの活気もある。


「うわ、アニィ! 何あれ! へんてこ!」


 フィアの指差す先には、巨大な球体が浮いていた。周りには人集りもできている。


「これは何でしょうか。見たところ、何かの催しという訳でもなさそうですし……」

「アイリス殿、これは恐らくはこの灯都の地図です。此処に幾つか名称がございます。凸凹は建物で、立体的にすることで視覚に捉えやすくしているのかと。それに向こう側にも同じモノがございます」

「確かにあるね。これだけの数があると言う事は量産出来ているということ……なら、これも魔道具の一種か」

魔道具(・・・)? アヤメさん、魔法具(・・・)ではないのですか?」


 俺の言葉に、アイリスが首を傾げた。


「あぁ、それはだね。ほら、この下の部分に製作者の名前と作成日が刻まれているだろう? つまり、これは最近作られたという証明だ。そして、魔法具と魔道具の違いは、それが製作できるか否かだ」


 俺が持つ見た目以上の許容量を入れられる"魔法の袋(マジック・バッグ)"やアイリスちゃんと通信できる腕輪は、かつて『錬金術師(アルケミスト)』と呼ばれる者達によって作られ、遺産とも言われる武具や道具の事だ。


 理解出来ない、未知なる法則(・・・・・・)で動く道具。それが魔法具だ。


 故にそれらは今となっては作ることが出来ず、希少な代物として取引されている。


 対して魔道具は『鍛冶屋』や『魔導技師』であれば製法さえできれば今でも作れる事が出来る。最も、魔法具に劣っている事や作るための素材が希少なことがあり、高価な事もある。


 しかし、この灯都ではそんな魔道具は至る所で使われていた。


 当然、魔道具を扱うには魔力が必要だったりする訳だが……、少なくとも目の前で使われている魔導具の側に、魔力を供給する人物はいない。


 代わりにあるのは、浮いている球体の下側の台にある魔石を嵌め込む穴らしきモノ。中までは見えないが、嵌め込まれた物によって魔力が供給されているのは間違いない。


魔石(・・)、か。やはりこの灯都はその存在が大きく関わっているようだ」


 魔法具の中には、己の魔力を使用することで行使できるものが多々ある。だが、あれだけの巨大な魔法具を動かすとなるとどれほどの人数が必要となるかわからない。


 その肩代わりとしているのが魔石だ。


 普通ならば、こんなに沢山の魔石を用意するのは難しい。だかまここは魔石を発掘することにより発展した灯都。この程度の設備を整えることなど造作も無いのだろう。


「ここまで大々的に魔道具を扱かう事が出来るとは。太陽国ソレイユでも、ここまでの規模はなかったな。"魔導国家マキナ"なら、同じ事が出来るかもしれないが」

「かの、機械文明とまで呼ばれる国ですか。あそこは鎖国国家ですから、どれほどの文明を誇るかはわかりませんが、例のあの存在からかなり高度なのは間違いありませんからね」

「あぁ、魔導人形(ゴーレム)はあそこにしかないからな」


 魔導人形(ゴーレム)と呼ばれる存在を創り上げ、共存する"魔導国家マキナ"。


 彼の国は、灯都を縦横無尽に駆け走る"列車"なるものすらあると噂に聞いた事がある。あくまで噂だし、そもそも殆ど鎖国状態の国だからあまりよく内情は知られていないんだ。


「確かにこれだけの数の魔道具……? でしたか、それらを扱えるだなんて本当に、すごいことです。全てが真っ白であることも、すごい光景です。だけど……」

「どうしたんだい?」


 感嘆しながらも、何か言い淀む様子を見せるアイリス。


「なんというか、造られた街(・・・・・)という感じがしまして……」

「造られたって、今まで訪れた場所全てがそうじゃない。建物は皆、人によって造られている。今に始まった事じゃないわ」

「そうですけど、そうじゃなくて、何というか……うぅ、うまく言葉が出ません」

「何よそれ……って言いたいところなんだけど、なんとなくわかる気がするわ」


 アイリスの言葉にキキョウが同意した。


 俺にはわからないが、なんだか二人には違和感があるらしい。


「とにかく地図があるのなら、好灯都合だ。これならある程度目星がつけられるな」





 あの魔道具の地図のおかげで宿泊場は簡単に見つけることができた。宿を決めた俺達は、荷物を置き、灯都へと繰り出す事にした。


「アイリスとキキョウは少し休ませた方が良いだろう。大丈夫だとは語っていたが大事をとるのに越した事はない」


 アイリスとキキョウはお留守番だ。


 灯都に入った時の様子から、休ませた方が良いとの判断だ。そしてアイリスがいないのだから、必然ジャママもお留守番ということになる。


 俺の言葉にエドアルドが頷く。


「旅とは不慣れな事の連続。やがては慣れると言いますが、それは裏を返せば感覚が麻痺したからとも言えます。見えないようで、疲労が溜まっていたのでしょう。寧ろ、此処に着いてからで良かったですな」

「あぁ。灯都の中ならば、外と比べて安全も保証されるはずだ」


 外は魔獣が蔓延る世界に対し、灯都の中ならば少なくとも身の危険はかなり少なくなる。


 まぁ、アイリスとキキョウは美人なので、もしかしたらちょっかいを出す者もいるかもしれないが二人にはジャママがいる。成人男性を上回る魔獣を連れているのなら、下手に手を出そうとする輩はいないだろう。


 とにかく、調子が心配な二人は宿で休息を取らせるのだがもう一人、灯都に入ったとき反応を示した人がいた。


「フィア、君は大丈夫なのか?」

「アネェとこなちゃんはちょっと体調が悪くなったけども、あたしは元気だもん!」


 むんっと意気込み、力瘤を作ってアピールする。


 実際に、元気一杯そうで無理している様子は見受けられない。頼もしいなと呟くとフィアは嬉しそうに笑う。


「そう考えるとなかなか珍しい組み合わせだな」


 引っ付いてきたフィアとたわむれつつ、俺は呟く。


 その言葉にエドアルドが追従するように口を開く。


「左様です。しかし、やることは変わりません。我々は地下迷宮(ダンジョン)に潜る為の情報を得る。それだけです」

「あぁ、その通りだ」


 当然だが、俺たちのこの灯都について何も知らない。


 加えてこの灯都は地下迷宮(ダンジョン)と共に発展してきた歴史がある。恐らくこれまで経験したことのない常識や歴史があるはずだ。


 先ずはそれを知らなければ。


「さて、気を引き締めた所で行くとしようか!」

「おー!」

「はっ」


 態とらしく音頭をあげるとフィアは元気良く、エドアルドは言葉短めに返事を返した。


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