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番外編5の1 凱旋

お久しぶりです。

先ずは長いこと更新が止まり、申し訳ございませんでした。

これからちょこちょこ更新致しますので、ご覧頂けると幸いです。



 

 トワイライト平原。

 人間界と魔界を二分する中央の平原。

 普段ならば戦争の音が絶えないこの場所は静寂に満ちていた。


 理由は此処に張り付いていた『砦城』がユウ・プロターニストによって撃退され、魔王軍は攻勢を中止。

 魔界と称される魔族の領域に撤退し、睨みながらも動くことはなくなった。



 一方これを機に太陽国ソレイユは大規模な防御陣地を構築及び戦力の立て直しを図る。『砦城』の脅威が一時的に去ったとは言え、未だ魔王軍は国境近くに布陣している。


 向こうが警戒し、動きが遅い今の内に新たな陣地を構築すべく忙しく動いていた。





「開門ー!! 『真の勇者』様達の到着なり!!」


 太陽国ソレイユにて、凱旋(がいせん)が行われていた。


 その主役は勿論ユウ達である。


 当たり前といえば当たり前だ。何故ならばユウ達は魔王軍の攻勢を退け、『砦城』を撃退した。討伐こそ出来なかったがこれにより魔王軍が、多大な被害を受けた事には違いない。実際、トワイライト平原に布陣する魔王軍の数は減った。


 故に、一部の軍の交代による人間側の士気の向上と勇者達の休息を図る。

 至極当然とも言える。人類にとっての希望である勇者だからこそ、使い潰したりなどせずに、丁寧に扱う。英気を養うのだ。


「ユウ・プロターゴニスト様ー!」

「『真の勇者』さまー!」

「八戦将を倒してくれてありがとよー!! あんたは俺たちの希望だー!!」


 歓声をあげる人、人、人。

 正門を通れば、左右に所狭しと並び、彼らは一様にユウを見上げる。


 そんな彼らの視線を受け、ユウは手を振りにこやかな笑みを浮かべた。


 一見すれば、慈愛のある笑顔。

 近しい者が見れば、張り詰めたユウの笑顔。


 民衆はそんな彼を見て、更にボルテージを高める。誰も気付かない。やがて彼と彼の一党を讃える声は王城に入り、そして夜になっても止む事はなかった。






 王城へと入り、格式張った儀礼を終えユウ達は彼らに用意された客室へと案内された。

 部屋は大きく、ファウパーンの相棒キュアノスが入れるほどである。


「ふぅ」


 ユウは軽く息を吐く。

 彼の身には普段着る事がない、機能性よりも装飾の凝った衣装を身につけていた。


 他の仲間達も思い思いに体を休める。

 オーウェンなどは、肩をぐりぐりと回し音を鳴らす。


「やっと一息つけるぜ。ったくかったるくて仕方ねぇ」

「あれ、オーウェンさんは褒められたり認められるのは気持ちいいぜぇーって言ってなかった?」

「式典だと好きに騒げないんだよ。てか、それ俺の真似か? 似てねぇよ」

「結構うまく真似できたと思うんだけどなー。でもそっか。でも私はこういった事も普段は着ない色んな服着れて好きだけどなぁ。ねね、ユウくんはどう思う?」

「え? あ、うん。かわ……似合ってると思うよ」

「私じゃなくて、ユウくんが色んな服着れることどう思ったか聞いたんだけどなー?」

「うっ!?」

「ふふっ、でもありがとね」


 嬉しそうに笑うメイに、僅かにユウの頰が赤くなる。


「街の皆さんの笑顔が増えていました。これもやっぱりユウさんが『砦城』相手に一歩も引かずに勝ったからですからね」

「いや……奴を倒す事は出来なかった。本当の意味で勝つ事は出来なかったよ」


 明るく言うクリスティナに対して、ユウは悔しげに否定する。

 『砦城』は重傷こそ負ったものの未だに健在。完全な勝利とは言い難い。


「だから、今度こそ勝つよ。みんなと一緒に」


 その言葉に、全員が笑みを浮かべた。


「みんな、誰か来たよ」


 ファウパーンの言葉から数秒後、部屋がノックされる。

 ノックよりも先に気付いたのは彼が獣人の血を引くからこそだ。


「失礼致します! ユウ・プロターゴニスト殿!」


 やがて扉が開かれ、現れたのは純白に赤を基調とした装飾が施された鎧に身を包んだ麗しき女性の集団であった。

 銀糸を織り込み、魔族からの攻撃を防ぐ効果もある外套を纏い、聖剣には劣るが魔を祓う剣(つるぎ)を吊った『聖騎士』である彼女は、魔王軍との戦いで中核を担う部隊。


通称『純白の聖騎隊(ヴァルキリー)』と呼ばれ、ユウ達が他の国や都市を救う間"トワイライト平原"にて魔王軍の侵攻を防ぐ役割を持っている。


 彼らは皆一様に『聖騎士』の称号を得て魔王軍に対して有効な聖気を扱える。一人一人が魔族とも渡り合えるほどの実力者であり、その全てが女性である。


 女性のみではあるが、全員歴戦の戦士であり、相性にもよるが複数で相手取れば魔族でも有数な上位魔族すらも討ち取れる。その存在は無視出来ず、マーキュリーからも警戒され、例の部隊(・・・・)と呼ばれ勇者に次ぐ警戒対象であった。


 その中でも騎士長であるマルグリット・バーベラは、短いポニーテールをした青髪の女性であり、美眉(びゆ)の整った顔立ちをしていた。

 その身は鍛えられており、均整の取れた身体であった。


「貴方様のお陰で『砦城』からの脅威は一時的にはあるが解放された。我々もこうして一度王都に戻る事が出来ました。感謝します」

「いえ、僕達だけの力じゃありません。共に戦ってくれた"トワイライト平原"全ての人々のおかげです。それに僕達が各国を回れるのは貴方達『純白の聖騎隊(ヴァルキリー)』の力添えがあってこそ。そして、共に戦ってくれたこの国の兵士皆様の活躍があってこそです」


 微《かす》かにマルグリットは、はにかむ。


「貴方にそう言って頂けると光栄です。共に戦った戦友も、散った盟友も皆浮ばれる」


 胸を手に当て、黙祷するように目を閉じる。

 『砦城』との戦いでも何人もの犠牲が出た。無念だっただろう。だが、勇者にこう言ってもらえるのなら僅かでも慰《なぐさ》みになる。


 マルグリットは部屋を見渡し、やがてクリスティナを見つけると微笑んだ。


「やぁ、元気にしていたかい? クリス」

「マル姐様! お久しぶりです!」


 マルグリットとクリスティナは同じ教会で過ごした仲である。

 神童と呼ばれ、期待されつつも畏れ多さから同世代には敬遠されていた彼女を気にかけてくれたのが年上のマルグリットであった。以来、クリスティナはマルグリットに懐いた。

 『聖騎士』となり、『純白の聖騎隊(ヴァルキリー)』となったマルグリットが"トワイライト平原"に配属となった後も、クリスティナは手紙を送り続けた。


 その為二人は仲が良く愛称で呼び合う。


「本当はもっと早く会えたらよかったんだけどね。そうもうまくいかなくて。魔王軍のせいで」


 同じ"トワイライト平原"という区域にはいたが、広範囲に広がった戦場故に二人は会うことが出来なかった。


「でも、こうして会えただけですごく嬉しいです! あの、マル姉様達はこれからどうするんですか?」

「私達かい? 私達はこれから各方面に挨拶の後、休暇を貰う手筈になっているよ」

「そう。これでやっと、私はケーキを食べられるっ……!」

「戦場だと、暖かいご飯も中々食べられる。長かった……」

「お風呂も長く入れませんし」


 一気に騒々しくなる『純白の聖騎隊(ヴァルキリー)』。

 戦場では雄々しく戦う彼女らも、元は女性。やはり常に戦場にいるのは中々にストレスらしい。

 こほん、とマルグリットは態とらしく咳をする。


「……喜ぶのは結構だが勇者様方の前です。私語は慎むように」


 何処か不機嫌そうに語るマルグリットに、俄かに緩んでいた他の純白の聖騎隊は背筋を伸ばす。

 その様子にごくりと喉を鳴らすファウパーン。


「厳しい人なんだな……」

「違うよ、ファウパーンくん。マル姐様、戦っている時の方がイキイキしているんです。それで戦場から離れることになってので、ちょっと不満が溜まっているんです」

「えぇ!? それじゃあ、『聖騎士』じゃなくて『戦士』だよ」

「俺としちゃ、親近感が湧くがな」


 同士を見る目でオーウェンはマルグリットを見る。

 その間にも、己の考えを熱弁するマルグリット。身振り手振りを交えながら語気を強める。

 

「そもそも、我々は女神様から使命を受けし者! ならばこそ、魔王軍をちぎっては投げ、ちぎっては投げすべきなのだ! それこそ、例え泥にまみれようとも、血反吐を吐こうとも! それこそが」

「隊長、折角王都に戻ってきたのに、血生臭い話はやめましょうよー」

「そうですよ。それに、私達だって人間なのですから休息を取らねば倒れてしまいます」

「うっ」


 熱意を込めて語りすぎた事を悟るマルグリット。

 さっと見ればユウ達も若干苦笑いだ。


「まぁ、来ているのは私達だけじゃない。ユウ殿に会いたいという人物がいます」

「僕達に?」


 注目を集めたのを恥ずかしがったのか、微かに頬を赤く染めたマルグリットが咳をし、話題を変える。


「やぁ、そろそろ入っても良いのかい? 流石に楽しげな声を外で聴くだけでは、寂しくなってきてた所だよ」

「は、はっ! どうぞ、アテノール司祭!」

「!」


 ひょこっと扉から現れたのは白い布地に金の刺繍、胸元に女神教の証である紋章がある礼装に袖を通した老人。


 その人物を見た時、ユウは思わず身を固めた。


「やぁ、『真の勇者』殿。こうして会うのは久々ですな。ご息災でしたかな?」


 好々爺(こうこうや)の人好きのする朗《ほが》らかな笑みをする老人。


 女神教の最高責任者、司祭アテノール。

 全ての人は等しいと組織でも捧げられる中の、実質的な女神教の長であり、その穏和な人柄と親身な姿勢から多くの人々から人気と敬慕の募(つの)る人物である。


「貴方は」

「おじいちゃん! ……あっ、違ったアテノール様!」


 ユウが何か言う前に反応したのはクリスティナであった。


「ほほほ、あの小さな小さな豆粒のような子が、立派に育って嬉しい限りだ。女神様もお喜びになられているだろうの」

「そこまで小さくありませんでしたよ!! もうっ、からかわないで!」


 普段は大人びようと背伸びをするクリスティナも、アテノールの前では年相応の表情を見せる。


「なになに、クリスちゃん。どういう関係?」

「あ、えっとですね。おじっ、アテノール様は教会でまだわたしが『神官』の前の『神官見習い(アコライト)』の頃、よく面倒を見てくれたんです。孤児だったわたしを」

「なるほど、なるほど。それでおじいちゃんね。ふふっ、クリスちゃん、おじいちゃん子だったのね」

「はっ! う、うぅ……!」

「はっはっはっ! 別にいいじゃねぇか。いっつもクリ坊は背伸びしようとしてたからな。年相応の一面があって安心……イデェッ!?」

「だれがクリ坊ですか!」


 爆笑するオーウェンが錫杖の柄で足を強く踏まれた。


「いって、何すんだよ!?」

「余計な事を言うオーウェンさんがわるいんです! わるい子です!」

「だけど、思い切り踏む事はないだろ!!?」

「そうだぞ、クリスティナ。怒った時は相手の口を黙らせるのだ。こう、相手の顎に向かって拳でジャブをだな」

「真面目な顔して更に悪化させようとしてる!!? マルグリットさん、煽るのはやめてくださいよ!」

「メイ姉がめちゃくちゃツッコミに回ってる……。すごい、"トワイライト平原"にいた時よりも混沌としてるよ」

<キュルル>


 ガヤガヤと騒がしくなる。

 その様子を苦笑いで見つめるユウ。


「『勇者』殿」

「! ……なんでしょうか?」


 そんな彼に近付くアテノール。


「先ずは感謝を。貴方のおかげでまた一つ脅威が退けられた。これでまた悲劇に嘆く人々が少なくなった」

「いえ、僕は自らの責務を全うしただけです。それに、僕一人だけの力ではありません。あの場で戦っていた全ての人の功績です」

「なるほど、謙虚ですな。流石は女神様に選ばれた『真の勇者』様ですな」


 普段ならば友好的に、人好きのする笑みを浮かべるユウ。

 一見すれば和やかに会話する両者だが、付き合いの長い幼馴染のメイだけが気付いた。


 ほんの少しだけ声色が固いということを。


(ユウくん……)


 それも無理らしからぬこと。

 何故なら司祭長アテノールはユウにとって複雑な人物である。



 ユウを『真の勇者』であると女神教として告げた人物であり。

 フォイルを『偽りの勇者』であると世間に告げた人物でもあるのだから。



 思う所はある。

 だが、それをおくびにも出さずにユウは和やかに会話をする。


 本心を押し殺して。

 その様子をメイは心配そうに見つめ、せめてと彼の側に立つのであった。


「こんばんは、司祭様!」

「おぉ、メイ・ヘルヴィン殿。お久しぶりですな」


 その後も会話は続く。

 賑やかな客室だが、ほんの少しだけ緊張感の漂う邂逅となった。


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[一言] 更新ありがとうございます 閲覧履歴にちゃんと残してよかったです
[一言] 更新待ってました‼️ 次回の更新もいつまでも待っております
[一言] お久しぶりです! 更新ありがとうございます!
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